第867話 寝泊まりする場所へ案内してもらいました



 カナートさんに言われて、再びハッとなって気付いたデリアさんの手には、移動中も持ったままだったサーペントが握られているからなぁ……撫でる時、動かないのがわかっていてもサーペントの顔が俺へと向いているのが少し怖かった。

 ともあれ、カナートさんに言われて村のお爺さん達に届けるため、俺達から離れたデリアさんは、さすがに村の中では四足走行をしないのか、俺に声を掛けながら二足で駆けて行った。


「はぁ、騒がしいな。――タクミさ……タクミ、着いてそうそうすまない」

「いえ、元気なのはいい事ですし、見ていて微笑ましいので気にしないで下さい」

「村の奴らにも可愛がられているからな。まぁ、俺もそうだが……デリアが元気だと村も活気づく気がする」

「ははは、なんとなくわかる気がしますよ」


 溜め息を吐いて、俺へと向き直ったカナートさんが謝る。

 騒がしいのも悪くないし、屋敷ではデリアさん以上に賑やかだから特に気にしていない……レオとかシェリーとか、ティルラちゃんやリーザもいるし、最近ではラーレやコッカー達まで加わったからな。

 ……初めて屋敷に行った時と比べたら、随分と賑やかになったもんだ。

 元気なデリアさんを見ていると微笑ましくなるので、俺もカナートさんの気持ちはわかるしな。


「それにしても、タクミは凄いな」

「何がですか?」

「デリアが自分から頭を撫でさせる事だよ。村でもたまに誰かに撫でられている事はあるが、耳に触られるのを嫌がる事も多いんだ。さすがに、爺さんや婆さん達には嫌がる素振りは見せないようにしているみたいだがな。短時間で、それだけ懐いて気を許しているという事だろう」

「そ、そうなんですか……」


 レオに教わった撫で方って、そこまで効果があるものなのか? ニコラさんが言った、特別なというのがもしかしたらという気になってきてしまう。

 というかそもそも、デリアさんって俺より年上だったはず……一つか二つ上ってくらいだけど。

 自分より年上の女性を褒めて撫でるって、いいんだろうか? デリアさん自身が気にしていないどころか、要求する感じなので問題ないんだろうけど。

 ……なんとなく、クレアの前ではやらないでおいた方がいい気がした。


「おっと、村の入り口で話し込んじまうのも、あまりよくないな。そっちの馬は、村の厩で面倒を見よう」

「お願いします」

「そんで、タクミ達だが……本来は村長の家に泊まるのが、村での歓迎なのだが、今回は俺が住んでいる近くの家が空き家になっているから、そこで泊まるといいだろう。宿はないが、村に客が来てもいいように、いつでも泊まれるようにしてある」

「はい、ありがとうございます。お世話になります」


 いつまでも立ち話も……という事で、カナートさんに村の案内をしてもらう。

 馬は、村にいる他の馬たちと一緒に世話をしてくれるみたいなので、そちらに連れて行くが、任せっきりになるのも悪いと、ニコラさんが日に何度か世話をする事に決まった。

 俺達の泊まる場所は、村で歓迎しないといけない人が相手の時には村長の家が大きいし、お世話もできるからそちらになるらしいんだけど、今回はただの旅人のような扱いでお願いしている。

 なので、カナートさんが住んでいる家の近くに空き家があり、そこが宿代わりになるみたいだ。


 寝る場所を用意して、言えば食材とかも売ってくれるらしいから、後は自分達でという事らしい。

 過度に世話を焼いたり、ずっと誰かが付いている事がないのは、気楽なのでありがたい。


「最初は、デリアが自分の家にって言っていたんだが……さすがに、女一人の家に男を連れ込ませるわけにもいかないだろ? タクミは、その方がいいのかもしれんが」

「いやいやいや、それは俺もさすがに……」

「なんだ、他にいい人でもいるのか? まぁ、それはいいか。ともかく、村で変な噂になる事もあるかもしれないから、空き家でとな。閉鎖的な村じゃないと自負しているが、狭い場所だからな。一度噂が立っちまったら、全員に知れ渡る」


 さすがに、男三人で女性の一人暮らしの所へ転がり込むわけにもいかない。

 冗談めいてカナートさんが言うのに、焦って否定してしまったけど、あまり得意な話題じゃないので仕方ない。

 こちらに来てから、女性関係でからかわれる事が結構あるなぁ……主にセバスチャンさんとかエッケンハルトさんからだけど。

 女性一人の家に男が泊るというのは、確かに変な噂が立ってもおかしくないし、田舎かどうかはともかく、変な噂が広まるのはよろしくないので、デリアさんを説得してくれたカナートさんには感謝だ。


「あれ? でもデリアさんから聞いたんですけど……デリアさんを赤ん坊の頃に拾った人がいたのでは? てっきり、その人と一緒に暮らしていると思ったんですけど」

「あぁ、木こりの先代親方か。確かにずっとデリアの面倒を見て、一緒に暮らしていたんだが……数年前に亡くなってな。年が年だから仕方なかったんだが、それ以来デリアは一人で暮らしている。先代親方は妻子もいなかったからな。まぁ、デリアも育っていたし、村ではほとんどの奴らが面倒を見ているから、なんとか一人でやっているようだ」

「そうだったんですか……」


 そういえば、デリアさんから拾われた時の事情を説明してもらった時、木こりの人に関して多くは聞かなかったな。

 そうか……数年前に亡くなっていたのか……なんとなく、リーザと被る状況だ。

 まぁ、リーザと違ってデリアさんは村の人達に見守られていて、不自由なくかはともかく楽しそうに暮らしているみたいだけど。


「とりあえず、この家は滞在中自由に使ってくれ。上が寝室、下が食事などをする場所になっているから」

「ありがとうございます」


 カナートさんに案内されて、俺達が寝泊まりする家に到着した。

 家は二階建てで、空き家なのに手入れが行き届いていて、目立った汚れはない……俺達が来るからと、デリアさんやカナートさんが掃除をしてくれたのか、村の人たちがお客さんを迎えるためにいつも手入れしているからとかだろう。

 一階は、竈場があって料理が作れるようになっており、テーブルが置いてある部屋もあったので、そこをダイニング的に使えばいいだろう。

 二階は四畳もないくらいの部屋が五つほどあり、シングルサイズのベッドと椅子がある簡素な部屋だった――。



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