第1392話 お爺様を紹介されました



「お待たせ、タクミ君。レオちゃんやクレアちゃん達も」

「えーと……?」


 この場でただ一人、にこやかなスマイルを浮かべて俺達に声をかけるのはユートさん。

 エッケンハルトさんは、申し訳なさそうな表情で一歩下がっている。

 とりあえず、この人たちは誰なのだろうと俺には戸惑った表情を浮かべるしかできない。


「お、お爺様……!?」

「うぇ!?」


 驚きの声を上げて、一番年老いた……というのは失礼な気がするけど、髭を蓄えたお爺さんへとクレアが駆け寄った。

 クレアのお爺さん!? って事は、ティルラちゃんのお爺さんで……って同じ事だな。

 いかん、驚き過ぎて頭の中がまとまっていない。


「まさかエルケリッヒ様が来られるとは、思いもよりませんでした」

「じじ様です!」

「久しぶりだな、セバスチャン。それから……おぉ、クレア、ティルラ。大きくなったな。うむうむ……」


 セバスチャンさんに頷き、クレアと同じく駆け寄ったティルラちゃん達を見て、顔を綻ばせた……えっと、エルケリッヒ様?

 篝火しかないため、少し眩めながらもわかるくらい目を潤ませている姿は、孫娘をかわいがるお爺ちゃんといった風だ。

 よく見れば、エッケンハルトさんに似ているというか、エッケンハルトさんがもっと年を取ればこうなるんだろうなぁ、といった感じで体つきも似ているのか大柄。

 服の上からでもわかる筋肉の盛り上がりは、年齢に似合わないが体を鍛えているからだろう……肉体派なのは親子そろってなのか。


「タクミ殿、紹介する。我が父にして先代公爵、それからクレアとティルラの祖父、エルケリッヒ・リーベルトだ」


 一歩下がっていたエッケンハルトさんが前に出て、俺にその人を紹介してくれる。

 先代公爵様かぁ……そりゃ確かに、エッケンハルトさんがあの方と言ってもおかしくないよなぁ。


「あ、えっと。タクミ・ヒロオカです。タクミとお呼び下さい」

「ふむ、そなたがタクミ殿か。話は聞いている……ワシの事は、エッケンハルトと同じで良い。もう息子に譲っているから、公爵家の当主でもないからな。しかし……ふむふむ……」

「えーっと……?」

 

 こちらからも、できる限り失礼にならないように頭を下げて、自己紹介をする。

 エルケリッヒ様……エッケンハルトさんと同じという事だから、エルケリッヒさんか。

 エルケリッヒさんは俺を見て、踏む踏むと言いながら何度も頷いている。

 その目は、クレア達に向けるのとは違って鋭い……なんか、同じような事がエッケンハルトさんと初対面の時にあったような……?


 皺の多い顔ながらも、鋭い目から受ける印象は精悍の一言だ。

 セバスチャンさんも十分まだ若いと言えるけど、それ以上の年齢っぽいエルケリッヒさんからは、若々しい印象も受ける。


「エルケ、とりあえず他のも紹介しとかないといけないからね。ちょっと待っていて。……あんまり、タクミ君を値踏みしていると、後ろに怖いのがいるから気を付けて」

「お、おぉ、そうでしたな。失礼しました。タクミ殿もすまなかった」

「い、いえ……」


 ユートさんが声をかけてくれて、ちらりと俺の後ろに視線を送ったエルケリッヒさん。

 後ろに怖いのって……あぁ、レオか。

 レオ自身は特に怒る事もなく、というか何もされていないのだから怒る必要はないんだけど、首を傾げてエルケリッヒさん達を見ているだけだ。

 まぁ、少し鼻をスンスンさせて匂いを嗅いでいるのは、口に出さないでおこう……レオとしては、初めて会う人達の事を少しでも知ろうとしているっぽいからな。


「それじゃ、エルケとの話はまたにして、こっちからの紹介だね。この子はテオドールト。それから……怖くないから、顔を出していいんだよ? こっちは、オフィーリエ。まぁ、僕の親戚って思ってもらえればいいよ」


 エルケリッヒさんに下がってもらい、今度は目立っていたもう一人の紹介……と思いきや、もう二人だった。

 もう一人は、少年の足下にピッタリとくっ付いて隠れていたから、見えていなかったようだ。

 えっと、テオドールト君とオフィーリエちゃんかな?

 テオドールト君の足下にいたのは、女の子だな。


「余の名はテオド……」

「はいちょっと待った。タクミ君達、少しだけ待っててねー、あはははは……」


 自己紹介するためだろう、一歩前に進み出たテオドールト君の言葉を遮り、ユートさんが軽いチョップと共に口を塞ぎ、そのまま乾いた笑いを発して俺達から離れて行った。


「今、余って言ったような……?」

「タクミ殿、すまないが今のは聞かなかった事にしてくれ」


 途中で遮られてしまったけど、気になる言葉だったので呟いて視線でエッケンハルトさんに投げかけると、申し訳なさそうにしながらも、目を閉じて首を振られた。

 ……触れない方がいいみたいだ。


「テオドールト様って、私聞いた事があるのだけど……?」


 クレアは、テオドールト君の名を聞いた事があるらしいけど、面識はないみたいだな。

 印象的にエルケリッヒさんとその孫、みたいな感じだったけどクレアと直接面識がないのなら、祖父と孫ってわけでもなそうだ。

 まぁ、ユートさんの親戚とも言っていたし……という事はやっぱり王家か。


「そうでございますね。王国民であれば知っていてもおかしくない名かと。エルケリッヒ様、どういうことなのでしょう?」

「……ユート閣下の決めた事だ。ワシからは何も言えん。それにしても……クレアは美しくなった! ティルラはまだやんちゃそうだが、のびのびと育っているようだな! うむ、これは将来美人になるぞ!」

「私、姉様みたいになれますか?」

「もちろん! 数年後が楽しみ、じゃ!」


 クレアに頷いたセバスチャンさんは、エルケリッヒさんに問いかけるけど……そちらもエッケンハルトさんのように、首を振って応えられない様子。

 とりあえず誤魔化すためか、クレアとティルラちゃんに意識を集中させる事にしたようだ。

 ティルラちゃんは確かに将来美人になるだろうけど……語尾の「じゃ」は、今唐突に付け加えたような白々しさがあった。

 普段はそんな話し方をしない人なんだろう、行っている事は本心だろうけど。


 それはともかく、ユートさんに連れて行かれたテオドールト君と、足下にくっ付いていたので強制的に連れて行かれたオフィーリエちゃんだ。

 そう思って、少し離れた場所でヒソヒソと話しているユートさん達の方を見た――。



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