コトリとシノブ
「カランカラン」
カウベルが鳴る木製の扉を開けるといつものバーです。
「コトリ先輩、ホントに良かったのですか」
「後悔してないよ。あの二人は結ばれる運命にあったんだよ。今のコトリには、はっきり見えてるの」
「でも・・・」
「そうね、なかなか上手くいかないものだよね」
シノブはジン・フィズを飲みながら、
「私の時も見えたのですか」
「あの時はまだ見えなかったわ。でも、絶対に上手くいく予感があったんだ」
コトリはワイルド・ターキーをロックで飲んでいます。
「今回は急いだから、ちょっと手を出したけど、ミサキちゃんとマルコは必ず結ばれてたよ。それ以外だったら、マルコはともかくミサキちゃんは幸せどころか不幸せになるって」
「そうなんですってね。特命課で天使の調査をやった時に、幸せになっていない天使が多くて驚きました」
「コトリもこれは知らない方が良かったって思うぐらいだもの。女神が宿れば女性としての、これでもかの魅力を与えられるし、人として能力も信じられないぐらい向上するわ。でもその代償もあったってところ」
「運命の人以外では超不幸せになるのはキツイね」
シノブはマスターを呼んで、
「次はショートがイイわ。ちょっと酔いたい気分なの。なんにしようかな、思いつかないからマティーニにする」
「ジンは何にいたしますか」
「ボンベイ・サファイアでお願い」
やがてきたマティーニを口にしてから、
「コトリ先輩、それだけじゃないんでしょ」
「そうね、これはまだ確信がないけど、運命の人と結ばれた女神は守られるらしいの」
「だからミサキちゃんの件は急がれたのですね。でもコトリ先輩はどうなされるのですか」
「コトリはどうしようもないよ。次座の女神の宿命みたいなものだから」
コトリはマルガリータをオーダーします。シノブは、
「やはりミサキちゃんも連れて行きますか」
「う~ん、シノブちゃんも来ない方が良い気がするんだけど」
「ここまで来て、置き去りはイヤですよ」
「守られるといっても、どれぐらい守られるかわからないし」
二人の会話は途切れがちになります。
「コトリ先輩、ここまで来たら会うのが宿命だと思います」
「でもユッキーはどう出るかな」
「そればっかりは、やってみないと」
「首座の女神は、その気になれば女神を取り上げてしまうことも出来るんだよ。それでもイイのシノブちゃん。このままなら、保証付で佐竹君と幸せな一生を送れるんだよ」
またもや二人の間に沈黙が広がります。
「私はユッキーさんには夢の中で一度お会いしただけですが、そんな人とは思えませんでした」
「コトリは可愛くなったユッキーには会ってないからなぁ。高校時代の氷姫だったユッキーはそりゃ、怖かったんだから」
「でも今は違う」
「どうだろう」
ここのところ、この問題で同じところを堂々巡りしている二人です。
「コトリ先輩も会わなければ良いんじゃないですか。会ったとしても、やばそうだったら、眠っている主女神が宿ってる加納さんと、首座の天使を宿した山本先生と話すだけにするとか」
「ユッキーにはわかるよ、コトリがどんなつもりで会いに来たのかを」
「じゃあ、やめましょうよ」
「えへ、女神がいなくなれば結婚できるとか」
「もう、コトリ先輩ったら」
コトリは、グラスを飲み干し、
「たぶんね、次座の女神のコトリが首座の女神に会うのは避けられない宿命だと感じてる。そこで、どうなろうともね。ハッピーエンドの可能性だってあるんだし」
「そろそろミサキちゃんが返事を持ってくると思います」
「そうだね、やっぱりミサキちゃんは行かない方がイイね」
「そのためのマルコでしょ」
そこからしばらくは黙り込んでいましたが、コトリがポツリと、
「また歴女の会したいね」
「パァッと、やりましょうよ」
「それもイイかもね」
「お別れの会みたいなものかな」
「それじゃ、男も呼んで盛り上がろうか。コトリは女神がいなくなったら会社を辞めるわ。人としてのコトリじゃ今の仕事はできないから」
「それは私も同じ」
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