第1083話 暫定的に使用人さんを決める話をしました



「ライラさん自身は、メイド長になるのが嫌とか……そういう事はありますか?」

「いえ、私などが相応しいのかという考えはありますが、嫌という訳では……」

「だったら、決まりですね。まぁ、他の人達にも聞いてから本決定になるでしょうけど、俺はライラさんがメイド長に相応しいと思います」

「……過分な評価、ありがとうございます」


 特に嫌という事でなければ、少し強引かもしれないけど、俺はライラさんがメイド長になって欲しいと思う。

 とは言っても、使用人候補さん達でジェーンさんを選んだ場合、年下のライラさんの下に付けるか……とか、他の人達の意見も聞いてみないといけないけど。

 とりあえず仮ではあれど、ライラさんがメイド長という事で考えておく。


「ライラさんはすごいなぁ……うーん……」

「ミリナちゃん、どうしたの?」

「いえその……私も、もっと師匠のお役に立てたらなぁって」

「今でも十分役に立っているし、ミリナちゃんには薬草畑ができた際には、薬とかの調合を任せる事になるからね」

「そうなんですけど……私も、師匠やレオ様、リーザ様のお世話をしたいなぁって思う事もあるんです」

「あれ、ミリナちゃんは薬草や薬の勉強をして、皆の役に立ちたい、困っている人を助けたいんじゃなかったっけ?」


 確か、そもそも俺を師匠と呼んで、雇う事になったきっかけだったはずだ。

 どうしたら人の役に立てるのか、悩んで何をしたらいいのかわからなくなっていたんだったか。

 だから、薬の調合を担当していれば、知識も入って来るし勉強も怠っていないようだから、いずれ胸を張って薬師になれる日も来るだろう……と思っていた。

 けどミリナちゃんの話を聞くと、これまでの希望とはまた別の希望……将来の展望みたいなものができてしまっていたらしい。


 具体的には、この屋敷に来て俺やライラさん達を見て、お世話をするために専属の使用人になるのも悪くない、と考えているようだった。

 まぁ、何かをやっていて別の事がやりたい、と思うのは珍しい事じゃないし不思議な事でもないか。

 ともあれ、現状は薬関係の事を任せると決まっているので、ランジ村に行ってから改めてゆっくり考えて見るとの事だった。

 いずれミリナちゃんが別の道を選ぶとしても、それが後悔しない選択になるといいな。


「はぁ……」

「……えっと、ゲルダさんにも何か希望か?」

「いえ、私は特にないんですけど……失敗する癖をどうにかしないといけないなって。これまでどうにもならなかったので、どうしたらいいのかわからないんですけど」

「あー……あははは、そうですね……」


 ライラさんやミリナちゃんとの話が終わると、今度はゲルダさんが溜め息。

 こっちもミリナちゃんのように、何か悩んでいるのかと思って聞いてみると、ドジをしてしまう事についてだった。

 うーん……クレアに枝の投げ方を教えた時、何か思いつきそうではあったんだけど……こうしたらいいというのはわからないな。


 とりあえず、今度は周囲を巻き込まないように注意したうえで、ゲルダさんに料理をしてもらって観察してみようとなった。

 観察されると緊張して、さらに大きな失敗をしそうだと言っていたから、見る方法も何か考えないといけないかもしれないけど。

 休憩というよりも、悩み相談になってしまったお茶休憩を終えて、再び使用人候補さん達の選別に戻る。


「とりあえず暫定的にですけど……アルフレットさんと、ジェーンさんは決まりでいいですね」

「はい。能力的にも問題ありません」

「アルフレットさんもジェーンさんも、私から見ると洗練された動きに見えますからね」

「私は、失敗したところを優しくフォローしてくれました。本邸の使用人さんは凄いです」


 アルフレットさん、ジェーンさんはほぼ決まりでいいだろう……メイド長に関する話は、とりあえず置いておいてだ。

 ライラさん、ミリナちゃん、ゲルダさんもそれぞれ頷く。


「次に……」


 リストや詳細の書かれている書類を見ながら、使用人にする人を選んで行く。

 ライラさん達の意見も踏まえて、キースさん、チタさんがほぼ決まりだ。


「アロシャイスさんと、シャロルさんがいないのは、何故でしょう?」

「んー、アロシャイスさんはラクトスに行った時、スラムにも詳しくていいかなって思ったんですけどね。でも、それなら俺じゃなくてこの屋敷にいた方がいいのかなって」


 ライラさんからの質問。

 アロシャイスさんもシャロルさんも、能力に申し分はなく……というか使用人候補の人達は、それぞれ個性での違いはあるけど、能力が不足している事は一切ない、さすが公爵家の本邸で使用人をしていた人達だ。

 ただ、特にアロシャイスさんなんだけど、スラムに行った時の事を考えると、俺の使用人というよりは別に活躍する道があるんじゃないかと思うんだ。


「……ティルラお嬢様でしょうか?」

「はい。スラムでの事を考えたら、俺よりもティルラちゃんといた方がと思いました」

「確かに、あの方ならティルラお嬢様に助言をする事もできるでしょう。ラクトス出身ではありませんが、それは屋敷にいる他の者がいますから」

「そうですね。ラクトスの事は出身者に聞けば問題ないと思います。けど、スラムで過酷な経験をしていた人はそうそういませんから。聞けば、ラクトスのスラムはアロシャイスさんがいた場所よりも、治安が良かったりもするみたいですけど……それでもティルラちゃんがこれから、スラムに関わるのなら必要な人材かなって」


 リーザやディームの事があるから、俺の方がスラムに関わりがちではあるけど、これからランジ村に行ったらティルラちゃんの方が関わりが強くなるだろう。

 その時、アロシャイスさんなら的確な助言ができるかもしれない。

 そう考えたら、俺の使用人ではなくこのまま屋敷で働いてもらう方がいいと考えた。

 セバスチャンさんもいるから、余計な心配なのかもしれないけどな。


「アロシャイスさんに対して、タクミ様の考えはわかりました。では、シャロルはどうなのでしょう?」

「シャロルさんは……」


 シャロルさんは、やらなければいけない、お世話しないといけない、という固定観念みたいなものがあって、以前の俺に少しだけ似ているからどうしようかと悩んだんだけど――。



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