グローネンKS6
アレクシオーネPJ9S5がいくら戦闘能力を持つと言っても、あくまでも要人警護の任務で必要な程度のものである。純粋な戦闘用であるグローネンKS6が相手ではさすがに敵う筈もなかった。そこで彼女は戦うことを避け、逃走を図った。だが、グローネンKS6は、そんな彼女を追ってきた。
アレクシオーネPJ9S5の最高速度は、整備された舗装路であれば時速百キロ。自動車並みの速度が出る。荒れ地などではむしろ自動車よりも早い場合もある。しかし、グローネンKS6の最高速度は、戦闘形態で時速百五十キロ。バイクに似た高速移動形態となれば時速二百キロまで出る。逃げ切れる筈もない。
サバンナでライオンに襲われた人間のように、彼女はなすすべなくその牙に捉えられ、見る間に原型を失っていった。非常に高い防弾性能を持つ外装も、超振動ブレードの牙や爪の前には生身とさほど違わない。だが、完全に機能を失う直前に繰り出したナイフがグローネンKS6の装甲の隙間に滑り込み、メインフレームを傷付けた。
「キピ…ッ!?」
小さな鳴き声のような音を発しつつグローネンKS6の戦闘モードが破壊され、別系統だった通常モードに切り替わり、攻撃衝動に従う獣そのものだった姿が、文字通り<借りてきた猫>のように大人しくなったのだった。
しかし時すでに遅く、アレクシオーネPJ9S5は完全に破壊され、機能を失っていた。
「……」
グローネンKS6は作業用マニピュレータを伸ばし、彼女の後頭部からバックアップ用のメモリーカードを取り出し、自らのスロットに挿入した。ウイルス等の驚異を調べ対処するので少し時間はかかったが、彼女に与えられた任務と状況を理解し、まるで彼女の無念を悼むかのように
「……!」
だが、日が完全に落ちた頃、グローネンKS6は立ち上がり、闇の中を走り始めた。途中でCLS患者と遭遇するとその頭部を破壊して処置し、さらに走った。
やがて目的地に辿り着いたのか速度を落とし歩くグローネンKS6の前にあったのは、<自殺>した先任のアレクシオーネPJ9S5の残骸だった。彼女の拠点へとやって来たのだ。
「……」
挨拶をするかのようにアレクシオーネPJ9S5の残骸の前で座り再び頭を垂れたグローネンKS6は、そのままそこで動かなくなった。
それから数日が立ち、
「……!」
何かに気付いたらしいグローネンKS6が頭を上げて視線を向けると、そこには一人の女性、いや、メイトギアが立っていた。主がいなくなった拠点を利用する為にこちらに向かってきた、新しい<廃棄品>である。
彼女の名はフローリアCS-MD9。白人系の外見をもっていたアレクシオーネPJ9S5よりはややエキゾチックな印象のあるメイトギアであった。
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