第96話 エッケンハルトさんに気に入られました



「先程の話の中でタクミ様がギフトを持っているとありましたが……」

「あぁ、あの『雑草栽培』というやつか。シルバーフェンリルを従えてるのにも驚いたが、ギフトまで持っているとはな」


 やっぱり俺のギフトを使っての薬草販売契約に関する話のようだ。

 ギフトがあるって事は説明してあるが、どういった使い方をしてるのかはまだ話してなかったな。


「お父様、タクミさんは色々な薬草をそのギフトで栽培する事が出来るんです」

「ほう、例えばどんな薬草だ?」

「最初は、ティルラの病を治すためにラモギを栽培してくれました。それから、試験的に行ったギフト使用で、ロエを栽培しました」

「ロエ……ロエだと!? それはあの高級薬草のロエの事か?」

「ええ、それで間違いありません。タクミさんはそのロエを簡単に栽培して見せました。私もティルラも、セバスチャンも見て確認しましたから間違いありません」


 ロエって、エッケンハルトさんも驚く程の物だったのか……セバスチャンさんから価値については聞いていたが、そんなになのか。

 それからも、クレアさんとセバスチャンさんによる俺のギフト、薬草を栽培する事の説明が続く。


「それに、他にも色々な薬草を栽培してくれました」

「タクミ様は有用なギフトの使い方を研究しているようですな。私も見た事の無い薬草も栽培して見せました。効果の程は私もクレアお嬢様も確認しております」


 森で皆に配った薬草の事だろうな。

 思い付いた事を頭に浮かべてギフトを使うと、必ずというわけではないがほぼ考えた通りの植物が出来る事がわかってる。

 まぁ森から帰ってすぐのように倒れるかもしれないから、使い過ぎには注意が必要なのと、効果にも気を付けておかないといけないけどな。


「ふむ……成る程な。かなり有用なギフトなのだな、その『雑草栽培』というのは。それで、クレアとセバスチャンは私にどうして欲しいのだ?」

「お父様、タクミさんと販売契約を結んで欲しいのです」

「タクミ様もそれを望んでおられます。公爵家で売り出す事での利益は旦那様ならわかると思います」

「そうか……タクミ殿、クレア達の話は本当か? 確かに有用で、我がリーベルト家にとってギフトを使って薬草を作り出し、それを売り出すというのは大きな利益になるだろう。しかし、ギフトを持っている本人が納得していない契約を結ぶわけにはいかんからな」


 クレアさんとセバスチャンさんがエッケンハルトさんに、俺と契約を結んで欲しいとお願いするが、当のエッケンハルトさんは冷静に俺へ問いかけた。

 可愛がってる娘と信頼している執事に頼まれても、俺が納得している事が重要と考えるなんて、エッケンハルトさんは随分と人情家なのかもしれないな。

 それで公爵家の商売が上手く行ってるのなら、エッケンハルトさんは商売の手腕が優れてるというのは確かなんだろう。

 以前の世界だと、仕事の取引先を無理矢理納得させて、会社に利益を求めるという契約をみたりして来たから、ちょっと新鮮だ。

 そういう人相手なら何も躊躇する事は無い。

 以前みたいに仕事だけの生き方になるような事もないだろう。


「はい。クレアさんやセバスチャンさんが言っているように、公爵家と契約を結びたいと思っています」

「そうか。それはクレア達に頼まれたからというわけではないのだな?」

「ええ。クレアさんからは公爵家と契約する事の利点を教えてもらいました。同時に不利点も。ですが、俺はここで利益ばかりを求める事をしたくはありません。そのうえで、この世界やお世話になってる人達の役に立てるなら、その通りにしたいと考えています」

「ふむ……」


 俺の意見を聞いて、考え込むエッケンハルトさん。

 厳しい目で俺を見ているから、多分品定めというか、俺のいう事が本当なのか確かめようとしているんだろう。

 俺はエッケンハルトさんの目を見返して、逸らさないように気を付けた。

 正直に言うと、山賊と言われてもおかしくないような粗野な風貌から厳しい目を向けられて結構怖かったんだけどな。

 こういう時、取引相手の目を見てプレゼンをするという以前の仕事での経験が役に立った。

 まぁ、今はプレゼンをしてるわけじゃないが。


「……ははははは!」

「お父様?」

「旦那様?」

「ワフ?」

「キュゥ?」


 俺と目を合わせたまましばらくそのままだったエッケンハルトさんが急に笑い出した。

 クレアさんやセバスチャンさんもいきなり笑い出したエッケンハルトさんに戸惑っている。

 レオやシェリーすらも首を傾げてエッケンハルトさんに注目してる。

 ティルラちゃんは声を出さなかったが、他の皆と同じように首を傾げて戸惑ってるようだ。


「私から目線を逸らさずそこまで言い切るとはな。気に入ったぞ、タクミ殿。……いや、これはこちらからお願いするような案件だ」

「お父様、それじゃあ?」

「ああ、タクミ殿と契約を結ぼう。これは優先的にだな。まさか私の容貌と視線を受けても目を逸らさない男がいたとはな」

「……お父様の見た目は、普通の人は怖がりますから……」


 エッケンハルトさん……自分が山賊っぽくて怖い見た目って自覚してるのか……。

 それはともかく、これで薬草の販売契約は結ぶ事が出来そうだ。

 ようやくこの世界に来て収入に繋がる仕事が出来たな。

 後は、代わりに支払ってもらった街での買い物料金を返すお金を確保しなきゃな。


「セバスチャン、契約の条項等を確認してタクミ殿に渡してくれ。これは公爵家に多大な利益をもたらす重要案件だ」

「畏まりました」

「お父様、タクミさんにちゃんと報酬を用意して下さいね」

「それは当然だろう。報酬を用意しなければただの搾取になってしまう。リーベルト家はそんな事は絶対にしない。それは商売をするうえでの信頼にも繋がるからな。タクミ殿は大した男のようだからな、軽く家が建つような報酬を用意したいところだ。はっはっは」

「いやあの……普通の報酬で良いですからね?」


 エッケンハルトさんに気に入られたのは良いが、過剰な報酬をもらっても困る。

 多過ぎずちゃんとした報酬かどうかわかるまでは安心出来ない部分もあるが、この世界での生活基盤を築く事に繋がる話に、俺は安堵の溜め息を漏らした。



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