第1345話 ユートさんに皆が呆れました



「うん。気になる女性ならいるけど、好きって程じゃないね。誰かを好きって、それなりに激しい感情でしょ?」

「激しいかどうかは、場合や人にもよるかなって思うけど……というか、気になる女性って言った? 誰の事?」

「僕の事になると、タクミ君が生き生きとし始めた……僕の中では、誰かを好きになるっていうのは激しい感情なんだよ。まぁ、昔からそうだったからね」


 昔というのは、王妃様になった奥さんの事だろうか? それとも指輪をあげた女性の事かな?

 いずれにせよ、激しい感情であるからこそ浮気なんて事になったのかもしれないが。


「で、興味津々みたいだから話すけど……気になる人っていうのはルグレッタの事だよ」

「「「っ!」」」


 あっけらかんとした言い方で、本当に気になっている人として言っているのか少々疑わしいけど、出てきた人の名前に俺だけでなくフィリップさんも、そして考え込んでいたニコラさんも超反応。

 二人には俺から今回の趣旨を説明してあるし、ルグレッタさんの事も知っているし、好みなどを聞き出す事に協力するのを了承してくれている。

 さっきは一瞬玉砕の可能性を考えたけど、これはもしかするともしかして……?

 ちなみに、クレアが気付かなかったルグレッタさんのユートさんへの気持ちは、ニコラさんも気付いていたりする。


「……なんか、いきなり皆からの注目度が上がった気がするけど?」


 そりゃそうだ……と言いたいのを我慢する。


「知っている人の名前で、それもユートさんといつも一緒にいる人だから、驚いただけだって。というか、ユートさんとルグレッタさんってそういう関係じゃないかって、思っていたんだけど……?」

「そう見える? ルグレッタが僕のお目付け役として、ずっと付いてくれるからだろうけど。実は違うんだ」


 俺から精一杯のルグレッタさんへの援護射撃。

 少しでも、ユートさんがルグレッタさんを気になる素材を増やせればいい。

 ……やり過ぎたり、突っ込み過ぎたりすると気まずくなってしまいそうだけど、今のはまだセーフな反応だと思う。


「これまでも、男女問わず国内を旅する事はあって、その時について来るのはいたんだけどね……その中でもルグレッタは、一番僕の事を冷ややかな目で見てくれるんだ!」


 あぁ、そういう……気になっている理由がわかって、俺も思わず興奮気味のユートさんを冷たい目で見てしまった。

 ルグレッタさんには敵わないけれど。


「お、タクミ君もいい目をするね!」


 褒められてもうれしくない。


「もうね、ルグレッタのあの目は本当に体の底からゾクゾクするんだよ」

「それは悪寒とか、そういうものじゃ……? 俺も見た事があるけど、あの目は人に向けるような感じじゃなくて、汚物を見るような……」


 若干……いや、完全に引いている様子のフィリップさん。

 それでも突っ込んで聞けるのはちょっと尊敬する、かもしれない。


「それがいいんだよ! 僕の行動に対して冷たく身も凍るような目! 悪寒なんてちゃちなものじゃなくてね、芯から震える感じなんだ!」

「あ……駄目だこの人……」


 しんせいだなぁ……あえてどんな漢字を当てはめるかまでは、考えないでおく。

 ユートさんの好みとかを聞こうとして、図らずもルグレッタさんの好みを疑ってしまいかねないこの状況。

 その後もしばらく、熱っぽくルグレッタさんの事について語るユートさん。

 男性が女性について語っているのに、これほど気持ちが上がらない、ドキドキしないというのは珍しいと思う。


「……そんなわけでね、これまでも色んな人にお願いして、ルグレッタみたいに冷たい目で見下すようにしてもらったんだけど……ルグレッタ程の素質を持つ人はいなかったんだ。そういう意味で、今一番気になる人はルグレッタだね」


 ルグレッタさんの素質……そんな部分を認められても、本人はかけらも嬉しくないんじゃないだろうか?

 あの人、本質としてはどちらかというと冷たい人というわけではなく、暖かい人のような気がするから。

 リルルとか、フェンリル達への接し方を見ていた俺からの印象だけど。


「えっと、もう少しこう……なんというか……」

「これは気になっている、って事でいいのか微妙な気が」

「某でも、ルグレッタ殿が不憫に感じます……」

「あれ……どうしたのタクミ君? それに他の二人も……?」


 言葉にできない気持ち、やるせなさに似た何かが沸き上がるのを感じる。

 フィリップさんやニコラさんも似たようなもので、意気揚々と話しているユートさんを見て引いていた。

 俺達三人の雰囲気や視線に気付いたユートさんは、不思議そうに首を傾げる。

 そこでどうしてこんな雰囲気になっているのかわからず、不思議そうにできるユートさんは、ある意味すごいと思う……尊敬や見本にはしたくないけども。


「冷たい目とか、そういう部分はとりあえず置いておこう」

「え、僕にとっては一番大事な事だよ!? 昔のあの子がさ、ルグレッタと少し似ているんだよ。同じような素質があるって意味でね」


 別の方向に話を持って行こうとしたら、無理矢理ユートさんに引き戻された。

 昔のあの子って……さっき聞かなかった事にした結婚していたっていう奥さん、つまり王妃様の事だろうか?

 ……成る程、つまりユートさんはその頃から変わらず、もしくはその奥さんの事もあって、俺やフィリップさんだけでなくニコラさんまでをも凍り付かせる趣味になったって事なのかもしれない。

 という事は……。


「置いておけなかったから一応聞くけど……それじゃあユートさんの求める女性というか、好みは冷たい目をして見下してくれる人って事でいい、のかな?」


 自分で言っていて、どんな好みだよと心の中で突っ込みたくなってしまう。

 難儀な趣味だなぁ。


「それだけじゃないけど、重要な要素の一つだね。他には……一途な子とかいいよね」

「それ! そういうのが聞きたいんだ!」

「おぉう、凄い反応された。ちょっと恥ずかしいなぁ」


 また冷たい目に関して云々かんぬんと語られると思いきや、ユートさんから別の好みについて触れてくれた。

 思わず反応してしまっているけど、これまでの流れからこうなるのは仕方ないと思う。

 フィリップさんもニコラさんも、俺の言葉に続いてうんうんと何度も頷いていたし……ユートさんは少し驚いたみたいだけど。

 ただ、指輪の件がありながら一途な子とはどの口が言うのか……なんて事は話が進まないので、口には決して出さないでおいた――。


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