漂流ロックバンドの異世界ライブ！〜このくだらない戦争に音楽を〜

二十二曲目『反撃の音色』

「＿＿せやぁッ！」

　気合一声。超強化された一撃で兵士たちを斬り倒し、その動きのまま後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。

　もう何人倒したのか分からないけど、一向に減る様子がない。むしろ、どんどん増えていっている気さえしていた。

「あぁ、もう！　どれだけ闇の兵士を増やしてるんだよ！？」

　悪態を吐きながら一度ア・カペラを解除し、光属性に切り替える。

　魔力を一体化させて白い光を放つ剣身を、勢いよく振り回した。

　白い円形の斬撃が兵士たちを飲み込んでいき、魔力との一体化を切らさないままグルリと体を横回転させる。

「＿＿＜レイ・スラッシュ！＞」

　空中で横回転しながら振り下ろした剣の軌跡に沿って、白い斬撃が放たれた。

　光属性の魔力に飲み込まれた兵士が地面を転がり、その体から闇属性の黒い魔力が霧散していく。

「みんなは……よし、かなり先に進んでるな」

　スタッと着地してから、先に進んでいるみんなの場所を確認する。

　俺がいる町を一望出来る高台を降りて、町に入る手前で黒いヘドロのモンスターと戦っていた。

　時間稼ぎは充分だ。そう判断した俺は、光属性から音属性の魔力に切り替え、地面を蹴る。

「＜アレグロ！＞」

　敏捷強化（アレグロ）を使い、一気に兵士たちの間を駆け抜けた。

　グングンと速度を上げて高台を駆け降り、黒いヘドロのモンスター相手に苦戦しているみんなのところへと向かう。

「た、タケル！　キリがないんだけど！　どうにかして！」

　斧を振り下ろしてワイバーン型の黒いヘドロのモンスターを斬り飛ばしながら、やよいが俺に向かって叫んでいた。

　黒いヘドロは闇属性の魔力＿＿光属性以外の攻撃は全て飲み込まれ、同化してしまう。

　攻撃して吹き飛ばしてもダメージがない相手に、やよいたちは足止めされていた。

　高台を降り終えた俺は勢いよくジャンプし、やよいたちの頭上を飛び越える。

「任せろ！　＜レイ・スラッシュ！＞」

　空中で光属性の魔力を練り上げ、全体重を乗せてワイバーン型の黒いヘドロを斬り捨てた。

　光属性の魔力を喰らったワイバーンは声にならない悲鳴を上げながら、弾け飛ぶ。

　地面を滑りながら着地した俺は、やよいたちの方を振り返りながら剣を構えた。

「俺が先行する！　アシッド、殿を頼んだ！」

「はいはい、分かってるよぉ！」

「ウォレス、サクヤは黒いヘドロに触れないように吹っ飛ばせ！　俺がトドメを刺す！　やよいと真紅郎はレイドとロイドさんを守ってくれ！」

　それぞれに指示を出してから、俺たちはすぐに動き出す。

　合流地点の広場まで、あと少し。体力を気にせず、突っ走るしかない。

「……＜レイ・ブロー＞」

「＜ストローク！＞」

　サクヤは音属性の魔力と一体化した拳で地面を殴りつけ、衝撃によってモンスターを打ち上げた。

　そして、宙を舞ったモンスターたちをウォレスは目の前に展開していた魔法陣にドラムスティックを叩きつけ、音の衝撃波で俺がいる方へと吹き飛ばす。

　そこを、光属性の一撃で一気に片付けながら、俺たちは先を急いだ。

「あと少しだ！　みんな、頑張れ！」

　黒いヘドロのモンスターは、至るところから俺たちを襲ってくる。

　ロイドさんを背負っているレイドを守るように、やよいと真紅郎はモンスターに攻撃して足止めして、ウォレスとサクヤが遠くに吹き飛ばす。

　最後に俺がトドメを刺し、アシッドは後ろから追いかけてくる兵士たちを雷属性の魔法で感電させる。

　全員が一丸になって町を疾走し、ようやく合流地点の広場にたどり着いた。

　だけど＿＿。

「レイド！　ヴァイクとローグさんは！？」

　そこには誰もいなかった。

　空を見上げてもヴァイクとローグさんの姿はなく、闇夜にワイバーン型の黒いヘドロの群れが飛び回っている。

　モンスターを倒しながらレイドに向かって叫ぶと、レイドは顔をしかめて空を見上げていた。

「おそらく上空にいるモンスターに邪魔されている！　奴らをどうにかしないことには、迎えは来れない！」

「嘘！？　あんな上にいるモンスターを倒すなんて、無理だって！？」

　斧を振り回しながら、やよいは飛び回っているモンスターを見て声を張り上げる。

　普通にジャンプしても届かない距離だ。それに加えて、周りにはモンスターと追いかけてくる兵士たち。

「てことは、ここで迎えが来るまで堪えなきゃいけないってことだね……ッ！」

「ヘイヘイ、そいつはちょいとキツいぜ！？　頼みの綱はタケルしかいねぇんだ、魔力が切れちまうぜ！？」

