第248話 薬酒の事を考えました



 日本は物に溢れてたから、あれが体に良いだの、これが体に良いだのと言った物はいっぱいあった。

 でも、仕事にかまけてて関心は無かったし、あまりそういった事に凝ったりもしてない。

 仕事の疲れを取りたいと思う事はあったが、いくつか試しても実感は得られなかった。

 ……効果があるとかないとかは関係なく、仕事ばかりで、ろくに休めなかったのが原因なんだろうけどな。


 どれだけ効果のある物でも、休まなければ意味がないしなぁ……。

 それこそ、この世界に来てから作った疲労回復の薬草や、筋肉疲労を取る薬草の方が、よほど効果が実感できる。

 あれは、『雑草栽培』という特別な能力で作った薬草だからなぁ……休まなくても良いというわけじゃないけどな。

 ……考えてみると、魔法に近い物なのかもしれない。


「ふむ、疲労回復か……あの赤い箱の薬酒も、疲労回復効果があるらしいよな?」


 誰に聞かせるともなく呟き、考えてみる。

 ワインに混ぜ込み、味を損ねる事無く効果が表れるかどうかというのはわからないが、試してみるのも良いかもしれない。


「まずはラモギだな。とりあえず今、屋敷にあるワインの病原を取り除かないと」


 どれだけ疲労を回復できるワインを作れたとしても、病原があるままでは飲む事はできない。

 疲労が回復したとしても、病気になっては意味がないからな。

 ヘレーナさんに試作してもらうため、ラモギを多めに作りながら、薬草を考えて行く。


「んー……疲労回復、栄養補給、眠気……は取らない方が良いか。寝る事で休まる部分もあるはずだしな。逆に眠気を誘発するのも悪くないか……睡眠薬? いや、それだと強力過ぎて危ないか」


 作ったラモギを摘み取りながら、どんな薬草が良いかを考えて行く。


「……待てよ? 別に一つの物にしなくても良いのか……それなら……」


 摘み取ったラモギの処理を済まし、ニックに渡すのとは別にして保管しながら考える。

 ……この場に他の誰かがいなくて良かった……ぶつぶつ言いながら薬草を作る姿は、怪しく見えても仕方ないだろうから。


「滋養強壮とかもあったな……あとは、血行促進……はアルコールと合わせたら危ないか」


 量を守って飲むのであれば、血行促進をしても大丈夫だろうが、この世界の人達は用法用量守って……という考えが浸透してるとは考えにくい。

 まぁ、言えば守ってもらえるかもしれないが、そこまでするのはちょっと手間かもしれないしな。

 主に、販売をする人達が……だけどな。


「アルコールが回って酔いが早くなるのは、酔いたいだけの人には良いかもしれないが……やっぱり危険そうだから考えるのは止めよう。そもそも、アルコールにも血行促進の効果があるしな……」


 少量だけ飲む、血行促進の薬酒を作っても良いかもしれないが、それはまた今度にしよう。

 まずは、数多く出荷できる可能性のある物を考えるべきだ、ランジ村のために。


「欲しいのは、疲労回復と滋養強壮と栄養補給……かな。この3つで、病気になりにくい状態にした方が良いだろうな」


 病気になりにくければ、それだけラモギのような薬草を必要としなくなる。

 絶対病気にならないわけじゃないから、需要はなくならないだろうけどな。

 

「疲労回復は、今ある薬草を使えば良いか。問題は、滋養強壮と栄養補給だな……栄養と言っても、色んな成分があるし……どうやって作るかだ……」


 まず栄養補給をして、滋養強壮効果のある物を飲む。

 そうする事で、必要な栄養分を体へと行き渡らせる事ができる……という考えだ。

 知識なんて聞きかじった程度にしかないから、正しいとは言えないが、大きく間違ってはいないはずだ。

 しかし栄養素なんて、色々あるしなぁ……取り過ぎてはいけない物もあるし……難しいな。


「基本的には、食事から栄養を取るだろうから……タンパク質とビタミン……あと鉄分あたりを少量含んでいるのが良いか。多過ぎてもいけないから、補助をするくらいので……」


 健康補助食品と同じような考え方だな。

 あくまで、通常の食事にプラスして飲む事で、足りない栄養を補う事を考える。

 あとは、滋養強壮の部分で少なくとも必要な分はしっかり吸収される……とした方が良いだろう。

 管理栄養士の資格とかを持っていれば、色々考える事ができたのかもしれないが、俺はそういった資格を取ったり、勉強をしたりはして来てないからな。

 この世界に、栄養素を分析する技術とかも無さそうだし。


「よし、滋養強壮と栄養補給の薬草を……」


 ある程度考えをまとめて、地面に手を付いて『雑草栽培』を発動。

 数秒おいて、いくつかの植物が生えて来た。

 その植物を摘み取り、手のひらに乗せてもう一度『雑草栽培』を発動。

 乾燥して粉になった物や、何も変わらない物などができて、処理は完了だ。


「むぅ……多分これが滋養強壮なんだろうけど……他のがな……」


 滋養強壮の薬草は、見た目がアシタバに似た薬草だ。

 『雑草栽培』での処理すると、葉から黄色い汁が出てそれが全体を包み、葉が黄色くなったところで乾燥。

 この状態で完成のようだ。

 見た事のある薬草だから、何となくこれが滋養強壮だとわかったが……この世界だと何て名前なんだろうなぁ……?

 効果もアロエがロエだったように、強力な効果があったりするんだろうか……後でセバスチャンさんに聞くか、借りた勉強用の本で調べてみよう。


 それはともかく、他の薬草。

 いくつかの薬草が出来上がったんだが、そのどれもが効果がいまいちわからない。

 栄養補給の事を考えて栽培したんだから、豊富な栄養素を持っている薬草だとは思うんだけど……5種類もあったらどれを使って良いのかわからない……。

 ……これも、後でセバスチャンさんに相談……かな?


「とりあえず、こんなもんか。ラモギを持ってヘレーナさんの所に行こう。まずは試作してもらわないとな」


 作った薬草を持ち、裏庭から屋敷へ入るために移動する。


「レオ―、俺はちょっと厨房に行くから、そのまま遊んでていいぞー」

「ワフー!」

「キャゥー!」

「タクミさん、いってらっしゃーい」

「ちょ、ちょっと待ってくれー」


 レオに声をかけ、ティルラちゃん達にも裏庭を離れる事を伝えてから、厨房へ向かう。

 エッケンハルトさんだけは、助けを求めていたようにも見えたけど……ちょっとだけ楽しそうな雰囲気だったから、そのままにしておいた。



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