第1172話 ティルラちゃんは元気なようでした



「お待たせしました!……どこかへ出かけるのですか?」


 レオ達に声をかけてまた屋敷の中へ入ったのとほぼ同じくらいに、元気なティルラちゃんが階段から降りてきた。

 出かける支度を済ませている俺達を見て首を傾げているが、その様子からは突然倒れた影響はなさそうに見える。


「ティルラ、目が覚めて良かったわ。これから、ヴォルグラウの主人と会いにラクトスへ行くのよ」


 ホッとしながら話すクレア。

 見れば、使用人さん達も安心した雰囲気を漂わせている……やっぱり、慕われているなぁ。

 かくいう俺も、クレアの後ろでホッと息を吐いていたりする。


「ヴォルグラウのですか? 私も行きます!」

「ティルラならそう言うと思ったわ。けどその前に……」


 クレアも予想していた通り、ヴォルグラウの話をしたら一緒に行きたがるだろうとは思っていた。

 リーザもそうだったからな……今回は我慢してもらう事にしたけど。


「私に、ギフトがですか……タクミさんと同じです!?」

「ははは、さすがにティルラちゃんは前向きだね。でも、俺と同じギフトではないと思うよ」

「推測ではありますが、ティルラお嬢様のギフトは……」


 ティルラちゃんをラクトスへ連れて行く前に、もしかしたらギフトが発現したのではないか? という推測を伝える。

 驚きつつも両手を挙げて、俺と同じギフトがと喜んでいる様子だけど……能力自体は違うはずだ。

 それらの説明もセバスチャンさんから、詳しく事情説明。

 ギフトの過剰使用により、身体に危険が及ぶ可能性が考えられるため、本当に発現したのかも含めて調べに行くべきだと。


「わかりました。私もラクトスに行って、ギフトがあるのか調べてもらいます。あるといいなぁ! どんな能力なんでしょうか?」


 ギフトについてあれこれ考えていた俺達とは違い、ティルラちゃんは前向きに捉えているようだ。

 まぁ便利な能力だし、扱い方を間違えなければきっとティルラちゃんの役に立ってくれるだろうからな……悪い方にばかり考えない事も大事なのかもしれない。


「少なくとも、タクミさんと同じではないはずね。ティルラは薬草とかを作ったわけではないでしょう?」

「言われてみればそうですね……どんなギフトなのか楽しみです。すぐに支度してきます!」

「えぇ」

「お手伝いします」


 なんというか、俺達が心配していたのがなんだったのかと思う程、元気なティルラちゃん。

 エルミーネさんを連れて、出かける準備のために部屋へと戻った。


「ふふ、元気な様子を見ていると、なんだか心配する必要はなかったのかと思ってしまいますね」

「俺も今そう思っていたよ。けど、突然倒れたからね……理由はともかく、心配するのも当然かな」

「そうですな……我々使用人も、皆胸をなでおろす事でしょう。しかし……少々元気が有り余っているような気もしますな? タクミ様の時は、あのような感じではなかったと思いますが……」


 クレアやセバスチャンさんと、苦笑いしながらも部屋に戻って行くティルラちゃんを見送って、元気な様子を喜ぶ。


「俺の時は二日……でしたっけ? ずっと寝ている状態だったからかもしれません。まぁお腹が空いていたのもありますけど、倒れた時の状況をすぐ思い出しましたから。もしかしたら、ティルラちゃんにとってはぐっすり寝て起きたくらいの感覚なのかもしれません」


 あと、皆が心配している様子を感じ取って、殊更元気に振る舞う事で安心させようと考えているのかもしれない。

 ティルラちゃん、意外と周囲の皆をよく見ているからなぁ……意外と言ったら、ティルラちゃんに悪いか。


「そうですね、ティルラがすぐに目を覚まして安心しました。ギフトの事も重く受け止めすぎず、ティルラなら悩み過ぎないように思います」

「急に降って湧いた能力とも言えますからな。場合によっては悩む者もいるでしょうが、ティルラお嬢様なら……大丈夫でしょう」


 俺は悩むよりも戸惑いが大きかったけど。

 ただギフトは便利な力であると共に、使い方によっては広く影響を及ぼす事もできる。

 それこそ、悪用だって……ティルラちゃんは優しいから、そんな事はしないだろうけど。

 でも、利用しようと考える人が出てきたり、セバスチャンさんが言うように、強大な力に深く思い悩んでしまう人だっていてもおかしくない。


 俺はレオがいてくれるし、クレアを始めとした優しい公爵家の人達に守られて、できるだけ広めないようにしているのもあって、悪意のある人物が近寄ってきたりはしていないけど。

 ティルラちゃんの場合は……あぁ、ラーレがいるから大丈夫か。

 エッケンハルトさんも、ティルラちゃんの事となれば俺以上に全力で、それこそ公爵家の権力その他を存分に振るって、守るだろうし。

 うん、ティルラちゃんがギフトに振り回されるとかは、あまり心配しなくて良さそうだ。


 もしティルラちゃんが悩むようなら、同じギフト持ちとして相談に乗るつもりだったけど、その必要はないかもな……それでも必要であれば、話をするくらいはできる。

 なんにせよ、ティルラちゃんがギフトを発現させていたら、だけどな。



 少しだけ待って、ティルラちゃんの用意……着替え以外にも、目が覚めた事をラーレやリーザ、フェンリル達に報告しに行っていた。

 その際、フェンリル達相手に言葉が理解している様子はなかったので、勝手に発動しているわけではないようで、ちょっと安心。


「それでは、出発いたします」

「ワフ!」

「バウー!」

「キャウ!」


 クレアと俺が乗った馬車の御者台に座るセバスチャンさんの合図で、ラクトスに向けて出発。

 ティルラちゃんはレオに乗り、何故かヴォルグラウの背中にはシェリーが乗っている……準備を終えて外に出た時、既に乗っていた。

 シェリーはヴォルグラウを自分の配下のように思っている様子で、心配だったかららしい……あと、何やら鳴いて指示をしていた。

 ヴォルグラウも相手が子供とはいえフェンリルだからか、おとなしく従っている……というより、時折体を震わせていた。


 うーん、やっぱり大人だとか子供だとかは関係なく、ウルフよりフェンリルの方が格上か。

 まぁ、シェリーが見下すわけではなく気遣っているようなので、俺やクレアは微笑ましく見させてもらっている。

 あと、成長しているけどまだ中型犬くらいのシェリーは、街中での護衛代わりにはちょうどいいから、そのまま連れて行く事にした――。



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