第1245話 衛兵さんから気になる目撃情報を聞きました



 フェンリルに対するご褒美に関して考える……今、俺とライラさんは既に荷物を持っているので、どうすればいいか。

 他の使用人さんがいてくれれば、その人に頼むんだけど……リーザに持ってもらうにしても、一人じゃあまり多くは持てないからなぁ。

 まぁ、レオに荷物を括り付けて、俺達で何かご褒美の食べ物を買えばいいかな? と考えていたら、ライラさんから衛兵さんに頼んでみればと提案される。


 仕事の邪魔になるから……と思っていたら、ちょうど休憩に入る衛兵さんが数人、小腹を満たすために食べ物を買いに行くところだったようだ。

 それを見て、ライラさんが俺に提案してくれたんだろう。


「すみません、よろしくお願いします」

「はっ、お任せ下さい!」


 少し申し訳なく思いながらもお願いすると、衛兵さん達は快く快諾。

 屋台でソーセージや肉系の食べ物を買って来てもらえる事になった、もちろんお金は俺が出すけど。


「タクミ様、少々よろしいでしょうか?」


 門の外に出て、買い物に行ってくれた衛兵さんや、フェンリル達が戻って来るのを待っていると、一人の見覚えがある衛兵さんから話しかけられた。


「貴方は……以前スラムで会った」


 スラムでディームを取り押さえた後、話をした衛兵さんだ。

 夜でしかも雨が降っていたから暗かったけど、その顔は覚えている。


「はい。あの時はご協力下さりありがとうございました。それでその、失礼ながらお聞きしておきたい事がございます」

「俺にですか?」


 衛兵さん……確か隊長とかそういう役職を持っている人だったと思うけど、そんな人が俺に聞く事ってなんだろう?


「最近、森の方で何やらフェンリルの目撃情報が増えているのです。いえ、正確にはフェンリルらしき姿ですが」

「フェンリルの? でも、街南の森にはフェンリルはあまりいないって聞いていますけど」


 ラクトス南の森には、フェンリルはあまりいないとフェリーから聞いた事がある。

 いる事はいるけど、群れでは基本的に森の奥にいるため街には近づかないし、人が入ってくるくらいの場所にはいないだろうと。

 もしいるとしたら、フェルのようにはぐれたフェンリルくらいだとも。

 フェル以外にも、はぐれたフェンリルがいたのかな?


「はい、街から近い場所ではこれまで、フェンリルを見たという報告はありませんでした。奥の方でそれしき姿を見た、というのでしたらありましたが」

「もしかしたら、群れからはぐれたフェンリルかもしれません」

「それも考えたのですが、どうやら目撃情報では複数いたようなのです。もしかしたら、群れで移動でもしているのか? と考えて……フェンリルの事であれば、タクミ様に聞いた方がよろしいかと考えまして。クレア様の方には、これから報告を上げるところでした」

「そうですか、群れで……」


 一体だけなら、はぐれたフェンリルという可能性もあったけど、複数ならそれも違うか。

 何やら、俺がフェンリルの専門のように思われているようだけど……実際に目の前で、フェンリル達が俺の言う事を聞いているのを見られているので、否定はできない。

 少なくとも、今ラクトス周辺でフェンリル関係に詳しいのは、俺なんだろうし。


「その目撃した人は……目撃情報が増えているという事は、複数で人達かもしれませんけど、フェンリルに近付いたりは?」

「いえ、見てすぐ森を出たようです。付近では、公爵様よりフェンリルを発見しても刺激するなとのお触れが出ております。それに真っ当な者であれば、そもそもフェンリルだと思えば逃げます」

「そうですよね……」


 以前、フェンやリルルと森の中で出会った時、人間の方から何かしない限りは襲わないでくれ……と言ったようなお願いをした。

 フェリーにも確認したけど、レオ……シルバーフェンリルを従える俺からの命令として、他の群れも含めて森にいるフェンリル達に、何もしてこない人間を襲わないとなったらしい。

 ……命令というより、お願いだったんだけどそれはともかく。

 エッケンハルトさんの方も、人間が森に入ってフェンリルを見つけても、むやみに襲い掛からずそっとして多くよう、通達すると言っていたのがちゃんと実行されているらしい。


 まぁ、それでも無視してフェンリルにちょっかいを出す人間もいるかもしれないけど。

 今のところ聞いていないが、人間が襲い掛かって降りかかる火の粉を払うように、フェンリルから攻撃されても自業自得だ。


「えーっと、この街の南にいるようなのは知らない、と。今も気配はないし、最近近付いたような感じもしないから、見間違えじゃないかって? うーん、そうかわかった。ありがとう」

「ワフ」


 とりあえず、レオと今いるフェンリル達に聞いてみた。

 見間違えかぁ、そういう可能性もあるのか? あ……。


「もしかして、ウルフを見てフェンリルと見間違えたって事はありませんか?」

「ウルフとですか……こうして見ていると、佇まいからしてウルフとは違うと思うのですが、あり得なくなないですね」


 佇まいと衛兵さんが言った途端、お座りしていたフェンリル達が胸を反らして誇らし気にする。

 気高い姿を見せたいのかもしれないけど、それだと褒められ待ちにしか見えないんだが……フェンリル達が楽しそうだからいいか。

 リーザに言って、ライラさんと反らした胸部分を撫でてやるように頼んだ。


「えっと……そうそう、フェンリルとウルフですね」


 衛兵さんとの話に戻る。


「見慣れていると、簡単に見分けが付くくらい違いがありますけど……森の中は暗いですし、視界が悪いですから。近くではなく、遠目に見たら間違えるという事もあるかなと思うんです」

「それは確かに。特に最近はタクミ様やクレア様が、レオ様だけでなくフェンリルを連れていらっしゃることが多いです。見慣れたからこそ、見間違えたのかもしれません」


 何度かフェリー達を連れて、ラクトスの街中を歩いたりしたからな。

 大きさや毛色から、シルバーフェンリルとフェンリルは遠目から見ても、絶対間違えそうにないくらい違いがあるけど、ウルフとフェンリルはちょっと微妙だ。

 じっくり近くで見ると、毛の質感がフェンリルの方がふわっとしていたり、体が大きかったり、他にも違いはあるんだけどな。



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