第229話 相棒 オム・オント

 「よう、お疲れ」


 サクラは山賊の親分、クシュを縄でグルグル巻きの簀巻き状態にして、担いで山を下りるとオントが待っていた。


 オントの足元には、意識がない男たちが転がっていた。


 よく見れば、クシュとの戦いの最中に逃げ出していた山賊たちの残党たちだった。


 「流石に早いね」とサクラは称賛した。


 サクラがクシュを捕らえて、山を下りるよりも早く、山中をバラバラに逃げ出した山賊の全員を捕えて待っていたのだ。


 そのスピードは人間技ではない。 いや、そんなことよりも山中に逃げ出した山賊の正確な場所をどうやって把握したというのだろうか?


 「あの……すいません。そろそろ、引き渡しの方を……」


 あらかじめ待たせていた衛兵たちが山賊の引き渡しを要求してきた。


 「いいよ。ただし、報酬と引き換えですよ」


 「はい、もちろんです。彼女たちも喜んでいますよ」


 「彼女たち?」とサクラは小首を傾げる。

 すると――――


 「サクラさまがお待ちだ。もう出てきても構わないよ」


 そう、衛兵の掛け声に反応して、ぞろぞろと女性が現れた。


 ぞろぞろと数十人も……


 「……これは?」


 「はい、ご希望の踊子風の褐色美女です」


 「えっと? 何か勘違いをしてますよね?」


 「いえ、そんなことはありません。伝説の探索者トーア・サクラの嫁探し旅の話は、この田舎でも有名です」


 「間違って広まっている!!」


 そう叫んだサクラの背後でオントがゲラゲラと笑い声をあげた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「今回も空振りか……」


 曰く最強の探索者。


 曰く神話の住民。


 曰く神殺し。


 曰く龍の化身……


 しかし、トボトボと力なく歩く姿から、数々の異名を連想するのは難しいだろう。


 あの日、『教会』との戦い。 神を再現した人と殴り合い、そして勝った。


 しかし、その戦いの直後、最愛の人であったドラゴンは姿を消した。


 いや、ドラゴンだけではない。 僕のことを父親と慕ってくれた少女――――クリムもいなくなった。


 原因はわからない。


 どうして、2人は姿を消したのだろうか?


 2人の実力から言って他者に連れ去られたとは思えない。


 あくまで自発的に2人同時に姿を消した。


 心当たりは……ない。


 だから、サクラは2人を探す旅に出た。 親友のオム・オントと共に――――


 しかし、誰が信じるだろうか? 今まで誰も足を踏み入れることができなかった迷宮ダンジョンの最深部。この2人が4つもの迷宮で最深部まで到達した目的が、行方不明になったドラゴンとクリムの手がかりを探すために過ぎなかったという話を――――


 「まぁ、今回の情報も空振りだったわけだが、そう気を落とすなよ。いつもの事じゃないか」


 「いつもの事だから、気落ちしてるんだよ!」


 そんないつも通りの会話をサクラとオントが交わしていると……


 「ん? サクラ?」


 「なんだよ」


 「その『転送の指輪』が光ってるぞ」


 サクラは指輪に目をやる。オントが言うように光っていた。


 この指輪が光るときは、シュット国に残した対となる指輪を通じて、誰かがコンタクトを取ろうとしてる時だ。 それもドラゴンとクリムの情報を最優先に……


 サクラはすぐに指輪を起動する。


 小さな光の粒子が現れ、何かが送られてくる。


 光が消え、現れた物は……


 「紙? 手紙か?」


 オントが言うように、それは手紙だった。


 サクラは素早く内容に目を通したかと思うと――――


 「オント! 帰るぞ! すぐに」


 そう叫んだ。


 「まてよ。帰るって? どこに帰るんだよ」


 「決まってる。シュット国だ。 未知の迷宮ダンジョンが発見され、ドラゴンの目撃証言があるらしい」


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