第863話 デリアさんが褒めて欲しそうにしていました


 フィリップさんとニコラさんが確認して、間違いなくサーペントなのがわかったけど、どう見ても武器を持っていないデリアさんは、素手で仕留めたようだ。

 なんでもない事のように言っているデリアさんだが、相手は毒を持っている蛇だからなぁ……掴もうとした手を咬まれる恐れもあるため、ニコラさんの言っているように武器を使って対処するのが通常だろう。


「タクミ様達が来る事がわかってから、何かあったらいけないと思って、村の周辺にいる魔物をお掃除していました! レオ様がいるので心配はないでしょうし、差し出がましいと思ったのですが……そういえば、レオ様が見当たりませんね?」

「そんな事まで……レオは今回、ちょっとした事があって留守番しているよ。本当は村の手前まで一緒のはずだったんだけどね」

「……なんとなく魔物がいたような感じはするのに、一切見かけなかったのは、そのためだったのか」

「謎が解けましたね。デリアさんですか……なんでもない事のように魔物を対処しているようなので、慣れているのでしょう。一度、手合わせしてみたいものです」


 魔物をお掃除って、気軽に言っているけど……当然ながら危険が伴うはずで、俺達は頼んでいないはずなんだけど、デリアさんは自主的にやってくれたらしい。

 ありがたいんだけど、危ない事は止めて欲しいなぁ……本人の様子からは、危険さの欠片も感じないけど。

 あと、道中魔物がいなさ過ぎた違和感は、デリアさんが魔物を掃除した結果のようで、ニコラさんが言うように謎が解けてスッキリはしたけど、ちょっと申し訳なくもある。

 俺達が来る事になったから、デリアさんは魔物を相手にしないといけなくなったわけだからな。


「レオはいないけど、デリアさんが無理する事はないんだよ?」

「いえ、村の外を思いっきり走り回れましたし、無理はしていません。それに、このサーペントを持って帰ると、村のお爺ちゃんが喜ぶんです!」

「サーペントって、何かに使えるの?」

「お爺ちゃん達がよく、お酒に漬けています。なんでも、舌や喉が痺れるのがたまらないんだそうです。私は以前一口飲んで合わなかったので、それ以来飲んでいませんけど……」


 蛇をお酒に漬けるって、マムシ酒か何かかな? けど舌が痺れるって、毒があるせいなんじゃないだろうか……。

 村に行って体調が悪そうなお爺さんとかがいたら、薬草を作って渡してあげた方がいいのかもしれない……喜んで飲んでいるようだし、問題はないのかもしれないけど。

 あと、外を思いっきり走るのはレオやフェン達も楽しそうにしているから、それと似たようなものなのかも? 完全に獣寄りの考えだが。


「……」

「えーっと……?」

「タクミさ……タクミ、期待しているようだから、仕方がないと思うぞ?」

「ふむ、私達は体を背けておきましょう」

「止めたりはしないんですね……はぁ……」


 サーペント漬けのお酒ってどうなんだろう? とか考えていると、何やら期待するように目を輝かせてススス……と寄って来るデリアさん。

 心なしか頭を俺に寄せているような……と疑問に思うまでもなく、褒めて欲しそうにしている様子だ。

 レオよは少し違うが、リーザが時折似たような仕草をする事があるからな。

 フィリップさんとニコラさんは、獣人とはいえ女性の頭を撫でるのはと逡巡する俺に対し、見ないように体を背けながらも、止めてはくれなかった。


「えっと……え、偉かったねー、デリアさん。よしよし……」


 仕方なしに、戸惑いながらデリアさんの黒い耳が付いている頭に手を伸ばし、ゆっくりと優しく褒めるように撫でてあげる。

 レオにリーザの撫で方を教えてもらっていて良かったと思う反面、耳と尻尾以外は立派な女性のデリアさんに、こんな事をしていいのかという罪悪感が沸いて来るが、今は気にしないようにしておこう。


「わぅん、くぅーん……あ、す、すみません! 以前、タクミ様に撫でられたのが気持ち良くて、それを思い出してしまってつい……」

「いやまぁ、うん、喜んでくれたのなら大丈夫だよ」


 黒い耳を巻き込むように、リーザにする時と同じ感じで撫でると、犬っぽい声を漏らすデリアさん……泥棒を捕まえる時は猫っぽい声を出していたのに、こういう時は犬っぽいのか。

 リーザは撫でてやると猫っぽい声を出すから、見た目は関係ないのかもな。

 俺に撫でられていたデリアさんは、急にハッとなって顔を上げ、俺から少し距離を取って頭を下げた……以前撫でたのって、確か面談が終わった後の事だったか……つい手が出て撫でてしまったんだよなぁ。


 レオやリーザもそうだが、撫でてもらう事に対して無防備というか喜んでくれるというか……本能的な欲求なのかもしれない……知らないけど。

 あ、デリアさんの耳の毛並みは艶やかで、レオやリーザともまた違った触り心地だったのは、余計な事か。


「それじゃ、ブレイユ村に向けて出発しましょう!」

「そうだね。って、デリアさんは馬に乗ったりは?」

「え、しませんよ? 獣人とバレないように乗る事はありますけど、普段は自分で走りますから。前にラクトスへ行った時も、自分で走っていきました。街道に出たら、さすがに歩いていましたけど」

「あー、まぁ……そうかぁ……」


 とりあえず、今回ブレイユ村へ行く事になった経緯などある程度話し、改めて馬に荷物を持たせてブレイユ村へ移動を開始。

 ……と思ったんだけど、デリアさんは走るつもりのようで、おもむろにクラウチングスタートのような体制を取った……そのまま手も使って走る気なんだな。

 馬に乗る事はないのかと聞いてみると、ほぼ乗らずに自分で走る事が多いみたいだ。

 先程俺達のいる所へ向かって来ていた時、途中から全力を出すように走っていた速度は馬と同等くらいだったから、自分で走った方が気楽なんだろう。


 レオみたいに、走り回るのが好きなのかもな。

 でもよく考えたら、手足で四足走行しておきながらサーペントを掴まえたままで、あの速度を出すのは単純に凄いな。

 もしかしたら、何も制限がない状態で全力を出せば馬より速いかもな。


「そういえばタクミ様、ラクトスで会った時よりえっと……そちらの方達と、砕けた話し方をしているようですけど……?」

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