第959話 コカトリス達も順調に成長しているようでした



「よし、今日はこんなものかな。ライラさん、ミリナちゃん、ありがとう。助かったよ」


 翌日、売れ行きは順調だけど品薄になる程ではない薬草作りを終え、手伝ってくれたライラさんとミリナちゃんにお礼を言う。

 ブレイユ村出発前に作っておいた薬草で足りたようで、急いで作る必要もなく、補充分を作った程度だ。

 安定して売れているらしいけど、大量に売れないのは病気や怪我などの問題がないからだろう。


 利益としては売れれば売れる程多くなるわけだが、あまり上下せず安定して売れる物も商売としては大事だしな。

 ちょっと擦りむく、くらいの怪我なら日常で済ませられるだろうけど、以前のように病気が広まったり、大きな怪我をするような騒動が起こっていないのは、いい事だと思う。


「そういえばライラさん、遅れましたけど……ブレイユ村で服のほつれの補修や、洗濯助かりました。ありがとうございます」


 ニックに運んでもらう分をまとめつつ、お礼を言いそびれていた事を思い出して、改めてライラさんに伝える。


「いえ、あれくらいはさせて頂いた方が、私としても嬉しいくらいなのですが……」


 ライラさんによる服の補修……応急処置みたいな感じだと聞いていたので、よく見たら違和感がある感じかな? と思っていたら、まったく違和感がないくらいちゃんと縫われていた。

 新品みたいとまで言えないのは、既に何度も着ている服だから当然だけど、プロが縫ったできあがりと言っても過言じゃないくらい。

 なんでも、古着を買う事が多く新しい服はいいお値段なので、多くの人がそれなりに裁縫できるのだとか。

 男女拘わらず、自分の服を補修したりするので、むしろできない人の方が珍しいらしい。


 そうは言ってもフィリップさんとかはできそうにないなぁ……なんて思っていたら、むしろ手先が器用で得意なのだとか。

 ……多くの武器を扱えるらしいし、戦い方を見ていれば器用なのはわかるけど、裁縫ができるイメージがなかったから意外だった。


「ワフ、ワフー!」

「パパー!」

「ピピ!」

「ピピィ!」

「あぁはいはい。すぐに行くからー!――すみません、ライラさん。ミリナちゃんも」

「いえ、こちらはやっておきますので、タクミ様はレオ様やリーザ様達の所へ行ってあげて下さい」

「はい、師匠。調合の方もやっておきますので」


 裏庭で遊んでいるレオやリーザ達から、そろそろ終わっただろうと声がかかり、ライラさんやミリナちゃんに後を頼んでそちらへ。

 しばらくぶりに屋敷へ戻って来たから、コッカーやトリースも含めてレオやリーザが皆一緒に遊びたいんだろう。

 薬草作りが終わったらって約束していたしな。

 とはいえ、ティルラちゃんはお勉強タイムだし、ラーレはティルラちゃんを屋根の上で待ち、シェリーはクレアと一緒だから、全員がいるわけではないけど。


「お、コッカーもトリースも、前より高く飛べるようになったのか」

「ピッピッ!」

「ピピィ、ピピィ!」

「ママの顔よりは高く飛べるようになったんだねー」

「ワフ」


 遊んでいる途中、成長したのを自慢するようにコッカーとトリースが、一生懸命羽を羽ばたかせて浮かび上がる。

 以前は、大体一メートル程度くらいしか浮かばず、ラーレに上空から落とされて落下速度を緩める程度だったんだが、今は三メートルくらいは飛んでいるかな?

 頭からは、赤い羽毛がほんの少しだけ生えてきているようだし、順調に成長しているらしい。

 今はそれでもハトにしか見えない姿なんだが、これが大きくなったらニワトリっぽくなるのか……成長って不思議だ。


 いずれは、ラーレと一緒に高く空を飛べるようになるんだろうなぁ。

 そんな事を考えつつ、レオやリーザと一緒に少しだけ裏庭を駆け回って遊んだ。

 コッカーとトリースは、飛ぶのに全力で疲れたのか、リーザの頭の上やレオの頭の上に止まっていたりもしたけど――。  



 ――レオ達と全力で遊んだ後は、薬草を取りに来たニックと会う。

 俺が屋敷に戻ってきたというのは、昨日ラクトスを通った時点でカレスさんの店へセバスチャンさんが伝えてくれていたらしい。

 まぁ、レオやフェンリル達を連れて目立っていたから、伝えなくてもわかったかもしれないが。

 ともあれ、俺が戻ってきているのでニックが直接会いたいと言っているらしく、レオ達との遊びを中断して……数分だけ休憩してから客間へ。


 無限の体力を持つレオや、リーザと全力で遊んでいたら、さすがに息切れがな。

 正直なところ、ニックが来てくれて助かったとも思う。

 剣の鍛錬よりも、レオ達と遊んでいる方が体を鍛えられそうだ……。


「アニキ、お久しぶりです」

「うん、久しぶり」


 客間に入ると、相変わらずスキンヘッドが目立つニックが、体を九十度くらいに曲げて迎えられる。

 なんというか呼ばれ方と相まって、どこぞの若頭にでもなった気分だ。


「まずは薬草だな。まぁ、不足しているのはなさそうだから、満遍なく色んな種類を作っておいた」

「ありがとうございやす! 確かに、受け取りました。間違いなくカレスさんへ届けます!」

「まぁ、これまで問題なかったから、ちゃんと届けてくれると信用してる」

「へい!」


 これまで真面目に薬草を運んでくれているから、今更ニックが薬草を届けないなんて事は疑っていない。


「それでアニキ……お願いというか相談があるんですが……」

「ん? ニックからそういう事は珍しいなぁ。一体どうしたんだ?」


 ニックから相談事というのは珍しい……もしかしたら、これがあるから俺に会いたいと言ってきたのかもしれないな。

 ……ニックの事だから、何もなくても会いたいとか言って来そうではあるけど。


「それがですね、その……今、ラクトスから新しく街道を作る作業が始まっているんですが」

「あぁ、街道整備だな。それが?」


 詳しい話を知らなければ、新しく作っているように感じるのかもな。

 正確には、街道を作るのではなく整備なんだが……レンガを敷き詰めて平坦にする作業は、新しく作るにも近い作業量かもしれない。

 ただ今ある街道に、レンガを並べればいいわけじゃないしな。


「俺から言うのもなんなんですが……スラムの奴らを、なんとかしてやれませんか?」

「スラムの……なんとかと言われてもな。どういう事だ?」



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