第777話 アンナさんとの話を終えました



「さっきも言ったように、子供達が嫌がる事をするつもりはありません。アンナさんを見習って、悪い事をしたら叱るくらいですね。……その辺りは、俺よりも村の人達の方が慣れていそうですけど。ともかく、子供達にはランジ村でこういうことがある……と伝えて、孤児院を離れてもいいと言ってくれる子を教えて欲しいんです」

「それだと、孤児院を離れたくないと言う子供ばかりになるかもしれません……」

「誰もいない……というのはちょっと困りますけど、とにかく無理矢理に連れて行く事の無いようにしたいんです。あぁ、レオやリーザ、シェリーのような遊び相手がいると伝えてくれると、頷いてくれる子も増えますかね?」

「えぇ、そうですね。孤児院の子供達は、経験からか警戒心が強い子も多いのですが、レオ様達にはよく懐いています。でしたら、あの子達に子供に伝えさせましょう。主には、タクミ様の下で働く事ですが、子供達の事もよく見るように言っておきますので」

「無理はしないように、お願いします。子供達を見ると言っても、村の人達もいますし、俺やライラさんもいますから」

「はい。私も子供達を監督させて頂きます」

「ふふ、ライラがいるなら安心ね」


 無理に連れて行くようにはしない事、子供だからと侮らず、ちゃんと説明して納得してもらってから、ランジ村に連れて行くようにする事を、アンナさんに伝える。

 子供って、意外と自分の事や大人が真剣に接してくれているか、獣人程じゃなくても敏感だったりするから、勝手に決めて連れて行ったりはしない。

 ……俺が小さい頃の経験から、そう考えるんだろうけど。

 子供達への説明は、アンナさんが連れて来た監督役の二人がするようだ……アンナさんの視線と言葉を受けて、二人は深く頷いてくれている。


 あちらの二人は、薬草畑で働くために雇うのではあるけど、孤児院出身という事で子供達の面倒も多少みてもらう。

 とは言っても、ランジ村の子供達や大人達もいるのだから、協力して見ればいいし、無理をさせるつもりはない。

 俺が請け負うよりも、ライラさんが頷いた方がアンナさんからの信頼が強そうなのは……そりゃそうだなと思っておく。



「うぅ……レオ様にもう少し手加減して欲しかったです」

「ははは、まぁ楽しそうだったからいいんじゃないかな?」

「離れて見ていても、大変そうでしたけど……確かに楽しそうでもありましたね」

「ワッフ~」

「キャーウゥ~」

「ママもシェリーも、ご機嫌だねー」

「リーザちゃんもご機嫌に見えますよ?」


 アンナさんとの話が終わり、寂しがる子供達にまた来ると伝えて孤児院を出る。

 遊びに加わったデリアさんは子供だけでなく、レオやリーザ、シェリーにも振り回されたから、わりと疲れている様子。

 愚痴を言うように呟いてはいても、尻尾は楽しそうに揺れているからかなりレオには慣れてくれたんだろうと思う。

 レオやシェリーからは、機嫌の良さそうな鳴き声が聞こえ、リーザも楽しそうな声……ティルラちゃんが指摘しているのは、声からではなく尻尾の揺れ方が機嫌のいい時だと判断してだろう。


 レオの大きな尻尾、シェリーの小さな尻尾、リーザの狐っぽい尻尾に、デリアさんの猫っぽい尻尾……それぞれが同じリズムで揺れているのは、機嫌が良くさっきまで一緒に遊んでいたから、リンクしているのだろうか。

 セバスチャンさんや、フィリップさん達護衛さん達は、揺れる尻尾を見ないようにして平静を装っているけど、ライラさんやヨハンナさん……クレアもか……それぞれの揺れる尻尾に手を伸ばそうとしていたりしていて、ちょっと面白い。

 あ、ティルラちゃんがリーザの尻尾を撫で始めた……二人はレオの背中に乗っているから、触りやすかったんだろう。

 ちなみにシェリーは、街中限定でレオの頭の上に乗る事を許可されている。


 ダイエットするようになってから、乗せてもらえなかったからな……それに、地面をシェリーが歩くと迷子になる危険性もあるしな。

 初めての出会いが迷子きっかけだったからなぁ……リードとか、あればいいかも? シェリーが嫌がらなければだけど。


「あ、そういえばタクミさん。ラクトスにならあるらしい、あの食べ物を探しませんか?」

「あの食べ物……あぁ、ニャックの事かな?」

「そうです。ラクトスにならあると聞いていましたから……以前のあの、トフーでしたっけ? あれは諦めますが、ニャックがあれば代わりになるんですよね?」

「代わりに、という物ではないですけど……まぁ……」


 クレアが思い出したように言うのは、ユートさんに言われたニャック……こんにゃくの事だろう。

 トフー、もとい豆腐は海が近くないため、にがりの入手に問題があってここらでは作られないので諦めたから、代わりのダイエット食品としてニャックが欲しいんだろう。

 まぁ、味とか食感とか、料理への使い方とかは違うが、食べ方次第でダイエットに使えるから代わりにという事かな。

 というか、ヘレーナさんが買ってきたトフーは、どうやって保存して運んだんだろうか? 豆腐って、そんなに日持ちする物じゃなかったと思うけど……食べても味が損なわれていたり、腐っていたりはしなかったので、なんとかして運んだんだろうけど。


 代わりどころかカロリーの面で見たら、こんにゃくの方が断然低いはず……日持ちもするし。

 結局、豆腐が作れるようになってもこんにゃくの方が、ダイエットに適しているから、せっかくラクトスに来たんだから探すのも悪くないな。

 用事はもう全部終わっているし、後はデリアさんと話して屋敷に戻るだけだったから、時間に余裕があるだろうし、大丈夫かな。


「どうしたんですか、タクミ様、クレア様?」

「あぁ、デリアさん。これからちょっと、珍しい食べ物を探そうと思ってね。えーと、なんて言ったらいいか……ニャックっていう、食べてもあんまり太らない食べ物、かな」

「そうなの。食べても太らないっていう、すごい食べ物なのよ! って、デリアさんには、あまり必要がなさそうね……羨ましいわ」


 隣を歩いていたデリアさんが、俺とクレアの話に気が付き首を傾げる。

 デリアさんに説明する俺の言葉を継いだクレアの勢いが凄いけど、全然太らないわけじゃなくて、あくまでも太りにくいだけだから。

 そんなクレアさんだが、ふとデリアさんを見て落ち着きを取り戻す……というより、デリアさんの体を見て何かを納得すると同時に、羨ましがっていた――。



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