第366話 雇用者について話を聞きました



「成る程……そういう事だったんですのね」

「うむ。この事は、現在公爵家に関わる者のみの話になっている。タクミ殿の許可なく、口外する事は禁止だ」

「わかりましたわ。確かに今お聞きした事は、おいそれと話せるような事ではありませんわね」

「うむ、そういう事だ」


 アンネさんがズレた回答をして、時折話が逸れながらも、何とか俺の能力……『雑草栽培』というギフトの説明を終える。

 ギフトの事を聞いたアンネさんは、最初こそ驚いていたが、この屋敷にいて見聞きした事を思い出し、腑に落ちたような様子だった。

 頓珍漢な事を考えたりもするが、理解力はあるんだよなぁ。


「これで、この屋敷内では『雑草栽培』の事を話しやすくなったな。それでだ、タクミ殿。先程の質問に関してなのだが」

「はい、雇う人達に能力の事を伝えるのかどうか、ですね」

「うむ。タクミ殿のギフトによって、どんな事ができるのか、全てを話す必要はないと思っている。まぁ、特殊能力で薬草等の植物を生やす事ができる、という程度だな」

「ギフトという事は、教えないんですか?」

「その辺りは少し扱いが難しくてな……ギフト自体、知っている者もいれば、知らない者もいる」


 アンネさんに『雑草栽培』の事を伝えた事で、屋敷内で知らない人はいなくなり、来客がいるという状況でもない限り、発言に気を付ける必要はなくなった。

 隠したままで、『雑草栽培』を雇う人達にはどうするか、というのを話すのは確かに面倒だしな。

 エッケンハルトさんやセバスチャンの事だから、面倒だから以外にも、色々と考えて説明したんだと思うが。

 ……考えてますよね?


「ギフトを知らない者に、どういう能力なのかを教えるよりも、とりあえずはタクミ殿が変わった能力を持っていると教えた方が、わかりやすいからな」

「全部説明するよりは、伝えやすいとは思いますが……信じてくれますかね?」

「そこは、公爵家がいるからな。信じざるを得ないだろう。まぁ、それでも信じないような人物や不信感を抱くような者は、最初から候補にはしておらん」

「タクミ様、書かれている人物情報の中に、薬や薬草の知識の有無が書かれていたはずです」

「あーはい。確かに書かれてました。ほとんどの人が知識なしで、時折いくつかの薬草を見た事がある……くらいの事が書いてありました」


 能力の事を全部教えるのではなく、特殊な人物というだけで、一部の説明だけするという事だろう。

 ギフトの事から、『雑草栽培』という能力の特性や制限を全て教えるのは、手間だし理解してくれるかはわからないからな。

 一部だけでも理解してくれるかわからないが、公爵家が後ろ盾という事で、信用してくれる可能性が高い、と。

 ギフトを知らない人に、荒唐無稽にも思える能力がある事を教えるよりも、特殊な能力というだけで押し切った方が、やりやすいのかもしれないな。


 そこまではわかるが、書類に書かれていた知識の有無は、関係あるのだろうか?

 薬草を栽培し、場合によっては調合する事もあるのだから、どちらかというと、知識があった方がいいような気がするのに。


「薬の知識がある者、特に薬師となると、タクミ様に反発をする可能性があります」

「反発ですか?」

「はい。タクミ様は能力を使って、薬草を栽培し、さらにその薬草を能力で使える状態に致します」

「そうですね」


 本来なら、薬草が成長するのを待って、それを摘み取ったうえで乾燥させたりと、色々手間がかかる者のはずだ。

 それを能力一つで、全部できてしまうのは、随分便利な能力だと思う。

 雑草、という言葉の響きで、一瞬でも使えない能力なのかもと考えた、過去の自分が恥ずかしい。


「薬師とは、タクミ様も学んでいるのでわかる通り、一朝一夕で知識を身に着ける事はできません。それなのに、知識もあまりないはずのタクミ様が、苦労する様子もなく薬草を栽培し、さらには乾燥させたり、すり潰したりする手間もなく状態を変えてしまいます。今まで努力をし、苦労して知識を得た薬師が、それを見たらどう思うでしょうか?」

「あー……それは確かに不満と言うか、反感を覚えても仕方ないですね」


 今まで自分がやって来た事はなんだったのか、なんて考えてもおかしくない。

 自分が努力して、ようやく得た知識や技術以上の事を、簡単にこなしてしまうのを見たら、人生を悲観するとまではならないかもしれないが、何かしら不満のようなものを感じてしまうだろう。

 学校や仕事で、ひたすら頑張って成績を上げても、その上にさらに成績のいい人がいて、何も努力や苦労をしてない様子だったら、妬ましく思う事もあるからな。

 まぁ、俺は学校ではバイトの事や、拾ったレオの事を考えてたし、仕事を始めてからは業務に追われて、そんな事を考える余裕はなかったが。


「そういうわけで、雇う人員は薬の知識が少ない者としたのです。現在考えられる仕事内容では、栽培されている薬草の管理です。なので、知識がなくとも関係ありませんから。あるとしたら、調合ですが……これは、今の所簡単な物だけなので、知識がなくとも可能だと考えております」

「そうですね。薬草を管理したり、摘み取ったり、薬となった物を保管するくらいなら、専門の知識はそこまで必要ありませんから」


 調合は、ほとんど混ぜて乾燥させるだけだし、力仕事のようにはなるが、知識が必要な事ではない。

 薬草の栽培自体も、今の所専門の知識が必要な事はなく、見守るくらいで済んでるようだし。

 覚える必要があるのは、摘み取る作業くらいだが、これも難しい作業じゃない。

 この先、知識が必要な可能性がある薬草や植物を栽培する事がないとは思わないが、その時はまず、俺が学ばないといけないからな。


「後は……今新しく、農業等の知識があり、畑の状態を見られる者も探しております」

「畑の状態ですか?」

「はい。タクミ様の薬草は、驚くべき速度で成長し、増えていますが……それが土へ与える影響を見られる者ですね。現在行っている観察で、土の状態も見ていますが、以前とは少し変わっているとの報告がされています」

「土が……どのように変わったんですか?」

「そこまではまだ、なんとも。今朝より詳しい者に見てもらっていますが、わかり次第、報告させて頂きます」



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