第849話 焼きパスタパンを食べました



「えーっと……いくつ食べますか?」

「そうですね、この大きさなら二つくらいは食べられます」

「成人男性なら、それくらいですかね?」

「匂いから、既に美味しい事がわかっています。包んでもらって、移動中に食べましょう」

「あー、それもいいですね。馬で移動しながらでも、手で持って食べられますから……揺れたら、中身が落ちる可能性もありますけど」


 あーだこーだと話し合いながら、屋台で売っている物を多めに買う。

 今は暖かいけど、冷えても食べられるだろうから、移動中か野営をした際の食事にもできそうだ。

 屋台で買った物……それは、ある意味日本人のソウルフード……学生のソウルフードかな? の、焼きそばパンだ!

 挟んであるのは、以前エッケンハルトさんと来た時に食べた、焼きそば……焼きパスタだから、味はほぼ保証されているようなもの。


 日本で食べた焼きそばとは、さすがにちょっと違うけど、それでも十分に美味しかったからな……パンの方は、むしろこちらの方が美味しく感じる事が多いから、本来の焼きそばパンに劣ったりはしないだろう。

 焼きパスタを挟んであるから、焼きパスタパンと呼んだ方が良さそうだけど。


「一つ、銅貨三枚か……少々高いか? いや、珍しく美味しい物であるのなら、妥当でもあるのか……」

「少し贅沢をする、と考えれば丁度いい値段でしょう」


 焼きパスタパンを受け取りながら、値段に関して考え込むフィリップさん。

 銅貨一枚が、日本円で百円前後と考えると、確かにちょっと高めに感じるけど……この世界では製法が謎なソースが使われていたりもするし、屋台で焼きパスタを焼いて、さらに表面をこんがりさせるたパンを使っているから、妥当な値段とも言える。

 この値段だと、学生のソウルフードにはなりそうになく、一般の人が毎日食べるには向かないかもしれないが、ニコラさんが言うようにちょっとした贅沢と考えるといいかもしれない。

 美味しい物を食べると、気分が良くなるからな。


「……おぉ、美味しいな」

「ですね。ハンバーガーとは違って、肉が少ないので食べ応えはそれなりといった具合ですが、パンとパスタが今まで食べた物とは違って香ばしく、食が進みます」


 屋台で焼きパスタパンを買って、移動をしながらそれぞれ自分の手に持った物を一口……良かった、二人共気に入ってくれたみたいだ。

 焼きパスタの時も思ったけど、俺としてはやっぱり青のりが欲しかったり、パンに挟むなら紅生姜とかも……なんて思うけど、それらがなくても十分に美味しい。

 ここまでちゃんと作れたあの屋台の店主さん、拍手を送りながら褒めたいくらいだ……周囲に迷惑がかかるからやらないけどな。

 ちなみに、多めに買った焼きパスタパンはさすがに保存方が十分じゃないから、今日中には食べる予定で、紙に包んだうえでさらに匂いができるだけ他の物へ移らないよう、布に厳重に包んで鞄に入れてある。


 二人共気に入った様子だし、移動中か野営の時にでも食べてくれるだろう……冷めると、暖かいうちに食べるよりは少し味が落ちるけども。

 男同士というのもあって、カロリーだとかを気にすることなくがっつけるのは、ニコラさんの言うように気楽に食べられるのも嬉しい。

 ただ、俺は馬に乗り慣れていないせいもあって、移動中に食べられそうにないのが難点だけどな。

 上下に揺れるから、何かの拍子に落としてしまったり、中身が飛び出すだろう……。


「しかし、本当に耳付きの帽子が流行っていますね……女性はともかく、男性のは見ていて微妙な気持ちになりますけど……」

「ははは、まぁ、俺もリーザに付き合って被っていたのでもう慣れましたけど、改めて見ると確かにそうですね」

「リーザ様は普段もそうですが、帽子を被っても愛らしいですからな。某も、興味はあります」

「「え!?」」

「何か……?」


 焼きパスタパンを食べ終わり、街の東側へ向かう途中に辺りを見回して呟くフィリップさん。

 流行っているという言葉が、そのまま当てはまるよくわかるくらい、すれ違う人達が耳付きの帽子をしている……お店の人とかもしているな。

 前回来た時より多くの人が被っているようなので、流行が進んだのか、それとも商品が行き渡ったのか……と言うところか。

 それはともかく、ニコラさんが耳付き帽子に興味があると発言し、思わずフィリップさんと二人で驚いてしまった。


 ニコラさん、見た目の雰囲気は日本人に近くて、キリッとした雰囲気があるんだけど……そこに耳付き帽子はアンバランスが過ぎる。

 それこそ、裏庭で湯飲み片手に椅子に座ってダンデリーオン茶を飲んでいるよりも、さらに……。

 しかし、俺とフィリップさんがニコラさんを凝視するのに対し、何か問題でもと言いたそうな様子。


「ま、まぁ……趣味は人それぞれだな、うん。ですよね、タクミ様?」

「そ、そうですね。気に入る物や好きな物は、人それぞれ違いますから……」

「某は、何かおかしな事を言ったのでしょうか……?」


 ニコラさん、もしかして可愛い物好きだったりしないかな? という疑問が沸いてきたが、どちらかというと渋い趣味をしている感じだったので、耳付き帽子はなぜか琴線に触れたのかもしれない。

 フィリップさんと二人、顔を見合わせてこれ以上突っ込むのは危険……という気配を察知して、話を逸らす事にした。

 ニコラさんを除く俺達の共通認識として、できるだけ耳付き帽子をニコラさんから遠ざけようとフィリップさんと頷き合った。

 趣味は人それぞれだけど、それを見る側が微妙な気分になっちゃいけないからな……そういったのは、エッケンハルトさんくらいで十分だ。


「……気を緩めているわけではありませんが、やはりレオ様がいないとあまり目立たないようですね」

「そうですね……レオは大きいですから。人間とは違いますし、目立ちますよね」


 話を逸らしたフィリップさんが話題に出したのはレオの事……というより、いない時は注目されないと言いたいようだ。

 確かに、レオがいる時はすれ違う人全てが振り返るくらいだし、あまり視線に敏感じゃない俺でもわかるくらい、色んな所から見られている気がした。

 ただ、ラクトスの人達が慣れて来てくれているのか、最初の時以外はほぼ恐怖を感じているような視線は少なくなっている……ないわけじゃないんだけどな――。



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