第142話 レオと予習をしました


「ワフ! ワフ!」

「わかったわかった」


 俺とミリナちゃんが雑談をして、勉強から離れてるとレオから催促するように鳴かれた。

 早く本を進めろと言ってるが……本当にお前も勉強してるのか……。

 薬の知識を勉強するシルバーフェンリルって一体……必要なのか?


「タクミ様、ミリナ。そろそろ休憩をなさってはどうですか?」

「あぁ……もう結構時間が経っていたんですね」

「暗くなってきましたね」


 俺とミリナちゃん、レオで勉強に集中していると、ライラさんから声を掛けられる。

 窓の外を見てみると、もう日が傾いて段々と暗くなってくる時間だ……結構集中してたんだな。


「んー、今日はここまでにしようか」

「休憩したら、また勉強できますよ?」

「そろそろ夕食だしね。他にもやりたい事があるし。今日はここまでにしよう」

「……わかりました」

「ワフ」


 休憩のため、お茶の用意を始めたライラさんを見ながら、今日の勉強を終わらせる事をミリナちゃんに告げる。

 勉強する事が楽しくなって来た頃合いだから、まだ物足りないんだろうけど、あまり一気に詰め込んでもな……。

 それに、今日ここに来たばかりだから、そろそろ疲れも出る頃だしな。

 レオの方は、素直に頷いてくれる……しかし、本当にずっと本を見ていたなレオ……。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 お礼を言いながら、ライラさんが淹れてくれたお茶を飲んで、ホッと一息。

 体を動かしたわけじゃないが、代わりに勉強は頭を使う。

 美味しいお茶が、脳に染み渡るなぁ……実際に染みてるわけじゃないだろうが。


「美味しいお茶ですね。こんなのは初めてです」

「ライラさんの淹れてくれるお茶は、美味しいんだよー」

「ありがとうございます」


 お茶の美味しさに驚くミリナちゃん。

 茶葉とかも上等な物を使ってるだろうし、淹れ方もちゃんとしてるようだから、孤児院とかでは飲めなかっただろうな。

 ライラさんがレオにも牛乳を用意するのを見ながら、しばらくのんびりする。

 ゲルダさんが、夕食の準備が出来たと知らせてくれて、食堂へ移動。

 勉強に使った物は、ライラさんが部屋に置いて来てくれるそうだ……ありがとうございます。


「今日はミリナちゃんも一緒ね」

「私なんかが……良いのでしょうか?」

「今日はお客様として迎えているのだから、良いのよ」


 明日からは使用人待遇らしいが、今日一日はお客様待遇だから、夕食は俺やクレアさんと同じテーブルで一緒だ。

 初めての屋敷で、大きな食堂に大きなテーブル……孤児院育ちのミリナちゃんが躊躇するのは無理もない。


「今日は厚意に甘えれば良いんじゃないかな?」

「師匠が言うなら……わかりました」


 頷いたミリナちゃんも、テーブルにつく。

 座った場所は、レオの隣……俺の反対側でレオを挟む形だ。

 向かいにはいつものようにクレアさんと鍛錬を終えたティルラちゃんが座ってる。

 セバスチャンさんはまだ忙しいのか、ここにはいない。

 ライラさんとゲルダさんは、いつものように待機しているが……ライラさん、ノート代わりに使った紙等を部屋に持って行ったはずなのに、もう待機してるんですか……。


「美味しいです。こんな美味しい物が食べられるなんて!」


 ミリナちゃんは、夕食を食べ始めてすぐその美味しさに感激の声を上げている。

 ヘレーナさんが頑張って作った料理だから、その美味しさは納得だ。


「ふふふ、ヘレーナが聞いたら喜びそうね」


 ミリナちゃんが感激しながら食べている様子を、クレアさんが微笑みながら見ている。

 その視線に気付いたミリナちゃんは、少し恥ずかしそうにしていたが、料理の美味しさには勝てないのかそのまま勢いよく食べていた。

 食事も終わり、ティータイムも終了した。

 ミリナちゃんは、ゲルダさんと部屋へ。

 俺とティルラちゃんは剣の素振りのため、裏庭へ出た。

 今日は薬の勉強で鍛錬があまりできていないから、特に集中して素振りをしておいた。


「お疲れ様、ティルラちゃん」

「今日も頑張りました。明日も頑張ります!」


 素振りを終えて、ティルラちゃんに挨拶した後は、汗を流して部屋に戻る。


「一応、本を先に読んでおくか」

「ワフワフ」


 部屋に戻って机に、今日の勉強で使っていた本が置いてあることに気付いた。

 ライラさんが置いてくれたんだろう。

 俺は机について、その本を読み始める。

 師匠と呼ばれてるからには、予習くらいはしておかないとな。


「ワフゥ」

「レオ、読めるのか?」

「ワフ」


 俺の後ろから、本を覗き込んでいたレオが考えるような声を漏らしたので、聞いてみる。

 それに頷くレオ……文字を読めるのか……凄いな、シルバーフェンリル……。

 理解してるかどうかはわからないが。


「ふむ……ふむ……成る程」

「ワフ……ワフワフ」


 俺とレオは、少し遅くまで本を読んで過ごした。

 睡眠時間が減ってしまうが、予習は大事だからな。


―――――――――――――――――――


 翌日朝食後、ミリナちゃんに『雑草栽培』を見せるため、一緒に裏庭に出た。

 先にレオとの鍛錬を済ませ、俺は離れた場所で『雑草栽培』を使用する。

 ……今日もレオに剣を当てられなかった……すぐに出来る事じゃないとは思うが、やっぱり悔しい。


「以前にも見せてもらいましたけど、やっぱり不思議ですね」

「そうだね。俺も自分で使っておきながらそう思うよ」


 ミリナちゃんが食い入るように、俺の手元を見ながら呟く。

 俺も自分の能力ではあるけど、何も無い地面がら薬草が生えて来る光景は、何度見ても不思議なものだ。


「やっぱり師匠は凄い人ですね!」


 ギフトを使い終わり、今日の薬草をライラさんに渡していると、ミリナちゃんがキラキラした目で言って来る。

 ちょっと照れるな。


「タクミ様、ニックさんがいらっしゃいました」

「わかりました。今行きます」


 そうこうしていると、ゲルダさんが俺を呼びに来てニックが来た事を伝えてくれる。

 客間で待たせていたニックに、ライラさんが袋に入れてくれた薬草を渡し、今日の仕事は終了だ。

 ……能力に頼る事が多いが、こんなに簡単な仕事で良いのだろうか……?

 以前は汗水流して働いてた俺だから、楽に終わる事に少しだけ疑問を感じる。

 まぁ、気楽にのんびり生きて行くんだから、これで良いのかもしれないけどな。



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