第1111話 使用人さん達の仕事が増えるのは間違いないようでした



「キースさんはどれくらいが妥当だと思いますか?」

「自分の給金にも関わるので、意見は出しづらいのですが……執事長やメイド長に金貨五枚程度、といったところでしょうか? 下に付く他の使用人には、金貨四枚が妥当な所かと」

「成る程……思ったよりも、多く考えているんですね」


 長の立場にある人は月に五十万、部下達が四十万ってとこか。

 セバスチャンさんから聞いていた、公爵家の使用人さんの給金より金貨にして一枚程度多い。

 まぁ、大雑把に考えての数字なんだろうけど。


「金貨五枚……使い道に困りそうです」

「それは、薬草の報酬をもらい始めた時に、俺もよく考えていた事ですね」


 ライラさんにとってはメイド長への昇進も一緒だから、かなりの給金アップだ。

 さすがに俺が初めて報酬をもらった時程の衝撃はないようだけど、お金の使い道に困る気持ちはよくわかる。


「タクミ様に仕える使用人は多くありません。クレアお嬢様もともに住まわれるので、使用人を連れて行くのでしょうが……仕事は今より増えそうですから、妥当でしょう。もちろん、私が欲しいからと吊り上げているわけではございません」

「ははは、そこは信用していますよ」


 使用人として雇う事を決めたんだ、信用ををしなければ雇う者として失格だからな。

 キースさんは、相場やお金に関してのあれこれに詳しいだろうから、自分の給金を吊り上げるために提案したわけじゃない事くらい、わかっている。

 それに、ランジ村の家では一部の人とも一緒に住む事が想定されているため、使用人さん達の仕事は多いだろうから、それに伴って給金が増えるのも当然だ。

 ふむ……それなら、ちょっと色を付けてというか、俺からの期待も込めて……。


「それじゃあ、執事長、メイド長には金貨六枚と銀貨六枚。他の使用人さん達には、金貨五枚と銀貨五枚にしましょう」

「……少々、多い気もします。いえ、利益の面から考えると十分に払えるでしょうが」

「私も、先程とは違って給金を高くする理由には納得しましたが、少々多くし過ぎかと思いますが……」


 俺が提案した金額に、難色を示すキースさんとライラさん。

 うん、自分達の報酬が増えるはずの提案を、しっかり反対できるのはいい事だ……使い道に困ると言っていたライラさんはともかく、キースさんはちゃんと全体の事を考えてくれているのがわかる。

 っと、二人を試したいわけじゃなく、ちゃんと理由あっての事だ。


「キースさんが妥当だと言った給金は、確かにその通りで皆が満足する金額なんだと思います。けど、多分それは想定している仕事よりさらに増えた場合の事は考えられていない、と感じたんです」

「タクミ様が用意される屋敷の規模、使用人の数や薬草畑の運営補助など、あらゆる事を想定しましたが……」

「キースさんが考えた事は、多分間違っていないんでしょうけど……フェンリルもいますからね。レオもそうですけど、人間相手のみの場合と違って、やる事が増えたり慣れない事があったりするかもしれません。それと……」


 獣人のリーザもそうなんだけど、レオやフェンリルのお世話などはキースさんでも想定しづらい。

 想定外の事はあるだろうし、人間相手とは勝手が違う事だってあるだろう。

 幸い、屋敷の使用人さんは多いので、今はなんとかなっているしセバスチャンさんが指揮してくれているおかげで、問題は出ていないが……それがランジ村でもスムーズにできるとは限らないからな。


「それに?」


 一旦言葉を切った俺に、先を促すキースさん。


「少なくとも、エッケンハルトさんは間違いなく訪ねて来ると思います。その時の歓待なども仕事に含まれるとなると、人数が足りなくなるかもしれませんから」

「お客様の歓待は考えておりましたが……旦那様ですか。想定しなかったわけではありませんが、確かに大変な事も多いでしょう」


 エッケンハルトさんは貴族で、しかも公爵様だ。

 クレアもいるし、俺も気に入られているから必ず訪ねてくるはず……というか、家が完成した時とかに来るって言っていたからな。

 俺は貴族じゃないけど、貴族を迎えるのに親しいからと言っておざなりにする事はできないので、必ず使用人さん達の仕事は増える。

 さらに……。


「タクミ様、もしかしてユート様の事も考えておいででしょうか?」

「まぁ、そうですね。間違いなく来ると思うんですよねぇ」


 ライラさんは、ランジ村へ行った時に会った事があるから、ユートさんの事も思い当たったようだ。

 同じ日本人だし、割と行動そのものは自由気ままにやっているみたいだから、絶対ランジ村に来るはずだ。


「ユート様とは……?」

「あぁ、キースさんには言っておかないといけませんね」


 キースさんはユートさんと会った事がないから、知らないのも当然か……簡単に教えておこう。


「タクミ様は、王家の方とも繋がりがあるとは……」

「まぁ、偶然というかなんというか……」


 さすがに、秘密にされている事もあるので細かい事は伝えず、王家とだけ教えたら、何やら納得と共に感心された。

 あの出会いはある意味必然だったような気もするけど、それはともかくだ。

 ユートさんは大公爵という地位らしいけど、王家でもあり、国を興した初代国王でもある。

 公爵様よりも地位が上の人が、お客様として訪ねて来る可能性を考えれば、増える仕事もあるし給金を上げるのも当然だ。


 それなりの仕事をして欲しいという現れでもある。

 エッケンハルトさんもユートさんも、多少の事では動じないし怒ったりはしないだろうけど……親しき中にも礼儀ありだからな。

 ちなみに、銀貨も追加しているのは税金分だったりする。

 税金が引かれれば当然給金も目減りするが、最初から税金分もプラスしておけば気持ち的に楽になりそうだからな……名目としてだけど、そういった名目は大事だ。


「確かに、給金を増やす理由として十分ですか……旦那様だけでなく、王家の方の歓待。大変そうです」

「大らか……と言っていいのかな? 細かい事を気にする人ではないですけどね」

「確かに、以前お会いした時は、随分と気さくな方だとお見受けしました」

「自由に旅をしたりもしているみたいですからね。ちょっとした事で怒ったりはしないでしょう。とはいえ、仕事が増えるのは間違いありませんから」



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