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第277話 皆に内緒で頼まれ事をしました
第277話 皆に内緒で頼まれ事をしました
「私だ。タクミ殿、今良いか?」
「エッケンハルトさん? はい、大丈夫です」
「失礼する」
外から声をかけて来たのは、エッケンハルトさんだ。
さっきまで一緒だったが、こんな夜遅くに何の用だろう?
「すまないな、寝る所だったか?」
「いえ、のんびりしていただけなので」
部屋へと入って来たエッケンハルトさんは。俺がベッドに座っているのを見て、寝る前かと思ったようだ。
何も無ければこのまま寝ても良かったんだが、すぐに寝ないといけない程眠くもないし、問題はない。
「それで、どうしたんですか?」
「あぁ……そのな? 先程、タクミ殿にラクトスへ行くよう頼んだのだが……」
何かを考えながら、エッケンハルトさんが言いづらそうに話す。
俺がラクトスへ行くのに、何か問題でもあったかな?
「明日にでも行こうと考えていましたが、何かありましたか?」
特に急ぐような事も無かったはずだから、明日にでも薬草を作ったらラクトスへ行こうと考えてた。
レオに乗ればすぐだし、ニックが来る前にラクトスに行って、カレスさんに薬草を渡すのも良いだろうな。
「ええとだな……私も、その……連れて行って欲しいのだ」
「エッケンハルトさんを?」
「うむ」
「それは良いんですが……セバスチャンさんには言ってあるんですか?」
「セバスチャンには秘密で、だな。レオ様に乗って行くんだろう? それなら、馬車を使わなくても良いいからな」
セバスチャンさんに秘密か……という事は、誰にも言わずにこっそりとラクトスへ行きたいという事かな?
「でも、良いんですか? 誰にも言わなくても……護衛する人とか……」
「まぁ、本来は必要なのはわかっているんだがな。しかし、レオ様もいるし、私も戦える。タクミ殿も育って来たからな」
「はぁ……確かにレオがいれば大抵のことは大丈夫でしょうけど……」
レオがいれば、護衛いらず……というのは確かにそうだと思う。
まぁ、建物の中までついて来れないから、完全と言うわけじゃない。
エッケンハルトさんは、俺が足元にも及ばない程の剣の達人だから、何とかなるかもしれないが……。
「たまには、護衛を引き連れてではなく、個人として街を見たいのだ……セバスチャンや他の者に知れたら、止められるだろう」
「そりゃ、そうでしょうね」
エッケンハルトさんは、気さくだし、偉ぶったりせず話しやすい人だが、公爵家の当主なんだ。
貴族制度に疎い俺でも、何かあってはいけない人……重要人物なんだという事くらいはわかる。
もしかしたら、エッケンハルトさんを敵のように考えて、狙う人がいるかもしれないというのも考えられるしな。
「頼む、この通りだ!」
「はぁ……もし、見つかっても、怒られるのはエッケンハルトさんですからね?」
「うむ、それはわかっている」
「わかりました。それじゃあ、明日は一緒にラクトスへ行きましょう」
「ありがとう、タクミ殿!」
俺に向かい、頼み込むように頭を下げるエッケンハルトさん。
もし見つかったら、またクレアさんやセバスチャンさんに怒られるんだろうなぁ、とは思うけど……懲りない人だ。
俺が頷いて許可をすると、嬉しそうにするエッケンハルトさん……そんなに護衛とかいない状態で、街に行きたかったのか……。
まぁ、俺は元々ラクトスに行くつもりだったから、ついでと考えれば良いか。
「それでは……明日、警備の兵の目を掻い潜って、屋敷を出る。途中で合流しよう」
「……はい、わかりました」
屋敷を警護してる人達の目を掻い潜れるのかはわからないが、エッケンハルトさんなら屋敷の事をよく知ってるだろうから、できるんだろう。
あぁ、最初にクレアさんと会った時も、屋敷を抜け出してきてたんだっけ……意外とザル警備?
いや、警備のをする人達の事を知ってるから、隙をつく事ができたんだろう。
「では、明日は頼む」
「はい」
「ワフ!」
退室して行くエッケンハルトさん。
レオは元気よく頷くように鳴いて返す。
人を乗せて走るのが好きだから、乗せる人が多くなって嬉しいのかもしれない。
「はぁ……明日はエッケンハルトさんと一緒か……まぁ、慣れて来たから何とかなるか」
「ワフ?」
「エッケンハルトさんは偉い人だからな。さすがに緊張くらいはするさ。……さて、そろそろ寝るか」
「ワフゥ」
俺とレオだけになった部屋で、軽く話してからベッドへと潜り込む。
寝る間際、お酒を飲み続けてるクレアさんとアンネさんの、明日の体調が気になったが、俺には何もできる事がないと諦めて、意識を閉じた。
―――――――――――――――――――
翌日、朝の支度をして、朝食へと誘いに来てくれたティルラちゃんと、頭にシェリーを乗せたレオを連れて食堂へ。
「おはようございます」
「おはようございます、タクミ様」
「……クレアさん達はいないのですね?」
食堂へと入ると、セバスチャンさんとゲルダさんだけがいて、他には誰もいなかった。
……エッケンハルトさんは、今日はまたいつもの寝坊なようだ。
それはともかく、クレアさんがいないのは珍しい。
「クレアお嬢様は、昨日のお酒が原因で、まだ寝ておられます。おそらく、昼までは起きられないものと……」
「……そうですか」
「アンネリーゼ様は、体調が悪いと仰って、部屋で休んでおられます。ライラも、昨日は遅くまで起きていたようで、今は休ませております」
「アンネさんも、災難だったようで……ライラさんは、ゆっくり寝て欲しいですね」
俺とエッケンハルトさんは、食堂から逃げ出し、アンネさんを生贄に後の事をライラさんに任せた。
飲み過ぎたクレアさんは眠りが深く、起きないようだし、アンネさんは……まぁ、二日酔いだろうな。
ライラさんは……ゆっくり休んで下さい……ごめんなさい。
「では、朝食の用意を致します」
「すみません、お願いします」
今日は俺とレオ、ティルラちゃんとシェリーの、いつもより少し寂しい朝食になるようだ。
まぁ、たまにはこういうのも良いかもな。
「シェリーに怒られました……」
「ははは、ティルラちゃんが食べてるシェリーに、ちょっかいをかけるからだよ?」
「ワフ」
「ごめんなさい、シェリー」
「キャゥ!」
朝食中、ティルラちゃんが、一生懸命食べてるシェリーを触っていた。
たまたま、手が食べてるシェリーの口の近くへ行き、取られると勘違いしたシェリーがティルラちゃんに怒ったのだ。
レオも、怒るのは当然とばかりに頷いている。
ティルラちゃんが謝っても、すぐに機嫌が直らなかったらしく、シェリーは一声鳴いて、プイっと顔を背けた。
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