第804話 綺麗な砂には心当たりがありました



「砂ね……。用意するのは、特に問題はないと思うけど……どこに砂場を作るか、かしら?」

「裏庭と言っても、真ん中に砂場を作るわけにもいきませんからな」


 裏庭のど真ん中に砂場を作ったら、確実に邪魔になってしまうからなぁ……綺麗な砂がいいだろうし。

 今のところ、裏庭ではレオやリーザ、シェリーの遊び場になっている以外に、俺やティルラちゃんの鍛錬にも使う。

 さらに、端の方では『雑草栽培』の研究のために、簡易薬草畑になっていたりもするから、砂場にするのはどこでもいいわけじゃない……ん? 『雑草栽培』?


「えっと、ちょっと聞くけど……その砂って綺麗だったら、なんでもいいのか?」

「ピピ」

「ピィピィ」

「できるだけサラサラな砂がいいって、言ってるよ。あと、濡れてない方がいいってー」

「ふむ、濡れてなくてサラサラか……」


 砂の条件はまぁ、わかりやすい……それに、食べたりするわけじゃないし、植物じゃないから砂に栄養とかもいらない……。


「何か、砂に心当たりがあるのですか?」

「向こうに、良さそうというかどう扱えばいいかわからない砂が、たっぷりありますよ」

「……成る程、『雑草栽培』を試した後の物ですか」

「はい、そういう事です。とりあえず、それでいいか試してみましょう」


 簡易薬草畑で、『雑草栽培』によって作った薬草などの植物は、通常ではありえない速度で成長するため、土の栄養を吸い取る。

 だから、一部が砂漠化のようにサラサラで何にも使えないような砂になっていたんだが……コカトリスの子供が有効に使ってくれるのなら、わざわざ砂をどこかへ運んだり捨てたりしなくて良くなるからな。

 とりあえず、皆を連れて砂漠化してしまって不毛になってしまった場所へ連れて行き、ティルラちゃんの肩から降ろす。

 この際、一瞬だけコカトリスの子供達は人間の手に触れられる事に、怯える様子を見せたが、レオやラーレに掴まるよりいいと考えたのか、すぐに身を任せてくれた。


 うん、レオもラーレも、おとなしくしていれば危害を加える事はないから、安心していいぞー?

 食料にしない事にほぼ決定だから、レオももう食べようとは考えてないみたいだしな。


「ピッ、ピピ~」

「ピピピ、ピ~」

「楽しそうですね」

「キィ」

「気に入ったみたいだよ、パパ?」

「そうみたいだなぁ……」

「ワフワフ」

「キャゥー?」

「『雑草栽培』でできた砂なので、他とは何かが違うのでしょうか?」

「見た目には、そこまで違いは感じられないけど、もしかしたら何か関係するのかもしれないわね」


 簡易薬草畑の近く、摘み取ったり枯れたりで、今はもう何も生えなくなっている砂場にコカトリスの子供達を連れて来ると、すぐに楽しそうに遊び……いや、砂浴びを始めた。

 全身を砂に擦り付けるようにしたり、中々器用に全身を砂で洗っている……まぁ、汚れを落とすというよりは、翼の乾燥させたり、体に付いた虫を落とすのが砂浴び本来の効果らしいが。


 とりあえず、レオは同じように砂で遊びたそうにするのは止めような? 後でティルラちゃんやリーザと一緒に遊んでやるから。

 シェリーは砂の何がいいのかわからない様子で首を傾げ、セバスチャンさんとクレアは、興味深そうに砂の方を見ている……単純に養分やら何やらを、植物に吸い取られて乾燥しただけだと思うから、『雑草栽培』によって特別な効果、とかはないと思いますよ?


「ピピ?」

「ピ?」

「ピィ、ピィ!」

「ピピピ」

「ん、どうしたんだ?」


 砂を全身に擦り付けるようにしていたコカトリスの子供達は、急に何かに気付いた様子で顔を見合わせ、会話をしているように見えた。


「ピィー」

「あ、そっちは……レオ?」

「ワフ」

「ピピピピィ」


 砂場から離れ、テコテコと歩いて行った先は、『雑草栽培』を試していた簡易薬草畑。

 そちらに進むコカトリスの子供を止めるため、動こうとすると服をレオに引っ張られて止められた。

 大丈夫だから見てて……と言いたいようだ。

 周囲を見回すと、クレアやセバスチャンさんとティルラちゃんは少し心配そうに見ているけど、レオが俺を止めたから動けない様子で、ラーレとリーザは気にしていない様子


 問題なさそうにしているのは、コカトリスの子供が何を話していたのかわかるリーザ達、かな?

 まぁ、ここはレオを信じてみようと思い、薬草の方へ向かうコカトリスの子供達を見守る事にした。


「ピ?」

「ピィ、ピィ」

「ピピピ!」

「ピ!」

「ピィ~」

「ピィピィ~」

「何かを啄んだ……って、虫か?」

「ワウ」


 薬草が生えている場所で、お互いの顔を見合わせたコカトリスの子供達は、教え合うようにして複数の植物の中へ顔を突っ込む。

 くちばしを開けたり閉じたりしているようで、何かを食べているように見えるけど……チラリと隙間から見えたのは、くちばしに加えられた虫だった。

 かなり小さいので、どんな虫かはわからなかったけど……レオからも肯定するような鳴き声が聞こえたし、間違いなさそうだ。


「そういえば、鳥って虫とか食べるんだっけ……ラーレは……」

「キィ!」

「美味しくないから嫌いだそうです」

「まぁ、確かに美味しくはないだろうけど……コカトリスの子供達は、嬉しそうなのになぁ」

「ピピィ~」

「ピィピィ~」


 鳥によって違うんだろうけど、虫を食べる鳥もいるわけで、コカトリスの子供達は穀物も食べるけど虫も食べるようだな……魔物ではあるんだから、他の鳥と一緒にするもの違うのかもしれないけど。

 ラーレは……まぁ、同じ鳥型の魔物と言っても、猛禽類の鋭いくちばしを持っているので、肉類の方が好きなのかもしれない。

 一応、野菜とかも好んで食べるが。

 楽しそうにかに薬草畑の中を駆け回り、時折くちばしで虫と思われる何かを捕まえるような動きをしているコカトリスの子供達を眺めながら、意外に役目を担ってくれそうだなぁと思った。


「ふむ……植物に虫が付くのはよくある事ですが……人の目から逃れた虫を、見つける能力に長けているようですな」


 薬草とはいえ植物……虫がいて葉を食べたりするのは当然の事で、今までは見守っててくれる執事さん達が、時折取り除いてくれていたらしい、ありがとうございます――。



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