第27話 レオが危険では無い事を街の人達に教えました



「ほら、早く歩け」

「おい、逃げようとするな!」

「お前達、手を出してはいけない人に手を出したな」

「馬鹿な事をしたものだ……」


 縄で縛られた男達が衛兵達に連れられて行くのを見送った。


「タクミさん、失礼しました。あのような者達の相手をレオ様にさせてしまって」

「いえ、気にしないで下さい。まぁ、俺はレオに何も言ってませんが……」

「ワウ……ワフワフ」


 何となく、レオは「あんな奴らすぐ追い払うに限る」とでも言ってるような気がした。

 あの男達に比べたら、森で見たオークの方が恐かったな。

 初めて見た魔物だし、豚の顔をして槍を持った生き物が襲い掛かって来るというだけで、何も知らなかった俺は恐怖を感じたものだ。

 レオが一瞬で倒したけどな。

 それに、男達はあの格好のせいでむしろコミカルに見えてしまっていた。

 あれって、レオがいなくてもフィリップさん達で十分だったんだろうな……雰囲気的に。


「あの、すみません」

「はい?」


 男達が連れて行かれるのを見送ったり、クレアさんと話したりしてたら誰かから話しかけられた。

 声を掛けて来たのは、若い女性だ。

 多分10代後半くらいかな? 女性に声を掛けられる覚えは無いけど、何の用だろう? 


「そちらのウルフは貴方の従魔なんですか? それとそちらの女性は、先程衛兵が言っていましたがもしかして……クレア様、ですか?」

「ええと……こっちのはレオ。従魔というか、相棒です。それから……」

「ええ。私はクレアです。どうかなされましたか」


 俺とクレアさんが答えると、ザザッと音を立てて声を掛けて来た女性が片膝をつき、騎士の礼っぽい恰好をした。

 あれ? これって騎士の礼だっけ……ちょっと違うような……確か歴史かなんかで習ったよな……えっと、目上の人に対する礼の一つだったかな。

 庶民が貴族とかに対してするような礼だったかな。


「失礼しました。クレア様、本日はお日柄も良く……」

「今日は公務で来ているわけではありません。なので貴女は……貴方達は私に対する礼の必要はありませんよ」

「……はい、ありがとうございます」


 クレアさんの言葉に女性は一度頭を下げた後、立ち上がった。

 ん、貴方達?

 ふとクレアさんの言葉が気になって周りを見渡してみると、俺達が向かってる方向に数十人の人だかりが出来ていた。

 何事!?


「それでクレア様、そのお連れになっておられるウルフはもしや……」

「……変に隠しても妙な噂が立つだけかしら」

「かもしれませんな、お嬢様」


 女性の言葉に何やらクレアさんとセバスチャンさんがボソボソと相談をしてる。

 おや、二人共俺の方を向いたぞ?


「タクミさん、レオ様の事なのですが……」

「レオが何か?」

「おそらくその大きさと、先程のショートソードを砕いた牙から、レオ様が何なのかという事かと思われますが……レオ様の事を話してもよろしいでしょうか?」


 俺の疑問にセバスチャンさんが答える。

 レオの事……もしかして、シルバーフェンリルって事かな?

 別に隠す事でもないし、良いんじゃないかな。


「ええ、良いですよ。レオの事を隠したいわけでもないですから」

「わかりました、ありがとうございます」

「……えっと……?」


 俺達で相談してたから、女性が少し置いてきぼりになってるな。


「ええと、貴女の名前は?」

「は、はい。エメラダと申します!」

「では、エメラダ。先程言いかけた事を言ってもらえますか?」

「……はい。えっと、そ、そのウルフですが、銀色の毛並みにクレア様と一緒におられる事。さらにその大きさで、先程の剣を砕いた牙からシルバーフェンリルではないかと思ったのです。剣を牙で砕くなんて、普通のウルフでは出来ない事だろうと」

「ええ、そうね。貴女の予想は正しいわ。この方はシルバーフェンリルのレオ様。こちらのタクミさんの従魔です。なので、危険はありませんよ」

「そうなの、ですか……?」


 女性……エメラダさんは恐る恐るレオを見ている。

 初めて屋敷に行った時のゲルダさんの反応を思い出すな。

 んー……ちょっと気になったが、クレアさんと一緒にいる事で何故レオがシルバーフェンリルだという予想に繋がるんだろう……?

 これも後で聞いてみるか。

 セバスチャンさんなら喜んで説明してくれそうだからな。

 今はレオが危険では無い事を周りに教えないといけない。

 エメラダさんだけでなく、集まった人達も怖がってる様子だ。

 何人か、この世の終わりって顔をして絶望してるが、レオはそんなに怖くないからねー。


「エメラダさん」

「は、はい」

「レオはおとなしいですから、怖がるような相手じゃないですよ。安心して下さい」

「……でも……シルバーフェンリルは何者にも負けない最強の魔物、です。それがおとなしくしてるなんて……」

「レオ、伏せ。……ほら、おとなしくしてますよ?」

「ワフ」

「……え?」


 俺はレオに伏せをさせ、低くなった頭を撫でた。

 それを見たエメラダさんと周りの人達は驚いて固まってる。


「レオは人を襲ったりなんかしません。それに、この街に入ってここまで何事も無いんです、衛兵にも何も言われていません。レオが無害な証拠になりませんか?」

「あ……確かに……そう言われると、先程の衛兵達は何も言わずに立ち去りました……」

「……衛兵にはお嬢様が身元を保証するからと言い含めたんですけどね」


 ……セバスチャンさん、後ろでボソッと呟かない。

 衛兵に言い含めてたのは知らなかったが、門を通る時も先程の男達を連れて行く時も何も言われなかったから、それを理由の一つにさせてもらった。


「エメラダさん、少しだけこちらへ」

「え……でも……」

「怖くはないですから。ほら」

「は、はい」


 俺はエメラダさんをレオの近くへ来させて、手を持ち上げて頭を撫でさせた。

 レオは見知らぬ人に撫でられてるのを気にする事も無く、気持ち良さそうにしてる。


「ワフワフ」

「……これは……確かにおとなしいですね。」

「そうでしょ?」

「はい……。それにこの撫で心地は……癖になりそうです……。シルバーフェンリルがこんな撫で心地だったなんて……」

「レオは毛並みが良いですからねぇ」


 レオの毛を撫でてると癒されるというか何と言うか……。

 フワフワな毛だから、触ってて気持ち良い。

 ティルラちゃんも抱き着きたくなるのは良くわかる。

 レオの毛並み枕とか無いだろうか……なんてくだらない事を考えてしまった。



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