第841話 夜中の騒動は少し落ち着きました



「何事も……ないわけではないですけど、重い病気に罹ったりではなくて安心です。はぁ……薬草で治せないような病気だったら、どうしようかと……」

「『雑草栽培』が使えるタクミ様が、薬草で治せない病だとすると、未知の病しかなさそうですがな。ともあれ、痛みはありますが悪い事ではありません」

「そうよね……タクミさん、リーザちゃんの事になったらシェリーの時以上に、無理をしそうですもの。そんなタクミさんが、薬草を作ったら未知の病でも治してしまいそうです」

「さすがにそれは、ないとは言い切れないけど……。でも『雑草栽培』だって、全ての病を治せる薬草が作れるわけでないと思う」


 シェリーの時は、瀕死の怪我を治す薬草だったけど……偶然驚くほどの効果が出る物が作れただけで、治せない病がないって事にはならないと思う。

 まぁ、シェリーの時に作った薬草や、身体強化や感覚強化、疲労回復など色んな薬草を作ってはいるけども……あれ、無理をしたらオリジナルで、効果の高い薬草を作れたりするのか……? それなら確かに、治せない病はなさそう……かな?

 いやでも、シェリーの時と同じだとしたら意識を失ってしまうかもしれないし、ギフトの過剰使用は命にかかわるような事もユートさんから聞いているからな……よっぽどの事がない限り無理はしないけど。

 リーザのためなら、無理をするんだろうなというのは自分でもわかっているけど、今は大丈夫なので頭の隅へ追いやった――。



「タクミ様、処置が終わりましたのでもう大丈夫かと。とは言え、痛みの方がまだあるようなので、しばらくゆっくり過ごすようになされた方が良いかと思います」

「ありがとうございます。クレアもセバスチャンさんも、夜遅くにすみません」

「いえ、心配して驚いたりもしましたが、気になさらず」

「クレアお嬢様の仰る通りです。タクミ様、むしろおめでたい事なので盛大に祝わないといけませんな」

「ははは、そうですね。ありがとうございます」


 少しだけ廊下でクレアやセバスチャンさんと話していると、多くの布を抱えたライラさんが部屋から出て来て、もう大丈夫とのお墨付きをもらった。

 まぁ、痛みの方はしばらく続くものらしいから、言われた通り無理はさせないつもりだけど。

 俺達に声をかけて布を運ぶライラさんとすれ違う際に、ちらりと赤く濡れているのが見えた……やっぱり、こういうのって大変なんだなぁと思う。

 あまり気にしたり見ていてもいけないと思い、ライラさんだけでなく夜中に集まってくれたクレアとセバスチャンさんにもお礼と謝罪をする。


 クレアやセバスチャンさんは気にしていない様子だけど、迷惑をかけたような気がするからなぁ……ともかく、盛大に祝うというのは冗談としても、成長という意味では確かにおめでたい事なので、苦笑しながら改めてお礼を伝える。

 お祝いかぁ……盛大にというのはまだしも、何かしらやった方がいいよな。

 お赤飯でも炊くか、なんて考えも浮かんだけどそもそも米がないので不可能だし、作り方もわからない。

 そんなに難しい作り方ではないような話を聞いた事もあるけど、手間が多少かかるとかなんとか……何にせよ作れないので、代わりにこちらでお祝いする時の料理をヘレーナさんに聞いてみよう。


 頭の中でリーザのお祝いの事を考えながら、部屋の中へ入る。

 部屋ではリーザが横になっているベッドの隣で、相変わらず心配そうにのぞき込んでいるレオと、ゲルダさんが待っていてくれた。

 


「リーザ、大丈夫か?」

「ワフゥ……?」


 すぐにベッドの傍へ寄って、毛布をかけられているリーザへ声をかける。

 レオはずっと見ていたのに、改めて心配そうに鳴き声を上げた……それだけ痛みに耐えるリーザを心配しているんだろう。


「うん……さっきまでよりは平気だよ。ごめんなさい、パパ、ママ」

「ん? 謝る必要はないんだぞ?」

「ほっほっほ、タクミ様と同じですな?」

「そうね。リーザちゃんもタクミさんも、気にしなくていいのに……一緒にいるから、似るのかもしれないわね」


 我慢していた時とは違い、横になっているのもあって少しは楽になったのか、笑顔を見せるリーザ。

 だけど、申し訳なさそうな表情をして謝るのは変わらないか……その必要はないって言ったんだけどなぁ。

 大丈夫だと伝えようとする俺に、後ろからセバスチャンさんとクレアが微笑みながら声をかけてくる。

 うーむ……そう言えばさっきも俺はクレア達に謝ったりしていたっけ……迷惑をかけてしまったので、申し訳なく思ったからだが、リーザも似たような気持だったのかもしれない。


「まぁ、それはともかくとして……痛みの方はまだあるんだろう? しばらく無理はしないようにな?」

「うん、ライラお姉さんにも言われたよ。けど……」

「ん?」

「明日、パパが行っちゃうから……リーザも一緒に行きたいのに……」

「うーん……」


 明日はリーザも楽しみにしていた遠足……じゃなくて、ブレイユ村へ行く予定だ。

 村の近くまでだけとは言っても、二日くらいは一緒に行動するのをリーザは楽しみにしていたようだ……というより、その後しばらく離れてしまうのを惜しんでいたのかもな。

 無理はできないから、屋敷で寝ていると明日から一緒にというのはできなくなるのを、リーザは嫌がっている様子。


「タクミ様、病ではないとは言っても、やはり無理はさせられません。特に今回は初めての事なので……」

「そうよね……旅の途中でとかならまだしも、今は安静にして休める環境にありますし、しばらくは様子を見た方がいいと思います。個人差はありますが、痛みが酷かったり、長引いたりもしますから」

「そうですね……リーザが行きたいと言っても、おとなしく待っていてもらうのがいいと俺も思います」


 いや、痛みで苦しんでいるんだから、この際ブレイユ村に行くのをなしにして……。


「数日程、出発を遅らせますかな? 急ぎ、デリアさんにも連絡をして、待ってもらう事は可能かと」

「やっぱり、それが一番いいですよね」

「痛みが続くと、不安になる事が多くなります。もちろん、私やティルラだけでなく、屋敷の者も気にかけるようにしますが……やはりタクミさんが傍にいるのが一番いいと、私も思います」



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