第1191話 リーベルト姉妹は多大な魔力の持ち主のようでした



 とにかく、再び生き生きとし始めたセバスチャンさんから、ティルラちゃんが倒れた事から不思議な声が聞こえる事など、もしかしたらギフトを持っているのではないか……という予想をしたと説明される。

 説明前後のセバスチャンさんって、肌艶が良くなって十歳くらい若返って見えるよなぁ。

 それだけ、本人にとっては楽しい事なんだろう。


「成る程ねぇ、ティルラお嬢様にギフトが……」

「えぇ。私達の推測ではありますが、それを確かめるために本日はここへ来たのですよ」

「わかったよ。それじゃ、ちょっと待っていておくれ……」


 驚き混じりにティルラちゃんを見るイザベルさん。

 すぐに頷いて、店の奥へと向かった……ギフトや魔力などを調べる、俺やリーザも使ったあの水晶玉のような魔法具を取りに行ったのだろう。


「ワクワクします!」

「さっきまであんなに不安そうだったのに……」


 待っている間、さっきまでの不安はなんだったのかと思うくらい、期待している様子のティルラちゃん。

 椅子に座って、左右に体を揺らして今にも「ワクワク」とか口に出しそうな雰囲気に、クレアは溜め息を吐いていた。


「お待たせしたね。ティルラ様は、前にも魔力を調べた事があるんさね?」

「はい、ここではありませんでしたけど、ありますよ! あ、あの時と同じ物です!」

「まぁ、魔力やギフトを調べる魔法具は、どれも同じ物さね。どこで調べても、同じ物が出てきますよぉ」


 俺がギフトを調べた時、リーザの魔力を調べた時にも使った、水晶玉のような見た目の魔法具。

 それを奥から取り出し、座っているティルラちゃんの前に置くイザベルさん。

 ここではなかったようだけど、以前にも魔力を調べた事のあるティルラちゃんは、見覚えがあるようだ。


「そういえば、俺やリーザ以外の魔力ってどうなんだろう?」


 ふとそう思って呟く。

 俺の時はギフトがメインだったけど、それなりに魔力があるって言われたのを覚えている。

 リーザはともかく、他の人達……例えばこの場にいるクレアやセバスチャンさんなどは、どれだけの魔力の持ち主なのだろうか?

 誰でも魔力を持っているとは聞いているけど、その平均値とかを俺は知らない。


「どうされましたか、タクミさん?」


 俺の呟きが聞こえたのか、クレアから尋ねられる。


「あ、いや……俺以外の魔力がどうなのか、知らないなぁって思ってね」


 魔法具を見ながら話すティルラちゃんとイザベルさんを眺めながら、疑問に思った事をそのまま伝える。

 ティルラちゃんは、魔法具に興味津々のようで角度を変えてあれこれ眺めていて、イザベルさんはそれを微笑ましそうに見ていた。


「タクミさん以外の魔力ですか」

「私は、人間の中では標準的といったところでしょうか……」


 ふむ、と口元に片手を当てて考えるクレアとは別に、セバスチャンさんが興味を惹かれたようで話に参加。

 そうか、セバスチャンさんは標準的か……実はかなりの魔力を持っていると言われても不思議じゃなかったのに。


「その標準的というのが、どれくらいかがわからないんですけど……」

「ふむ、そうですな……タクミ様がよく使われる光の魔法がありますな?」

「はい。シャインの魔法ですね」


 基本的に相手を怯ませるだけで、直接攻撃に向いている魔法じゃないけど、使い慣れている事と呪文が短いのでよく使っている。

 効果の程は、オークと戦った時や先程デウルゴに対して使ったような感じだな。


「あれを、大体三回から四回程度使うと、疲れを感じるくらいと言えば伝わるでしょうか……無理をすれば十回程度は使えると思いますが、その後はしばらく動けなくなります」

「三回から四回……あまり連続で使用した事はありませんけど……成る程。あ、キャンドルライトとか、火を点ける魔法はどうですか?」

「火の強さと継続時間にもよりますが、概ねシャインほぼ変わりませんな」


 ふむふむ、光を放つ魔法と、ライターの魔法はほぼ同等なのか……それじゃ、ブレイユ村へ行く途中にフィリップさんが使ったのは、結構多くの魔力を使ったっぽいな。

 まぁ、護衛兵士長になれる人だし、訓練もしているから魔力は平均よりあるんだろう。

 訓練で増えるのかどうかわからないけども。


「あ、それじゃデウルゴが使った魔法は……」

「あれは……独自の呪文で使われた魔法のようですので、詳しくはわかりませんが……私ですと一回、頑張っても二回といったところでしょうな」


 やっぱり、攻撃的で長い呪文の魔法程多くの魔力を使うのか。


「私などよりも、クレアお嬢様とティルラお嬢様ですな。お二人は飛びぬけて魔力が多いのです」

「でも、貴族の子女の魔力が多くても、あまり役には立たないわ」

「クレアとティルラちゃんは、魔力が多いんだ……」


 なんとなく、イメージ通りな部分でもあるかな。


「旦那様が、悔しがっておりましたなぁ……」


 エッケンハルトさんより、娘のクレア達の方が魔力が多いのか……それはさすがに予想外だった。

 セバスチャンさんが言うには、訓練でどうにかなるような差ではなく、クレアとティルラちゃんの魔力はかなりのものらしい。

 でもまぁ、確かに貴族の娘として生活しているのなら、あまり魔力が多くても役に立つことはないのかもしれない。

 あるに越した事はないのかもしれないけど、なくても周囲の使用人さん達がフォローしてくれるからな。


「あ、そういえばティルラの魔力って! ちょっと待……」

「それじゃティルラ様、体の力を抜いてこの魔法具に手をおいて下さいねぇ」

「はーい!」


 何かを思い出して、急にハッとなったクレアがティルラちゃんとイザベルさんに手を伸ばした。

 だが、イザベルさんに促されたティルラちゃんは、元気よく返事をして魔法具へと手を置いた。

 その瞬間……。


「うぅ……!」

「遅かったわ……」

「ふむ、ティルラお嬢様の魔力が多いとは聞いておりましたが」


 水晶玉から白くて眩しい光が発され、店内を照らされて目が眩む。

 魔法具が光るのは、俺やリーザの時と同じでわかっていたけど……かなりの光量で、室内という事すら忘れそうな程眩しい。

 外で直射日光を浴びている……いや、太陽を直接見たかのような眩しさだ。


「……ティ、ティルラ様! て、手を離して下さいまし!」

「わ、わかりました! うぅ、眩しかったです……」


 まばゆく光る魔法具の影響で、ほとんど何も見えない状態になった店内に、慌てた様子のイザベルさんの声が響く。

 同じく慌てたティルラちゃんの声……手を離したからだろう、すぐに魔法具から発せられていた光は収まった――。



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