コンバットルージュ

リリアJS605sが普段使っている武器は、<コンバットルージュ>と名付けられた、主に女性向けの護身用として、フライマット社が製造販売した小型拳銃であった。正式名称はワルサーPPKレプリカ。


これも、デザートイーグルレプリカやスーパーブラックホーク・1903リプロの原型となったそれと同じ頃に流通していた拳銃を模して造られたものである。


手の小さい女性にも扱いやすいようにとオリジナルよりもさらに小型化され、口径は二二口径のみ。威力は決して強くないが軽量で発射時の反動も少なく女性が護身用として使うには十分な性能があるとして人気を博した。


しかしこの拳銃の一番の特徴は、コンバットルージュという名の通り、女性にも喜ばれるようにと口紅をイメージしたカラーリングが施されている点だと言えるだろう。特に一番人気の<赤の女王>と呼ばれる艶やかで鮮やかな赤で塗装されたボディーが目を引くモデルは全体の販売数の四割を占め、彼女が使っているものもまさにその<赤の女王>であった。


ただ、この拳銃は、あくまで護身用であり確実に相手を殺傷することを目的には作られていないこともあって、一発ではCLS患者を処置出来ないことがままあった。だが彼女はそれを気にしていなかった。銃弾は豊富にあり、しかも彼女は一回につき必ず二発は撃ち込むので、充分に対処出来るからだ、


「さあ、おいでなさい。私があなたを天国にいざなってあげる」


今日も、時折現れるCLS患者を相手に彼女は笑みを浮かべながら着実に役目を果たしていった。それはどこか、彼女自身の悦びであるかのようにさえ見えた。


事実、彼女にとっては悦びであったのだろう。主人の性癖に応え罵り虐げることを悦びとして認識するようにカスタマイズされたのだろうから。


「ここは素敵ね。私のお仕置きを待ってる人がこんなにたくさんいるんだもの。あの人がいなくなってどうしようって思ったりもしたけど、ここに来られたのならむしろ良かったかも」


三人のCLS患者を立て続けに処置した彼女が満足気に微笑みながらそう言った時、少し離れたところで突然、ビルの残骸が音を立てて崩れ落ちた。爆撃によって破壊された建造物が風化などによりさらに崩壊するのは、ここではよくあることだった。


「うふふ、まさに終末を思わせる光景ですわね。でも、私にとってはユートピアかも知れませんが」


右手に持ったコンバットルージュを、まるで本当の口紅のように唇に滑らせ、彼女は艶めかしくそう言った。その姿は、少女のような見た目とは裏腹に、まさに悪女の貫録であった。


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