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第632話 セバスチャンさんが巻き込まれました
第632話 セバスチャンさんが巻き込まれました
夕食の配膳を待っている間に、ティルラちゃんからの報告でラーレに許可を取ったとの事。
そういえば、鍛錬が終わった後にラーレと何やら話してたっけ。
レオとリーザは、シェリーを連れて延々と走っていたが……。
でも、ラーレに許可を取るような事って、何かあったっけ?
「鞍を付けてもいいかどうか、ですよタクミさん」
「あぁ、そういう話だったね。大丈夫だったんだ?」
「はい! ラーレが言うには、動かなければ何かを付けるのは構わないって。大きすぎず重すぎなければ、とも言っていましたけど」
「大きければ動きを阻害され、重ければそれだけ飛ぶのが不安定になる、という事だな」
「はい、お父様!」
大きくても重くても駄目か……馬に取り付けてある鞍と同じような物なら、大丈夫そうだな。
いや、でも背もたれのような物も付けるって言ってたし、そうなると大きさは変わるか……本当に大丈夫かどうかは、物ができてからだな。
ラーレの許可が取れ、まだ確実とは言い難いが、それでも乗って飛ぶ時の安定が保てるとなって、ティルラちゃんは嬉しそうだ。
鞍を付けて足や背中を安定させ、ベルトのようなもので固定すれば落ちにくくもなるはずだし、以前のように怖い事は起きないだろう……ラーレが無茶な飛び方をしなければ、だが。
「それでは、現在作っているラーレ用の鞍を急がせます。あとは……そうですな、実際に乗る人物をどうするか決めなければいけませんな」
「ティルラと一緒にか?」
「はい。ラーレが契約時に重さを気にしていた以上、あまり重い人物を乗せる事はできません。ティルラお嬢様と一緒に、と考えると……護衛を担当する女性が適当かと思います」
「ふむ……となると、ヨハンナあたりだろうな」
実際に鞍を付けられても、重量を気にしていたラーレが乗せられるかは、その時にならなければ試せないが、こちらでもできるだけ軽い人を考えておいた方がいいだろう。
その点では、ヨハンナさんは女性で細身だから軽そうだし、護衛もできるから適任だな。
まぁ、ラーレが一緒にいる状況で、護衛がいるかは疑問だが……人間の護衛だって必要だろう。
って、同じような事をレオが関係して以前にも考えた事があったなぁ。
「だがラーレもいるのだ、護衛は必要ないのではないか?」
「戦闘という意味では、確かに必要はなさそうですな。ですが、ラーレは魔物なので、ティルラお嬢様以外にも、誰か人間が必要でしょう」
「それはわかっている。ティルラだけでは、ラーレの事を説明するのも不十分だろうからな」
ラーレは大きな鳥の魔物。
それを見て驚く人もいるだろうし、まだヘルサルやランジ村にも行った事がないので、初めて見る人に説明をしなければいけない。
セバスチャンさんの事だから、既に大まかには報せを送ってはいるんだろうけど、偶然移動中にラーレを見かけた人には、ティルラちゃん以外に説明できる人がいないとな。
場合によっては、身なりのいい女の子が魔物に攫われていると思われたり……は、ラーレと一緒に楽しそうにしているティルラちゃんを見れば、可能性は低いか。
ラーレを見た人を落ち着かせたり、納得させないといけないから、そちらで大人の人間が必要だろうな、うん。
「できれば、ヨハンナの護衛はできればクレアに付けたい。まぁ、使用人も連れて行くので、世話の必要はないがな。そしてティルラがランジ村へ行く際には、ラーレだけでなくレオ様やタクミ殿もいる。護衛の事は考えずとも良いだろう。――な、タクミ殿?」
「はい」
「ワフ!」
「……では、どなたがティルラお嬢様と?」
エッケンハルトさんに振られて、頷く。
レオも俺の隣で任せろと頷いていた。
「それは……決まっているだろう? 軽そうな体で、人を丸め込む……おっと、説得するのに十分な者。そして説明をするのが好きな者がな……?」
「まさか……?」
ニヤリとして面白そうに言うエッケンハルトさん。
その表情は、もはや悪代官と言っても過言ではない……かも。
また、面白そうな事として思いついたんだろうなぁ……セバスチャンさんも気の毒に。
こうなると、中々止められないのは短い付き合いでもわかっている。
あえて肩を持つとしたら、確かにクレアさんの方に女性の護衛を付けた方がいいというのは、間違いじゃない。
レオやラーレに乗って行くのと違って、数日早く馬車でランジ村へ向かう関係上、その間野宿する事になるからな。
食事くらいなら問題ないだろうが、ちょっとした事……俺が言うのは憚られる、女性としての事情があった際、傍にいるのがメイドさんだけだと心許ない。
以前にも、ランジ村へ向かう途中にトロルドがいた事もあったし、備えておいた方がいい。
……とはいえ、屋敷には他にも女性の兵士さんがいるんだから、そちらに任せればいいのに……とは思うが、俺じゃ止められそうにない。
エッケンハルトさんを止められる可能性のある人間のうち、娘のクレアさんは溜め息を吐いて首を振り、諦めている。
もう一人は、今エッケンハルトさんに標的にされているセバスチャンさんだから、止めるのは絶望的だろうな……。
「どうだセバスチャン、空の旅をしてみるというのは? 魔物とはいえ、空を飛んだ事のある者はそうはおらんぞ?」
「やはり、私ですか……いえ、私は遠慮させて……」
「知識としても、一度は空を飛んでみてもいいのではないか? そうする事で、いずれ他の者が飛ぶ時に、何かしらの説明ができるかもしれぬぞ?」
「説明……知識」
やはりエッケンハルトさんは、セバスチャンさんをティルラちゃんの後ろに乗せてみたいようだ。
表情から察するに、ティルラちゃんのためよりもラーレに乗る事で、セバスチャンさんの反応が見たいと考えているんだろう。
まぁ、確かに事情を話す際には、俺が知る中で最も適している人なのは間違いないが……本人は乗り気ではないようだ。
セバスチャンさんが断ろうとする言葉を遮り、畳みかけるエッケンハルトさん。
実際に飛ぶのはラーレで、セバスチャンさんやティルラちゃんが飛ぶわけじゃないけど、知識のための経験と思えば悪くないかもしれない。
他の人が飛ぶ時に、説明する事があるのかとか、そもそもそんな人がいるのかというのは、疑問だけどな――。
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