第1012話 屋敷に来た人たちと対面しました



「失礼します」


 声を掛けながら、先に入ったライラさんに続いて客間の中に入る。

 後ろにはセバスチャンさん。

 俺が入ってきたとわかったからか、中には知らない顔ぶれが座っていた椅子から立ち上がり、こちらに一礼……えっと、全員で十名か

 それぞれ、セバスチャンさんと同じ執事服を着ている男性、ライラさんと同じメイド服を着ている女性がいる、男性六名、女性四名だな。


「……っ! ヴォルタ―!? なぜお前がここにいるのですか……」

「セバスチャンさん?」


 俺が人数を数えている間に、横に来たセバスチャンさんが客間を見渡した瞬間、驚いて声を出した。

 セバスチャンさんって結構飄々としていて、驚きを表に出す事は少ないんだけど、珍しいな。

 どうしたんだろう? 知り合い……なのは公爵家に務めている同じ執事なので、全員顔見知りでもおかしくないか。


「失礼しました、タクミ様……」

「いえ……」

「はぁ……父さんはやっぱり、俺が来る事を聞いていなかったんだな。まぁ、旦那様らしいが」

「ヴォルター、タクミ様の前です。口を慎みなさい」

「いえ、それは構いませんけど……父さんって、もしかしてセバスチャンさんの?」


 俺が声をかけると、すぐに平静を取り戻したセバスチャンさんが俺に一礼。

 謝るよりも説明して欲しかったんだけど……と思っていたら、ヴォルターと呼ばれた男性が溜め息を吐きながら話す。

 注意するセバスチャンさんに、気にしていないと言いつつ、気になる事を聞く。


「……はい。ヴォルターは私の息子で、本邸で執事を務めていました。タクミ様には、以前話しましたかな?」

「確か、森の中で聞いた気がしますね。そうですか、セバスチャンさんの息子さんが……」


 話に聞いていたセバスチャンさんの息子さん。

 ヴォルターさんは、よく見ればセバスチャンさんにそっくりだ……顔のしわなどをすくなくし、セバスチャンさんをそのまま若くした感じだな。

 若いと言っても、三十代から四十代くらいのベテラン執事さんに見えるけど。

 さすがに白髪ではないし、予想外だったのですぐには気付かなかったけど、背格好も近いし並んだらすぐに親子だとわかるだろう。


 ただ、目つきが険しいというか、こちらを窺ったり品定めするような目をしている印象なのも、すぐに気付けなかった理由の一つか。

 穏やかな目をしている事が多いセバスチャンさんとは、違うから。


「俺の事よりも、全員の紹介をしなくていいのか?」

「ヴォルター、口を慎みなさいと言ったはずです。はぁ……申し訳ありません、タクミ様」

「ちょっと驚きましたけど、気にしていませんから大丈夫ですよ」


 俺を見てつっけんどんに話すヴォルターさんを、セバスチャンさんが注意しながら俺に向かって謝る。

 丁寧な接し方をしてくれるセバスチャンさんとは違い過ぎたので、少し驚いているけど……あまり気にする程じゃない。

 年上だし、これまでの経験から丁寧な話し方をされる方が、少なかったしな。

 まぁ、こちらにの世界に来てからは、一部をのぞいて丁寧な対応をされる事が多かったけど。


 それにしても、見た目はそっくりと言っていい程なのに、話し方とか性格はセバスチャンさんとあんまり似ていないんだなぁ。

 いや、まだ会ったばかりだし、それだけで決めつけるのはいけないな。


「ありがとうございます。……では、タクミ様にそれぞれ名乗りなさい。そちらの事は旦那様から伏せられていましたから」

「では、私から……」


 セバスチャンさんに促されて、一番年上っぽい男性から順に名乗る。

 年齢が行っていて立場が上なのか、最初に名乗ったアルフレットという人が、ここに来た皆をまとめている様子だ。

 ヴォルターさんは、二番目らしいな……他にもアロシャイスさん、ウィンフィールドさんが三十代の中堅といった印象で、見た目にも若いキースさんとシルベールさんが若手といった感じだな。

 キースさんとシルベールさんが若手と言っても、俺より少し上の二十四歳と二十二歳で、成人してから執事として働いていたらしく、執事教育も経験もそれなりらしい。


 さらに女性のメイドさん達は、アルフレットさんの奥さんのジェーンさん、三十代っぽいエミーリアさんに、若手のシャロさんとチタさんだ。

 シャロさんとチタさんは、二十歳で俺と同い年らしいけどこちらも経験などはそれなりに経てきているとか。

 ヴォルターさん以外、この屋敷の使用人さんと同様に皆しっかり教育されているらしく、俺から見て問題があるような人には見えない人達だ。

 年齢的にも、ベテランから若手までが揃っており、エッケンハルトさんが真面目に選んでくれたんだろうと言うのが想像できた。


 ただ、ヴォルターさんだけは名乗った後もずっと、俺をジッと見ていて、様子を窺っているようだ。

 エッケンハルトさんの事だから、セバスチャンさんを驚かせるためとか、面白そうだとかでヴォルターさんを選んだような気がする……能力的には執事として申し分ないとは思うけど。


「タクミです。ランジ村での薬草畑をするにあたって、俺一人ではできない事も多いため、今回執事などの使用人を雇う事になりました。よろしくお願いします」


 全員が名乗った後、客間の椅子に座りながら俺からも自己紹介。


「はい、旦那様より聞き及んでおります。微力ながら、選ばれた際にはタクミ様の家を盛り立てられるよう、尽力いたします」


 アルフレットさんは、俺の自己紹介を受けて一礼しつつ力を尽くす事を約束。

 って言っても、俺の家を盛り立てるってのもなぁ……俺一人、いやレオとリーザがいるけど、貴族ではないし盛り立てる程のものってないんだけど。

 まぁ、クレアも共同運営だから公爵家に恥じないよう、真面目に務めてくれるんだと考えておけばいいかな。


「よろしくお願いします、アルフレットさん。えっと、ではまず……」


 アルフレットさんに頷き、来てくれた皆に対して詳細の説明、これに関してはどんな人が来ても変わらないので、事前に考えていた。

 俺が全員を雇うわけではなく、選んで雇いランジ村での薬草畑を……という事も含めて、あらかたエッケンハルトさんの方で説明して入るだろうけど、確認の意味も込めてだな。

 基本的には薬草畑に関する事がメインだけど、ランジ村で俺達が住む場所で使用人となる事、お金関係の事も含めて俺の補助をする事などを伝えた――。



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