第1243話 買い物を終わらせて帰路につきました



「……そうですか? 本当に、よろしいのでしょうか?」


 なんで残念そうなんだ……。

 その後も「意匠を凝らした馬車を用意し、それごとクレア様へ!」なんて派手な送り方の提案や「今店にある花瓶を差し上げますので、その中にお買いになられた花瓶に花を挿してクレア様に!」という宝さがし的な意味のわからない提案をされた。

 もちろん全部断ったけど……終始ハインさんが興奮気味だったのが謎だ。

 目的の花瓶を買うのに、随分疲れてしまったなぁ。


 ちなみに買った花瓶は、シンプルだからこそ逆にデザイン性があるという意味なのか、値段は他の物より少しだけ高かった。

 大体銅貨五十枚前後の物が多かったけど、俺が買ったのは銅貨八十枚ってくらいだけど……プレゼントとしては、決して高い買い物ではないな。


「ふぅ……さて、あとは……」


 疲労を感じる息を吐きながら、花瓶以外の目的のために再びハインさんに案内をしてもらって店内を回る。

 ハインさんには、気持ちは嬉しいけど商品を見せてもらって、俺が選んで渡すので……と念押しをして、興奮しないように気を付けた。

 あとリーザは他の店員さんにお願いして、そちらはそちらで買い物をするようだ……ちゃっかり小遣いの残りを持って来ていたらしい。


 何を買うのかわからないけど、そうして自分の欲しい物を遠慮なく買う気になれるのは、以前の遠慮していたリーザからすると、良い傾向に思える。

 ……グルカナイフを買った時のように武器を買ったり、サバイバル的な道具だったりしたら、ちょっとデリアさんとレオを交えて相談したいところだけども。



「ありがとうございました、ハインさん。また来ますね」

「はい。タクミ様、リーザ様、またのお越しをお待ちしております。頑張ってください!」

「ははは……はい……」

「ありがとうございましたー!」


 満足のいく買い物をした後、ハインさんにお礼を言って雑貨屋を出る。

 見送ってくれたハインさんに、元気よく手を振るリーザに、振り返す店員さんを朗らかに見ながら、レオとライラさんの所へ。

 最後にハインさんが、俺へのエールのつもりなのか両手で作った拳を頭上に上げていたけど……まぁ背中を押されている程度に考えておくとする。


「お待たせしました、ライラさん、レオ」

「ママ、ライラお姉さん。えっと、ただいま?」

「はい、お帰りなさいませ、タクミ様、リーザ様」

「ワフワフ!」


 外で待ってくれていたライラさんとレオに声を掛けつつ、街の外へ向かって移動を開始。

 おとなしく待ってくれていたレオには、リーザと一緒に褒めるように撫でておいた。

 まぁ、待っている間はライラさんがずっとレオを撫でていたみたいだけど。


「そういえばリーザ、結局何を買ったんだ?」


 歩きながら、まだ何を買ったのか教えてもらってなかったなと思い、リーザに聞いてみる。


「えへへー。えっとね……これ!」

「そ、それは……」

「あら」

「ワフ?」


 レオの背中に乗っているリーザが、小さな布に包んであった中から勝った物を取り出す。

 嬉しそうに見せるリーザの手の中にある物を見て、俺とライラさんは思わず声を出した。

 レオは、位置的に見えないため不思議そうに鳴くだけだったが。


「ふふふー、ママみたいでしょー?」


 リーザが買った物は、以前俺がティルラちゃんにプレゼントした……狼の飾りが付いたネックレス。

 見覚えのあるそれを見て、俺とライラさんは驚いていたわけだ。


「う、うん。そうだな。リーザにとっても似合いそうだ」

「うん!」


 少しぎこちなくなってしまったけど、リーザにとってはレオのように思える装飾品。

 嬉しそうにしているのに水を差さないよう、微笑みかけると満面の笑みを浮かべて頷いた。


「こういった偶然もあるんですね……ふふふ」

「まさか、リーザが俺と同じ物を選ぶなんて……飾りを見て言う事は、ティルラちゃんと同じですけど」

「ふふ、タクミ様もリーザ様も、お二人共レオ様が大好きなのが伝わってきますね」

「ま、まぁ……」


 驚きつつも、朗らかに微笑むライラさん。

 選んだ動機や、飾りについての言葉も、ほとんど俺やティルラちゃんと同じっていうのは、面白くはあるけど。

 ただ、相棒のレオを大好きと評されるのは、なんだか気恥ずかしいな。

 もちろん、大切な相棒で可愛い奴だと思っているけどな?


「おや、タクミ様ではありませんか」

「ん? あぁハルトンさん。こんにちは」


 欲しいものが買えて嬉しそうなリーザを眺めながら、街の外へ向かっている途中でハルトンさんとばったり出会った。

 何やら、荷物を抱えているようだけど、どこかへ届け物でもするところだったんだろうか?


「ちょうどこれから、ランジ村へ完成したスリッパを送る手配をするところです」

「じゃあ、それが?」

「はい。以前クレア様方と考えた新しいデザインの物もありますが、多くは注文されていた物になります」


 荷物は、俺が注文したスリッパだったらしい。

 こういった荷物の発送のほとんどは、街の入り口で衛兵が立ち合って隊商などにお金を払って頼むか、領内を回っている兵士さんに頼むか、それとも自前で馬を借りるなりなんなりして届けるかのどれかだ。

 ハインさんの雑貨屋では、大きめの家具がばかりだったから自前で人手も含めて用意したみたいだけど。

 発送にかかる費用もちゃんと購入金額に上乗せされるから、注文する時に教えてもらった。


「それなら、今俺が受け取ってランジ村に持って行きましょうか?」

「しかし、隊商などに頼む費用も含めて、すでにお支払いいただいておりますから……」

「まぁ、ついでって事で。もし気になるのなら、次にまたハルトンさんのお店で買い物をした時、その分を割り引いてくれればいいですよ」


 ハルトンさんはこれから衛兵さんの所で、輸送を任せられる人を探すところだったんだろうけど、それなら俺が受け取っておいて持って行った方が手っ取り早い。

 ティルラちゃんのギフト判明騒動があった後、キースさんが契約と支払いを済ませていたので、輸送費用は既に払ってある。

 けどその分は、また買い物をする時にでも割引として考えてもらえばいいかなと思う。


 ……キースさんには怒られそうだけど、どうせハルトンさんのお店ではスリッパも含めてこれからも買い物はするだろうし。

 ランジ村に行っても、一番近い大きくて物が揃っているのはやっぱりラクトスなんだから――。



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