　冷静に状況を判断した真紅郎は、冷や汗を流しながらベースの弦を弾いて魔力弾を放つ。

　音の衝撃波でモンスターを蹴散らしているウォレスの言う通り、俺の光属性の魔力も無限じゃない。

　長期戦は厳しい、かと言ってここで堪えないと捕まる。

「……ライブ魔法、は？」

　地面を殴りつけた衝撃でモンスターを吹き飛ばしながら、サクヤが問いかけてきた。

　ライブ魔法、か。たしかにライブ魔法を使えば、ここにいる敵全員を殲滅することが出来るだろう。

　でも一つ、問題がある。

「ライブ魔法の準備が終わるまでの時間稼ぎを、アシッド一人に任せられないだろ！？」

「そうだねぇ、さすがに俺一人は厳しいよぉ」

　ライブ魔法には準備が必要だ。そのための時間稼ぎを出来る人は、アシッドしかいない。

　だけど、このモンスターの群れと兵士たちをアシッド一人で戦うのは不可能だ。

　ライブ魔法をやりたくても、準備する暇がない。だから、無理だ。

「じゃあどうするの！？」

「分かってる、今考えてる……ッ！」

　縋るように叫ぶやよいに、俺は必死に頭を働かせる。

　この状況を打破するには、ライブ魔法しかない。そのための時間稼ぎの方法、そして演奏する曲。

　戦いながら思考を巡らせろ。勝機を見出せ。

　歯を食いしばりながら頭をフル回転させていた＿＿その時。

　＿＿荘厳な琵琶（・・）の音色が、戦場に静かに響き渡った。

「＿＿え？」

　突然の音色に、思わず足が止まる。

　俺だけじゃなく、他のみんなも今の琵琶の音色が聞こえたようで、目をパチクリとさせて驚いていた。

　今のは間違いない、アスカさんの奏でる琵琶の音色だ。

「どうして、今……」

　剣を薙ぎ払ってモンスターを蹴散らしながら、音がした方に目を向ける。

　今の琵琶の音色は＿＿ロイドさんが持っている、マイクから聞こえていた。

「……なんだ？」

　レイドに背負われていたロイドさんが、呆気に取られながら腰元に差していたマイクを掴む。

　すると、またマイクから琵琶の音色が響き渡った。

「ねぇ、今……」

「あぁ、俺も聞こえた」

　驚いているやよいに、頷いて返す。

　間違いない。琵琶の音色と一緒に、アスカさんの声が聞こえた。

　＿＿私に任せて。

　そう、言っていた。

「＿＿あぁ、そうか。その手があった」

　すぐに理解した俺は、ニヤリと笑みを浮かべる。

　俺と同じ考えに至ったのか、やよいたちも頬を緩ませていた。

　アスカさんの声が聞こえなかったのか、レイドとアシッドだけは訝しげな表情を浮かべている。

「タケル、何か考えがあるのか？」

「なんでもいいけど、どうにか出来るなら早くしてねぇ！」

　俺たちが何をするつもりなのか分かっていない二人だけど……ロイドさんは信じられないと言わんばかりに、目を見開いていた。

「おい、嘘だろ……本当に、お前なのか……？」

　どうやらロイドさんには、アスカさんの声が届いていたようだ。

　そして、ロイドさんは何かを堪えるようにキュッと唇を噛みながら、レイドの肩をポンッと叩く。

「レイド、だったな。俺を降ろしてくれ」

「何を言って……」

「大丈夫だ。それよりも、タケルたちがやることを手助けしてやってくれ。それでいいんだろ、タケル？」

　確認するように目を向けてくるロイドさんに、俺は力強く頷いた。

「ちょっとだけ待ってて下さい、ロイドさん。今からあなたに、会わせます（・・・・・）から。レイド、アシッドと一緒に時間稼ぎを頼んだ」

「……了解した」

　理解は出来なくても何かを感じ取ったのか、レイドは言われた通りにロイドさんをゆっくりと降ろす。

　そして、アシッドと一緒に周りにいる敵に向かっていった。

　残されたロイドさんを守るように、俺たちは定位置について構える。

「＿＿よし、やるぞ！」

　切っ先を地面に突き立て、柄の先に取り付けてあるマイクを口元に持っていく。

　全員の準備が整ったのを確認してから、大きく息を吸い込んでマイクに向かって声を叩きつけた。

「＿＿ハロー！　どこかで見てる闇属性！　よくも俺たちのことを手のひらで転がしてくれたな！」

　今も俺たちのことをどこかで眺めているであろう闇属性に向かって、ビリビリと空気を震わせながら叫ぶ。

「散々弄んでくれたお礼だ！　お前に驚くような光景を見せてやる！」

　さぁ、始めよう。

　ここからは、俺たちのステージだ。

　今までの鬱憤を晴らすように叫んでから、俺は静かに語りかけるように呟いた。

「＿＿英雄の再臨（・・・・・）だ。行くぜ＿＿＜Ｔｏｄａｙ　ｉｓ　ｔｈｅ　ｄａｙ＞」

　静寂に包まれた戦場で、曲名を告げた俺の声が波紋のように広がる。

　そして、やよいは弦を流れるように弾き鳴らし、アコースティックギターの音色が優しく奏でられた。