第1014話 セバスチャンさんは息子さんには厳しいようでした



「フェンリルを従魔にするだけでも、歴史に残るくらいですからな。ですが、そうできたのもタクミ様がおられたおかげです」

「タクミ様が、ですか? そういえば、シルバーフェンリルを従えた方がいて、その方がこちらの屋敷に滞在していると聞きました。まさかそれが、タクミ様なのですか?」

「旦那様は、タクミ様の事をそこまで広めていないのですな。その通りです。――タクミ様、レオ様についての事も必要そうです」

「わかりました。ただレオに関しては、話すよりも見た方が早そうですね。それに、他にもありますし」


 どうやらエッケンハルトさんは、俺の事を全員には報せていない様子。

 ギフトの事もあるからかな? 知っている人が少ない方が、噂にもなりづらいし。

 ともあれ、ここに来た人たちには話しておかないといけないだろうけど……口で言うより実際に見てもらった方が、信じてもらえるはず。


 今この屋敷には、レオ以外にもフェリー達やラーレもいるから、その事も話しておかないとな。

 もしかすると、エッケンハルトさんが驚かせようとした一番のポイントはここなのかもしれない。

 レオやシェリーを初めて見た時、驚きとか色々あったからなぁ……今頃、皆の驚いた顔とかを想像して笑っていたりするかも……。


「そうですな……では、これから裏庭に移動しましょう。そこに、レオ様……シルバーフェンリルや獣人のリーザ様。他にも紹介しておかねばならない方々がおります」

「他にも……?」

「まぁ、移動しながら話しますよ。えっと、他に質問とかはありますか? なければ、裏庭に言って説明の続きをしますけど……」


 『雑草栽培』の事も含めて、客間にいるよりは裏庭に移動した方が話しが早い。

 重要な顔合わせは済んだし、全員の名前も聞いたしある程度の話もしたので、何もなければ移動だ。

 一度で覚えられたかはあんまり自信がないけど……後で、名前をリストにしてもらおう。


「……」

「ヴォルターさん、なんでしょうか?」

「あんたは、本当に……」

「ヴォルター、先に言っておきますが、タクミ様に失礼があった場合公爵家の全てが敵になる事を、理解してから話しなさい。場合によっては、ラクトスやランジ村、ブレイユ村の住民もですな」

「っ!」


 ゆっくり手を挙げたのは、話している間ずっと俺を見ていたヴォルターさん。

 しかし、ヴォルターさんが話し始めたのをセバスチャンさんが遮り、注意をする。

 ヴォルターさんはセバスチャンさんに睨まれて、息を飲んだ。

 俺が客間に入ってきた時の態度からなんだろう、セバスチャンさんが息子さんに対する当たりが強い。

 ……セバスチャンさんは、息子に厳しくする方針なんだろうか?


 まぁ、ヴォルターさんに悪い印象はそこまで持っていないけど、他の執事さん達を見ていると確かにちょっと……と思わなくもない。

 とはいえこれも、初めて会った俺の事を信用していないからだろうし、そもそも丁寧に接してくれと考えているわけじゃないから、気にする程じゃないんだけど。


「いやいや、そこまで大きな事にはならないと思いますけど……別に俺に失礼な事なんて……」

「タクミ様に仕えるのであれば、必要な事です。主人が許し、公の場でなければ多少の言動は許されるでしょう。ですが今はまだ選定される段階です。そして公爵家が、タクミ様に仕えるに相応しいと思う者を送り出しているのです。ここでの失礼な言動は、全て公爵家側のものとなりかねません」

「……確かにそうかもしれませんけど……でも、人となりがわかって、それはそれでいいんじゃないかと思うんです」

「ふむ、まぁ悪印象を与えて選ばれない可能性を考えると、自由に発言させるのも手ではありますか……」

 

 喧々諤々とは言わないけど、我慢して話をするよりは考えている事を、正直に言ってくれた方がその人がどういう人なのかがわかりそうなので、俺としてはむしろ歓迎なんだけどな。

 むしろ、こういう場でも畏まらずに不敵な態度をしてくれた方が、頼もしく感じるような気もする。

 いざとなれば、その度胸の矛先が外へ向くわけだし……ずっと俺に向くようだったら困るけど、そうなるかどうかを見るための選別でもあるんだから。


「ですがタクミ様。タクミ様は良くてもレオ様がなんと思うか、というのもあります。おそらくタクミ様が言えばレオ様は押さえて下さるでしょうが……公爵家全体の考えとしてはあまりよろしくありません。レオ様を、ないがしろにしているようにも感じられてしまいますから」

「あー、シルバーフェンリルを敬うでしたっけ」

「はい。タクミ様とレオ様を一緒に考えれば、失礼な言動はそれに反する事になるかもしれません。最悪の場合、使用人達の間ですら孤立する可能性も」


 俺が雇う事になれば、公爵家とは離されて考えるだろうけど、それでもクレア達と一緒に暮らすんだから、あまり良くはないか。


「わかりました。まぁ、あまり恭しくしなくてもいいとは思いますけど……程々に」

「はい、程々にいたします。――ヴォルター、タクミ様への発言はシルバーフェンリルに対する発言と心得なさい。そして、旦那様だけでなくクレアお嬢様やこの屋敷にいる者達は、タクミ様とレオ様への失礼な言動や害する行動を許しません。それを踏まえたうえで、話しなさい」

「か、畏まりました……失礼な物言い、申し訳ございません」


 程々って言ったのに、セバスチャンさん結構厳しい事をヴォルターさんに言っている……多少ぞんざいに扱われるくらいなら、慣れているから気にしないんだけどなぁ。

 やっぱり、セバスチャンさんは息子さんに厳しく接する方針なのか。

 ヴォルターさんは、シルバーフェンリルや屋敷の人達、エッケンハルトさんの事を聞いて、身を震わせながら返事をし、深々と頭を下げた。

 この様子を見るに、執事としての立ち振る舞いは申し分なさそうだ……まだ頭を下げた部分だけだけど、それも様になっているようだから。


 うーん……さっきまでの態度や言葉遣いは、俺への反感とか信用していないからというのも多少はあれど、どちらかというとセバスチャンさんへの反発のような気がする。

 反抗期、と言うには年齢が行き過ぎているけど……あんまり仲が良くないのかな?



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