狙撃

ロボットである彼女にとっては小型で軽量のハンドガンであるデザートイーグルレプリカを再び使えるようになったフローリアCS-MD9は、順調にCLS患者の処置をこなしていった。彼女も先のアレクシオーネPJ9S5と同じく墓を築いていき、その数は既に二百を超えた。


この拠点は、大型の商業施設と近隣の小さな町のほぼ中間辺りの道沿いに位置する為か、民家はさほど見当たらない割にCLS患者の数は多いように思われた。しかも、大型の商業施設の買い物客だったと思しき女性や子供の数も多い。それがまた痛ましかった。


偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSウイルスの恐ろしいところは、ウイルスと細菌両方の特性を併せ持ち、カビのコロニーのような塊を作るだけでなく、カビの胞子そのものとも言える状態になって空中を浮遊し、吸い込んだ生物の体内で増殖するという点にもあった。しかも、ほんの数個吸い込んだだけでも感染、生物の種類によって発症するものとしないものがあるものの、発症する生物の場合なら限りなく百パーセントに近い確率で発症するのである。


だから、ロボットは感染しなくても、ロボットの体に数個の胞子がついているだけで感染が広がってしまうのだ。さらには風に乗ってどこまでも広がっていく。上空に上がればジェット気流に乗って海さえ超える。しかも、いかなる薬品や化学物質も通用せず、とんでもなく強力な放射線を浴びせるか三百度以上の高温で数十秒焼かないと死滅しないのだから、一度パンデミックが起きれば封じ込める方法はない。それこそ、惑星そのものを封鎖しない限りは。


こんなものがもし他の惑星に広がれば、その被害はとどまるところを知らないだろう。故に、総合政府の判断は仕方ないものだったとも言えるのである。


そんな背景がありながらも、彼女はやはり淡々とCLS患者の処置に当たった。だがその日は、朝からCLS患者が現れなかった。そこで彼女は、遠くにいるCLS患者を処置する為に、テルキネルFJ3スナイパーライフルを持ち出し、樹齢数百年はありそうな杉に似た木に上り、そこから狙撃を開始した。


一人、二人と数百メートル離れたところにいたCLS患者を処置していったが、さらにその向こう、直線距離にして三千メートル近く離れた川岸を歩くCLS患者を発見し、彼女はスコープを覗き込んだ。ロボットの自分が補正を掛けても射程ギリギリである。


それは、幼い子供のCLS患者だった。いや、CLS患者の筈だった。姿が綺麗で顔色も他の患者に比べれば悪くなかったが、意志を感じさせない緩慢な動きがCLS患者であることを示していた。何より、もはやこの惑星上に感染者以外の人間はいない。だから彼女は、躊躇うことなく引き金を引いたのだった。


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