第957話 無事屋敷へ帰りつきました
「あ、ラーレがいるよ! ティルラお姉ちゃんもいるかなぁ?」
「きっと、私達やリーザちゃんが戻って来るのを、待っていてくれるわ」
「うん、クレアお姉ちゃん!」
屋敷までもう少し、といったところで門の近くで降り立っているラーレを発見。
リーザが俺の後ろではしゃぎ、ティルラちゃんがいるのを期待しているようだ。
さらに後ろから、クレアがリーザに声をかける。
「よーしレオ、ラーレのいるところまでもう少しだ。頼んだぞー」
「ワフー!」
「あはははは! ママ早いー!」
「きゃあ! タクミさん、いきなりは驚きますよ?」
「ははは、ティルラちゃんが待ちくたびれちゃいけないからね」
レオに声をかけて加速すると、リーザの笑い声とクレアの驚く声。
注意もされてしまったけど、その声は楽しそうでもあったから大丈夫そうだ……後ろにいるので表情が見れないのが少し残念かな?
「あ、レオ様、タクミさーん! リーザちゃんや姉様も!」
「ほらリーザ、クレアの言う通りティルラちゃんは待っていてくれたみたいだぞ?」
「はい、リーザちゃん」
「うん。ありがとう、クレアお姉ちゃん。ティルラお姉ちゃーん!」
ラーレまで数メートルくらいの距離でレオが停止すると、横に立っていたティルラちゃんが手をブンブン振りながらこちらを呼ぶ。
レオから降りながらリーザに声をかけ、クレアと一緒に降ろしてやると、お礼を言ってすぐにティルラちゃんの所へ駆けて行った。
元気なのはいい事だし、ちゃんとお礼を言えて偉いなぁ。
「レオ、ありがとうな」
「ここまで運んでくれてありがとうございます、レオ様」
「ワフワフ」
リーザと手を取り合って楽しそうにしているティルラちゃんを見て、ラーレが無事に着いて良かったとホッとしつつ、レオの体を撫でて褒めておく。
クレアも一緒に撫でて、気持ち良さそうに声を漏らすレオを見ながら、フェリー達の到着を待った。
「おや、ヨハンナの姿が見えませんな?」
「そういえばそうですね……ティルラちゃんはあの通り、リーザと一緒にいるんですけど……」
フェリー達も門の前で止まり、降りてきたセバスチャンさんがラーレのいる方を確認して首を傾げる。
言われてみれば、一緒にラーレに乗って帰ったはずのヨハンナさんの姿が見えない。
代わりに、別の護衛さんや使用人さんが近くにいてくれるようだけど。
「クレアお嬢様、タクミ様、皆様お帰りなさいませ。……セバスチャンさん、ヨハンナさんは先に屋敷の中へ。どうにも、体調が悪そうでしたので……」
「わかりました。――おそらく、ラーレにまだ慣れていないからでしょうな」
「そうみたいですね。ブレイユ村近くで合流した時も、以前ランジ村に行く時のセバスチャンさんと同じようになっていましたから」
近付いてきた兵士さんの報告によると、ヨハンナさんは屋敷の中で休んでいるらしい。
まぁ、ブレイユ村に来た時もそうだったけど、薬草があるとは言っても辛い物は辛いからな。
やっぱり、酔い止めの薬草を作るべきか、ちょっと真剣に考えた方がいいのかもしれない。
覚えのあるセバスチャンさんと苦笑し、きゃっきゃとはしゃぐティルラちゃん達やフェリー達と一緒に、屋敷の中へと入った。
……フェンリル達は、屋敷というより裏庭へ向かってもらったけど。
「なんか、久しぶりに帰ってきた感じがするなぁ。……本当に久しぶりか。最初は広すぎる部屋だと思ったけど、すっかり慣れたもんだ」
屋敷でいつもの使用人さん達による、声を揃えた迎えを受けて、一先ず荷物を置くために部屋へと戻る。
夕食までもう少しあるみたいだし、ちょっとだけゆっくりだ。
しばらくぶりに戻った部屋は、屋敷を見た時以上に懐かしい感じがして、すっかりこちらに慣れていた事を実感させた。
「ワフ、ワフワフー」
「あはは、ママくすぐったいー」
荷物を置く俺とは別に、部屋の真ん中あたりでじゃれ合うレオとリーザ。
レオはともかく、結構な距離を移動してきたのにリーザは元気だなぁ。
相変わらず、二本になった尻尾は楽しそうに揺れている……もしかして、尻尾が増えてからさらに元気になったのではないかな? と思ったけど、多分気のせいだ。
「ふぅ……よし、レオおいでー」
「ワフ? ワフー」
「よしよし、俺がいない間リーザを見てくれてありがとうなー。リーザも……」
「パパー」
「ははは、まだまだ甘えたいのかな」
とりあえずベッドに腰かけ、一息ついた後レオを呼び、改めて褒めるように撫でておく。
一緒に来たリーザの頭もゆっくり撫でてやると、座っている俺に抱き着いて来る。
ブレイユ村で合流した時も、褒めたり抱き締めてやったりはしたけれど、俺達だけしかいない部屋の中だから、ちょっと特別な感じだ。
お留守番に慣れているレオはともかく、リーザは初めて一日以上離れていたから、我慢している事が多かっただろうからな。
……それに慣れていても、俺に撫でられてブンブン振られる尻尾や、気持ち良さそうにしている表情を見ればレオも寂しかったんだろう、というのもわかるから存分に誉めておこう。
そうして、夕食の支度ができたとゲルダさんが呼びに来るまで、レオやリーザと一緒に過ごした――。
「タクミ様、少々よろしいでしょうか?」
「あ、ヘレーナさん。どうしましたか?」
夕食中は、ブレイユ村での話などをしながら食べ、食後のティータイムも終えた後、移動疲れもあるだろうから今日は早めに寝る事に決まる。
ブレイユ村まで来たので、休んでいるライラさんではなく、ゲルダさんにレオとリーザを任せ、お風呂に入って部屋へと戻る途中の廊下で、呼び止められる。
呼び止めて来た相手は、ヘレーナさんだ。
「タクミ様に相談……というより、聞きたい事がございまして。いえ、いつも頼りきりなのは申し訳ないのですが……」
「ヘレーナさんが相談とか聞きたいって事は、料理に関してですよね? 何かありましたか?」
「以前、ソーイの話はしたと思います」
ソーイ、大豆の事だな。
「はい」
「そのソーイは、暗所で風通しの良い場所で保存する物なのですが……その、一部に風が当たっていなかったようで……」
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