第1050話 もやしハンバーグはそれなりくらいな評価でした



 皆でのハンバーグ作りを終え、裏庭に集まって夕食を頂く。

 今日は、フェンリル達の近くで使用人候補の皆さんも一緒だ。


「ワフゥ、ワフワフ」

「ふむふむ、レオはやっぱり微妙に感じたか。フェリーも同じく……リルルは悪くない反応で、フェンは可もなく不可もなく、と」


 レオやフェンリル達にも試作のもやしハンバーグを食べてもらったが、反応はそこまで良い物じゃなかった。

 まぁ、味は大きく変わらないけど、もやしが入っている分お肉の量が減るし、もやしの食感を楽しむ感じじゃないから仕方ないか。


「ふむ、これは少々面白いですな。入っている量が違うのですか……それぞれ、違った趣があります」

「そうね……タクミさん、もやしと言いましたか? これは、どのような食材なのでしょうか?」


 レオと話す俺の向かいで、立ったまま味見をするセバスチャンさんと、座って行儀よく食べているクレア。

 二人とも、もやしハンバーグを食べているようだ。

 俺もそうだけど、人が食べる方はパンに挟んでハンバーガーした物以外に、一口サイズに切ったハンバーグをもやしの種類ごとにそれぞれ食べてもらっている。


「食べ始める前にも話したけど……ソーイからできた食材で、試しに使ってみようとヘレーナさんと相談したんだ。ソーイから出た芽を成長させた物だね。栄養……えっと、体に良くて作り方も簡単。食感もシャキシャキしていていい食材だと思うよ」

「確かに、タクミさんの言うシャキシャキ、というのはありますね」


 簡単に、もやしについてクレアに話す。


「ですが、これはもやしの量が多いのでしょう。そちらでは、あまりハンバーグに合わないように感じます」

「確かにそうですね。もやしは水分も多いから……」


 セバスチャンさんが難色を示すのは、もやしを多く混ぜたハンバーグだ。

 もやしの水分が多いせいなのか、少し味が薄く感じる……さらに成形が不十分だったのか、もやしの量が多い影響か、ボロボロと崩れてしまっている。

 シャキシャキとした食感を楽しむのならありかもしれないけど、それならハンバーグに混ぜなくても他の料理でやればいいから、これはなしかな。


「こちらは、あまりもやしが入っている感じはしませんね。少しだけ、噛み心地が変わって面白いかもしれませんけど」

「んー、そっちはもやしが少ない方だね」


 少なめにもやしを混ぜたハンバーグは、味などを邪魔する事がない代わりに、もやしが入っている事も食感でほとんど感じられなくなっている。

 噛んでいると時折感じるくらいなので、これはこれでありかもしれないけど、肉の量を減らして作るハンバーグとしては、いつものとほぼ変わらないので微妙かもしれない。

 まぁ、もやしが苦手な人がいれば、隠して食べてもらうという方向ならありかもしれない。

 フェンリル達も、もやしが少ない物なら美味しそうに食べているからな。


「とりあえず今のところは、フェンリル達用のハンバーグにはもやしを入れないか、入れても少量。俺やクレア達が食べる分には、適度に入れるって事でいいかな」

「そうですね……少量ですとフェンリル達もそうですけど、私達が食べるにしてももやしを入れる必要性はあまりないかもしれません」


 俺の言葉に、クレアが頷きながら言う。

 もやしそのものが不評っぽいフェンリル達は、そもそもハンバーグに入れる必要はないだろうし、食感を楽しむのでなければ、俺達の方にも絶対必要な物じゃないからなぁ。


「ただ、以前にも話したカロリーが少ないから、ハンバーグを多く食べても太りづらいのは確かなんだ。あと、栄養も豊富なはずなので、多く食べても問題ないですし……ニャックより料理につかいやすいかな?」


 あくまで、俺が知っているもやしとほぼ同じなら、だけど。

 味や食感は同じだし、見た目も同様だから多分栄養だとかカロリーだとかも、同じだと思うが。


「え!? タ、タクミ様、もやしを多く入れたハンバーグを作るようにしましょう!」


 太りづらい、の部分に反応したんだろう。

 クレアが椅子から立ち上がり、もやし増量のハンバーグを作る事を提案。


「いやー、それはちょっと。試食してわかる通り、もやしを多く入れたハンバーグはあんまり良くないようだから」


 クレアの反応に、苦笑しながら提案を却下……というか、慣れの問題かもしれないけど、もやしが多いハンバーグは形が崩れて不格好だし、味もいいとは言えない。

 形が崩れたら、パンに挟んでハンバーグにする時困るし、もやしを多く入れたハンバーグの案は止めておいた方が無難だと思う。


「ですけど……」

「大丈夫だよ、今ヘレーナさん達がもやしを作ったり料理を考えてくれているから。作れる量によるけど、ニャックよりは食事として出てきやすくなるんじゃないかな? ニャックを使った料理は、ちょっと無理矢理な物も多かったけど、もやしはそれより色んなものに合わせやすいし」

「そ、そうなのですね。えっと、もやしは確かソーイから作れると……?」

「ヘレーナさんはソーイからできたって言っていたね。俺が知っているもやしも、大豆……こっちではソーイと呼ばれている物から作れるよ」

「それならば……」


 俺が知っている大豆もやしより、こちらのソーイで作るもやしは緑豆もやしに近いけど。

 まぁ、細かい違いを考えてもわからないから、今は同じ物と考えておいていいだろう。


「ヘレーナからは、タクミ様に試食して頂いたと伺いましたが、味の方はどうでしたか?」


 立ったまま、何事か考えているクレアとは別に、セバスチャンさんからの質問。

 こちらはダイエットとは関係なく、純粋に美味しい物かどうかの興味があるようだ。


「そうですね……まだヘレーナさん達も試作と言っていましたから、正直ちょっとと思うのもありました。けど、中には美味しい物もあったので、問題ないと思いますよ」

「そうですか、それは楽しみですなぁ。この年になって、新しい食べ物が増えるというのは幸せなものです」


 本当に楽しみにしているようで、満面の笑みで頷くセバスチャンさん。

 ヘレーナさん達が作った試作料理は、どうしてそうしようと考えたのか……? と思ってしまうようなのもあったけど、いくつかは美味しく食べられる物もあった。

 単純な野菜炒めもそのうちの一つだな……野菜炒めなら簡単だし、味付けによって色々変えられるから、汎用性の高い料理になってくれそうだ。

 まぁそうなっても、もやしの保存期間の問題で、食材としての汎用性はあまりよくない気がするけど――。



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