第1355話 髪油に使える植物を思い出しました



「ですから、その油を使う以外では時間をかけて手入れするしか方法はなく……」

「成る程……そういう事ですか」


 臭いがあるのは、動物性の髪油だからだろうか? 原料はわからないみたいだけど、魔物が好むという点からなんらかの動物の油だと予想される。

 まぁ、馬油を使った髪油もあるから、似たような物だろうと思っておく。

 聞いてみると、髪を手入れするための油というのはそれ一種類らしい。

 植物性の髪油とかないのか……俺が思いつくのは、椿油や菜種油くらいだけど。


 あと、ミネラルオイルっている鉱物油もったっけ、リンスや化粧品に使われているらしい。

 鉱物油は抽出が難しそうだし、そもそもあるかわからないので除外するとして……。


「椿油とか……いい香りのイメージだけど違うんだよなぁ」


 思考に集中して、一人呟く。

 椿油といえばその名の通り、椿の実や種子から採取しているため、甘い椿の花の香りを想像するけど少し違う。

 伯母さんが使っていたんだけど、少しだけ独特な香りがするんだ。

 あれも苦手な人は苦手か……でも、クレア達が言っていた髪油の臭いよりはマシかもしれない。


 魔物が好むかどうかはわからないけど。

 でもあの独特なにおいは、多少緩和させる方法もあったはず……伯母さんはどうしてたっけ……?


「椿油、とはなんですかタクミさん?」

「ん? あぁ……えっと、椿っていう花の種とかから採取した油で……」


 俺が呟いていた言葉が聞こえたのか、不思議そうな表情で聞いて来るクレア。

 気付いたら、ライラさんやルグレッタさんも興味深そうに俺を見ている……やっぱり皆、女性で髪の手入れが気になるんだなぁ。

 特にルグレッタさん、あまり気にしていないような事を言っていたけど、やっぱりそこは女性って事なんだろう。

 まぁ、ユートさんを気にしてかもしれないけど。


「椿、花から得られる油というのなら、いい香りがしそうですね」

「うーん、あれも花とは少し違って独特な香りがするんだけど。人によって、苦手な人もいるみたいだし。でも、髪にはすごくいいらしいよ。俺のいた場所では、昔から使われていた物だから」


 期待するようなクレア達に、一応釘は刺しておく。

 好きな人も嫌いな人もいる香りだから、クレア達が気に入るかはわからないからな。

 でも椿油か……かなり古い歴史で、ずっと使われてきたっていうのは知っているけど、いつからかまではわからない。


 確か、西暦千年代にはなっていなかったはず……?

 まぁ歴史はともかく、その効果は確かなものだから香りは別としてお勧めはできる。

 体に悪い物じゃないし、確か食用にだってできるはずの物だ。

 当然髪に付ける時、手に付いても問題は……ん……?


「タクミさん?」

「あぁ、ごめん。ちょっと思いついた事があって……」


 椿油の事を考えていて、ふと思い出したというか思いついた事があったので、訝し気な表情になってしまったんだろう。

 クレアに呼ばれて表情を崩し、笑いかける。


「思いついた事とは、今話していた椿油の事ですか?」

「はい。まぁ、髪とは関係なかったりするんですけど……」


 俺の知識はほとんどが伯母さんからのもので、その記憶も所々抜けている……俺自身使った事がないからな。

 だから、詳しい事は調べてみないとわからないと前置きをしつつ、微かな記憶を頼りに椿油に関する話を、馬車に乗っているクレア達に伝えた。

 椿油は、おそらく化粧品……昨日ヘレーナさんやライラさんから話しを聞いた、手荒れの解消もできるはず。


 手荒れ用……ハンドケア用というよりもスキンケア、つまり肌の手入れにも使えるわけだ。

 保湿効果があるとか、純度が高い日本産がいいとか、そういった話を伯母さんから聞いたのを微かに覚えている。


「つまり、椿油は全身に……使うかどうかはそれぞれですけど、髪に限らずどこにでも使えるってわけです」

「どこにでも……それはすごい物ですね!」


 俺の話に、興奮気味のクレア。

 ライラさんやルグレッタさんも、コクコク頷いているから興味津々といったところだろう。

 あとで聞いた話だけど、現状の化粧品と言えば効果はともかくとして、種類が多くそして高価らしい。

 毎日使えるのなんて、それこそクレアのような貴族に連なる人くらいだけとか。


 そして、一日で使う種類も多いのでそれ一つで複数の役割を担う事ができる椿油は、とても喜ばれるだろうとの事。

 あれも使ってこれも使って……というのを考えたら、ある程度一本化できるのは手間が省けて確かに喜ばれるだろうな。

 ……まぁ、ここまで話していてなんだけど、髪油用の椿油がスキンケア用にできるかわからないし、そもそも油を抽出して使えるようにする方法を考えなきゃいけないんだけど。

 あと、椿からどれだけの油を採取できるかも、やってみなければわからないわけで……。


 ちなみに、椿が作れるかどうかは問題じゃない。

 以前、屋敷の庭園を整備する時に『雑草栽培』で作れるのを確認しているから。

 いや、正確には似ている草花なんだけど、椿は本来樹木で雑草……草本とは違うからな。

 ゴムの時みたいに、『雑草栽培』頼みで作れたわけではなく、こちらの世界にあった植物みたいだ。


 その名もカメリアで椿の英名だな……ダンデリーオンみたいなものだ。

 地球での呼び名と似ている物、同じ物はおそらく俺やユートさんのような異世界から来た人間が発見し、名前を決めたからなんだろう。

 もしくは、文字を読む、言葉として聞いた時などに、俺達が知っているものとして翻訳されているとかなのかもしれないけど。

 それはともかく、椿の草本版カメリア……セバスチャンさんに借りた薬草の本には、絞った汁を使うとか効能もそれらしい事が書かれていて、描かれている絵も椿とかなり似ていた。


 まぁ、樹木ではないから別物ではあるが、多分あのカメリアなら椿と同様の効果があるはず。

 群生地がダンデリーオンと同じく、どこか遠くの国らしい事だけが問題だけど、それは『雑草栽培』で作れば問題じゃなくなる。


「ランジ村に着いたら、ちょっと色々試してみたい事ができたなぁ」


 できるかどうかはわからないし、またさらに自分を忙しくしてしまった気はするけど。

 クレアやライラさん、ルグレッタさんから受ける期待の視線でやってみるだけはやってみようと決めた――。



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