第807話 ティルラちゃんは集中して予定をこなす事を覚えました



 名前決めの後は昨日の話の通り、二体には屋敷周辺をパトロールしてもらって、植物に付いている虫の駆除……これが意外に多かったらしく、しばらく小麦を餌にする必要はなさそう、というのはラーレから聞いた。

 仕事をやっているうちは、食料にはならないだろうと考えたのか、二体ともレオやラーレに怯える様子を見せる事はなくなり、セバスチャンさん以外には近付いてくれるようになってもいる。

 セバスチャンさんが、自分だけ懐かれないと少し落ち込んでいたが、まぁそれは最初に食糧にしようとしていたから仕方がない……レオは話せるようだし、ラーレは昨日の夜寝ている姿を見る限りでは、仲良くなってるみたいだから大丈夫そうだしな。


 ちなみにその際に、ヘレーナさんと一緒に再びニャックドリンクを試作して皆に出してみたんだが、これは不評に終わった。

 美味しくないわけじゃないんだけど、特に甘くもないし、そもそも飲み物に固形物が混ざっているのは、慣れないと危ないというのがよくわかった。

 何人かが喉に詰まらせてしまったから……慣れた様子でお茶を飲もうとすると、固形物があるのを忘れる事があるみたいだ。

 結局、ニャックドリンクは砂糖を入れた物を特別な時に作るくらいで、封印となった……ストローをどうにかして作ってみようかと考えていたんだが、残念だ。


「タクミさん、鍛錬の時間です! 頑張りましょう!」

「ははは、今日は意気込みが違うね、ティルラちゃん?」

「はい。姉様と話して、それぞれに一生懸命取り組む事で、レオ様やラーレ達と遊べる時間が増えるようになりましたから!」

「それに、クレアも一緒にいてくれるから、だね?」

「……そ、そうです……」


 昼食後は、勉強を集中して終えたティルラちゃんに急かされ、鍛錬の時間。

 昨夜はしっかりクレアと話せたおかげか、朝から機嫌のいいティルラちゃんは、集中して取り組むようにクレアから言われたらしい。

 だらだらと勉強や鍛錬をするよりも、集中していた方が終わるのも早く、時間にも余裕ができるからだろう。

 さらに、クレアがこれまでの事を反省したのか、鍛錬後にレオやラーレ、リーザやシェリーと遊ぶ際には、必ずではないけどクレアも傍にいると約束したようで、恥ずかしそうに頷くティルラちゃん。


 一緒に走り回って、とかはしなくとも傍にいたり話をしたりする事で、ティルラちゃんの寂しさを緩和するのがクレアの目的だろう。

 ちなみに、そのティルラちゃんだが、他に用ができたりしなければ朝食後から昼食までは勉強、昼食を食べた後は鍛錬を集中して行い、それらが終わり次第レオ達と遊んだりできる自由時間となっている。

 その頃にはコッカーやトリースもパトロールを終えており、皆で一緒に遊べるというのも、ティルラちゃんのやる気に繋がっているようだな。

 俺の方も、薬草を作ったり調合を手伝ったりと、ティルラちゃんとも時間を合わせやすい。


 リーザとレオは特にやる事がなく、一日自由ではあるが、ほとんど俺と一緒に手伝ってくれたり、手伝えない時はラーレも混ぜて一緒に走り回ったりしている……シェリーもいるが、走る速度が俺やティルラちゃんの鍛錬時よりも速く見えるのはなんとも……子供って元気だなぁ、という事にしておこう。

 そうこうしているうちに、翌日にはコッカー達の寝床が完成。

 小屋というより屋根があって三方向を板で囲んだ、とりあえず雨風をしのげる程度の物だけど、コッカー達は嬉しそうだ。

 ちなみに、床には小麦の藁が敷かれており、そこでゆっくりくつろげるようになっている……触った感じでは、稲の藁より硬い気がしたけど、むしろその硬さがいいのだと通ぶったトリースが鳩胸を張っていたりもした。


「キィ……」

「ピピ!」

「ピィ!」

「うーん……やっぱりこうなったか……というか、硬い藁がいいんじゃないのか?」


 しかし、寝床が用意されていざ寝る段階になると、ラーレの傍から離れようとしないコッカー達。

 どうも、準備されている間にラーレの翼に包まれて寝るのが癖になったらしく、それがないと安眠出来ないと主張していて、ラーレが困ったように鳴いている。

 とはいえ、寝床の大きさはコッカー達に合わせて作られているので、高さが人間よりあるラーレが入る事はできない。


「やはり、ラーレも入れるように作り直すべきでしょうか?」

「まぁ、ラーレはこれまで屋敷の屋根に止まって寝ていたので、それも悪くないかもしれませんけど……」

「キィ、キィ……」

「できるなら、地面よりもどこかに止まっていたい。って言ってますね……」


 コッカー達は地上でも問題ないみたいだが、ラーレは止まり木代わりの屋根など、高い場所で寝たいらしい……まぁ、野生の本能みたいなものなんだろうけど。

 寝床ができるまで、コッカー達と一緒に地上で寝てくれていたのは、やっぱり連れて来てしまった責任感と、面倒を見ると言ったからなんだろうな。


「とりあえず、作り直すとして……ラーレには我慢してもらうしかないでしょうね」

「やはりそうですか」

「でも、ラーレが気持ち良く寝られないのは可愛そうです……」

「そうだね。だから、こうしよう。ラーレ、一日おき……数日おきでもいいんだけど、コッカーやトリースと一緒に寝てくれるかな? それで、離れて寝る日も作る事で、コッカー達が慣れるのも一緒に促すっていうのはどうだろう?」

「キィ……キィー」

「仕方ないけど、了解しました。だそうですよ、タクミさん」


 寝床をラーレも入れるくらいの大きな物に作り直すとして、ずっと一緒だとコッカー達が甘えるだけになてしまうので、折衷案のような事を提案する。

 要は、ラーレから離れていても寝られるように慣れてくれればいいんだから、強制的に離れて寝る日を作って、段々と慣らしていこうというだけだ。

 ラーレにはある程度我慢してもらう事になるけど、ずっと地上で寝るわけでもないので、渋々ながら了承してくれた。

 問題はコッカー達だけど……。


「ピピ!」

「ピピピィ!」


 屋敷での生活に早くも慣れたのか、抗議するように鳴く二体。

 連れて来てすぐだったら、食料にならないためにすぐ頷いてくれただろうけどなぁ……。


「グルルルル……ガウ!」

「ピ!?」

「ピピ!?」


 無理矢理引き離して納得してもらうしかないかな……とセバスチャンさんやティルラちゃんと考えていると、レオが唸り甘えるなと言うように吠えた。

 そのレオの声に怯えた二体は、おとなしく……渋々ながらだけど、小屋の藁に乗って寝たふりを始めた。

 ……レオの言う事は聞くんだな……まぁ、最強の魔物から言われたら逆らえないか――。



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