第606話 レオのお風呂が終了しました



「あ、その絡まっている所は、無理矢理じゃなく……」

「自分の事で慣れていますから、大丈夫ですよ」

「ははは、そうですよね。クレアさんの綺麗な髪は、しっかり手入れされているでしょうし」

「……タクミさんに褒められました。……やった!」

「ん?」

「いえ、なんでもありませんよ?」


 森に行って戦ったりと色々あったせいか、所々レオの毛は絡んでいたりして、ブラシが引っかかる。

 力任せにやるとレオが痛がるかもと思い、注意しようとしたら、クレアさんは慣れている様子でゆっくり何度も梳いて、絡んでいる毛を解いていた。

 クレアさんの髪も長いから、絡んでしまう事は多いんだろう……その時の経験で慣れていたんだろうな。

 と、思いながら綺麗な髪の毛を褒めたら、嬉しそうなクレアさん。


 小さく喜びの声が聞こえた気がするが、澄ました顔で誤魔化していたので、「やった」と言ったのは聞かなかった事にしよう。

 ……聞こえてたよ、クレアさん。

 頬がほんのり赤くなりながらも、澄ました表情で取り繕おうとするクレアさんは、可愛かった……。

 いかんいかん、今はレオの毛を綺麗に梳いてやらないとな。


「レオ様、痒いところはございませんか?」

「ワフワフ!」

「そうですか、大丈夫ですかー」

「ママの尻尾大きいー、いいなぁ」

「リーザちゃん、尻尾が大きい方が嬉しいんですか?」

「うん。だって、格好良いもん!」

「そうですねー、レオ様は特に格好良いですからねー」


 ライラさんは、教えた通りに優しくゆっくり毛を梳かしながら、どこぞの職業の人がシャンプーをしている時のような質問をしている。

 いつもよりリラックスして楽しそうだし、やっぱりお世話して相手が喜んでいるのが好きな人なんだろうな。

 リーザとティルラちゃんは、二人がかりで尻尾を担当している。

 梳かしながらも羨ましそうに言うリーザ。


 小さな体と比べたら、リーザも立派な尻尾を持っていると思うが……それでもレオの尻尾の大きさに憧れるらしい。

 獣人からすると、尻尾は特別な物らしいし、大きい方が誇れる事なのかな?

 リーザを微笑ましく見ているティルラちゃんは、お姉さんのようにも見えて、こちらも微笑ましい。


「さて、ここで残念な事だが……レオ、もう一度お湯をかけるぞ?」

「ワフ!?」

「いや、今まで散々同じ事をしてわかっていただろう?」

「ワフゥ……」


 またお湯をかけられるのか!? と驚くレオ。

 だがこの世界に来てからも来る前からも、洗い方はほとんど変わってないからな。

 こうなる事はわかっていたはずだ……レオがスコーンと忘れていなければだが。


「またお湯をかけるんですか?」

「はい。ブラシで細かい埃なんかを落としてやって、最後にお湯で洗い流すんです。その後、タオルで拭いてやって、乾かすようにしながらもう一度ブラシで梳いたら完璧です。まぁ、今まで乾かす時にブラシで梳くのはやってませんでしたが……ライラさん達に拭くのを任せていましたからね」

「そちらは慣れているので、お任せ下さい。それにしても、人間の髪の毛と同じような感じなのですね……」

「そうですね……人間の髪と同じで繊細なので、しっかり手入れしてやるんです。……まぁ、今のレオならその必要はないかもしれませんが……」

「ワフワフ、ワウ!」

「そうか? まぁ、レオがその方がいいというなら、仕方ないな」


 クレアさんから、またお湯をかける理由を尋ねられ、理由を説明する。

 俺はそちらに詳しくないが、人間も髪を洗って乾かしながら櫛で梳くと、綺麗な髪ができるんだろう。

 レオの体を拭くのは、何度もライラさんに任せて慣れているだろうし、後は仕上げだけだ。

 体が大きくなってからは、ある程度手入れしなくても綺麗な毛のままなので、必要ないかもしれないが……と言ったら、レオからお願いするような視線と声。


 梳かれるのが気持ち良くて、本当に好きなんだろうな。

 色々助けてもらっているし、入念に梳いてやろうと思う。


「よし……っと。これで、綺麗になりました。レオのお風呂終了です!」

「ワウゥ……ワフー!」

「毎日でなくとも、これを数日に一度と考えると、大変な作業ですね。タクミ様、これからは私達にお任せください」

「まだ濡れているから、はっきりとはわかりませんけど……洗う前より確かに綺麗になりましたね」

「ママ、きれいー!」

「レオ様はやっぱり、輝く毛が格好良いですねー」


 改めてお湯をかけ直し、しっかりと汚れが取れた事を確認。

 皆へ洗い終わった事を宣言すると、真っ先にレオがようやく終わった……というような溜め息を漏らした後、元気に鳴いた。

 よしよし、よく我慢したなー偉いぞー?

 褒める気持ちを込めて、濡れているレオの体を優しく撫でる。


 ライラさんは、今までタオルで水気を拭き取る事を担当してくれていて、それだけでも大変なのに、洗う作業もやってくれると言ってくれた。

 俺が楽になるのは確かなんだが、任せっきりというのも悪いから、交代でやる事にしようと、後で提案しようと思う。

 クレアさんとリーザ、ティルラちゃんは濡れているおかげで、さらに輝くようになっている銀の毛を見て感嘆の溜め息を漏らしていた……いや、リーザだけは俺が言った綺麗という言葉を、真似しているだけか。


「それじゃあ……うお!」

「ブルルル……ワフ……?」

「ひゃ!」

「きゃ!」

「にゃー!」

「ふわあ!」


 今まで我慢していたためか、解放されて気分が良くなったんだろう。

 俺が離れてから体を……と言う前に、レオが全力で体を震わせた。

 お湯をかけたばかりで十分以上に濡れていた毛が乱舞し、水気が飛び散る。

 当然、それは近くにいた俺達へと降り注いだ。


 皆急な事で驚いて声を上げる。

 よっぽど体を震わせて水気を弾きたかったんだろう、遠慮なしに飛び散った水気は、豪雨のようで俺達全員の体をびしょ濡れにする。

 ……そりゃまぁ、元々ある程度濡れてたが……今は完全に頭からお湯や水を被ったようになっていた。


「あれ……? じゃないぞレオ。体を震わせるときは、皆から離れてやらないとこうなるって、前から言ってただろう?」

「ワウゥ……ワウ……」

「はぁ……まぁ、皆に教えるためにいつもより時間をかけてたし、仕方ないのかもしれないけどな? ――クレアさん、ライラさん、大丈夫ですか?」



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