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第383話 リーザを拾ったお爺さんの話を聞きました
第383話 リーザを拾ったお爺さんの話を聞きました
「お邪魔します……」
「お婆ちゃーん!」
「何だい、騒がしいね……おや、タクミじゃないかい? それと、リーザ? 珍しい組み合わせだね。……クレア様もいるのかい!?」
「イザベル、お久しぶりね。タクミさんの魔力を調べた時以来かしら?」
「そうでございますね。変わらずお元気そうで、何よりでございます。それで、今回は何の御用で?」
黒い扉を開け、イザベルさんの店の中へ。
ここへ来るのは、以前セバスチャンさんと来たから、三回目か……なんて考えながら、奥へと声をかける。
俺の横にいたリーザは、イザベルさんと会えるのが嬉しいのか、大きな声で奥へと呼び掛けた。
俺やリーザの声が聞こえたのか、それとも扉の開く音で気付いたのか、店の奥……暖簾のように吊り下げられた布の奥から、イザベルさんが出て来た。
多分、あの奥は部屋になっていて、そこにいたんだろう。
カウンターの内側まで移動したイザベルさんが、俺とリーザに気付き、少し驚いた後、後から入って来たクレアさんに気付いて驚く。
前にも一緒に来たが、今回は何も連絡してないから、驚いたんだろう。
クレアさんの挨拶に恭しく返しながら、ここに来た目的を聞くイザベルさん。
「申し訳ないんですけど……リーザの顔を洗わせてもらえませんか?」
「リーザの? おやおや、確かに顔が汚れてるようだね……」
リーザを俺の前に出し、イザベルさんに洗い場を貸してもらえないか頼む。
イザベルさんがカウンター越しにリーザを見て、顔が汚れてる事に気付き、理由を簡単に説明した。
「成る程ね……シルバーフェンリルが一緒にいるのは聞いていたけど、そんな大きな魔物に舐められたら、ベトベトになるのも仕方ないね。いいよ、奥に洗い場があるから、自由に使いな」
「ありがとうございます。リーザ?」
「ありがとう、お婆ちゃん!」
「では、私がお世話をさせて頂きます」
「はい、お願いします」
レオの事も説明し、納得した様子のイザベルさんは、一つ頷いて洗い場を貸してくれる事を承諾してくれた。
店に入れないから、イザベルさんはレオの事を見た事がなったな……街の噂や、セバスチャンさんとかから聞いて、俺とシルバーフェンリルが一緒にいるのは知っていたみたいだが。
イザベルさんにお礼を言いつつ、リーザを促して店の奥へ。
ライラさんが一緒について洗ってくれるようなので、お任せした。
こういう時、お世話したがるライラさんがいてくれて、助かるな。
店の奥へ行くライラさんとリーザを見送り、イザベルさんと話す。
「それにしても、リーザがタクミやクレア様と一緒だなんてね。何があったんだい?」
「その前に、イザベルはリーザちゃんの事をよく知っているようね? ここに入る前、リーザちゃんも何度か来た事があるって言ってたけど」
「はい。リーザを拾った爺さん……レインドルフとは旧知の仲でして、よくリーザを連れてここへ来ておりました」
店に入る前、リーザが言っていたように、お爺さんと一緒にイザベルさんの所へ来ていたのは間違いないようだ。
それにしても、リーザを拾ったお爺さんは、レインドルフという名前なのか……考えて見れば、リーザに名前すら聞いてなかったな。
その後、リーザが顔を洗っている間に、レインドルフさんの事をイザベルさんに聞く。
どうやら、レインドルフさんは根無し草の旅人だったらしく、よくこのラクトスへ来る事があったらしい。
その時、旅の役に立つ物をと、魔法具を買い求めに来たのが、イザベルさんとの最初の出会いらしい。
数十年前とか言ってたから、クレアさんが産まれる前だろう。
魔法具の事を話したり、旅をする時に欲しい魔法具は……等々、旅での出来事も含めて話しているうちに、常連となっていったようだ。
レインドルフさんの事を話すイザベルさんは、懐かしそうな顔をしていた。
いろんな場所を旅している人だから、店に来るのはせいぜい数カ月に一度……長い時は数年も間が空く事があったらしいが、ラクトスへ来た時は、必ずこの店に来てくれていたそうだ。
それが、数年前……リーザを拾った事で旅を止めてしまったのだという。
リーザを拾ったという事は、多分七年くらい前の事だろう……赤ん坊の獣人を連れて旅をするのは、レインドルフさんも難しいし、赤ん坊のリーザにとっては過酷なものになると、ラクトスで腰を落ち着けたらしい。
とは言え、年がら年中流浪の旅をしていたレインドルフさんは、蓄えがなかったらしく、定住するための資金のいらないスラムに落ち着いたそうだ。
治安の悪い場所で暮らす事に、イザベルさんは反対したそうだが、旅をしてならず者への対処法は知っていたため、特に問題は起こらなかったそうだ。
旅にお金を使わない代わりに、少しずつでも貯めて、いつかはリーザが安心して暮らせる家を買う事を目標としてたらしい。
「リーザを可愛がってる時のレインドルフは、旅をしていた頃のような鋭さはなくなってたね。多分、心の安らぎを得ていたんだろう。でも、そんなリーザが何故、クレア様やタクミと一緒にいるんだい?」
「それは……」
懐かしそうにレインドルフさんの事を話してたイザベルさんに、俺がリーザを見つけた時の状況や、リーザから聞いた、お爺さんが亡くなった事を伝える。
「そうかい……あの爺さんがね……この年になると、知り合いがいなくなるのも珍しくない」
そう言いながら、天井を見上げるイザベルさん。
その胸中は、俺なんかに推し量れはしないが、レインドルフさんの事を考えて、祈りを捧げているようにも見えた。
「……はぁ。志半ばで、夢潰える……か。代わりと言うのもおかしな話だけど、タクミやクレア様に引き取られたのは、良かったのかもしれないね。もしかしたら、レインドルフが導いたのかもしれないね、最後の願いとして……」
「そう、かもしれませんね……」
あの時は、レオが何かを探すようにキョロキョロしながらスラムを進み、イジメられているリーザを発見した。
俺やエッケンハルトさんには、何もわからなった……離れた場所だったから当然だが。
獣人と獣型の魔物の関係というものかと考えていたが、もしかしたらレインドルフさんの遺志のようなものが、レオに気付かせたのかもしれない。
獣型の魔物にとって、獣人が特別だとしても、レオが気付くには離れ過ぎてた思うしな。
人が多いラクトスで、薬草で感覚を鋭くしているわけでもないのに、イジメられているリーザを察知するのは、シェリーを見つけた事よりも、難しそうだしな。
そう考えると、実際にあった事のないレインドルフさんに、リーザを託されたようで、身が引き締まる思いがした――。
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