第206話 水中の魔物

  「さて……どうしましょうか?」


 僕は尋ねた。


 壊してしまったバトラーの人工ダンジョンを調べてみたが……


 「結局、聖遺物でしたけ? 出てきませんでしたね。本当はないんじゃないですか?」


 「う~ん」と僕は考える。


 2人倒した結果、2人とも聖遺物を保持していなかった。


 最初から持っていなかったとしても存在そのものを疑問視する短絡的だ。


 それに2人が持ってなくても、あとの10人も持っていないと決まっているわけではない。


 「2人はどう思いますか?」


 僕はインザンギとアンドリューに意見を求めた。


 「考えてみたけど、全員が持っていない可能性もあると思うけどね」とインザンギ。


 「私もそう思います」とアンドリューもそれに続く。


 「12使徒がここへ来ているのは、戦争の前の鍛錬の意味合いもあると考えれば、常備『聖遺物』を持っているとは限りません。1か所にまとめてある可能性もある……インザンギは、そう言いたいのです」


 アンドリューの説明にインザンギは「そう、それ!」と嬉しそうだった。


 だったらと僕も意見を言う。


 「しかし、一か所というと……教皇ですか?」


 「でしょうね、この場所で『聖遺物』なんて貴重な物を保管して安全と思える場所はそこだけでしょね」


 「……なるほど」と僕は納得した。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 そうして、次の『人工ダンジョン』が見えてきた。


 いや、見えるだけではない。臭ってきた。


 「この臭いは……海? 磯の香りか?」


 もしかして……


 次のダンジョンは星座で言えば、うお座。


 つまり、魚だ。 


 「海の水をダンジョンで浸しているのか? こんな辺鄙へんぴな地に海水を運ぶとか、手間と金をかけ過ぎだ!?」


 僕らは、足早にダンジョンへ近づく。


 入口から見えるダンジョンの内部は、海が再現されていた。


 波をどうやって再現してるのかは、見当もつかないけど……


 僕は水面に顔を近づけた。


 「……魚がいる」


 この場合、魚がいることは当然なのだろうか? それとも突っ込んでしかるべきなのだろうか?


 若干、正常な判断ができなくなって……


 「……いや、来る!」


 僕は、集中力を高める。 感じたのは魔物の存在。


 こちらに向かって近づいている。


 水中を泳ぎながら――――速度は速い!


 海のステージで水系の魔物を相手しなければならない。


 その不利に心が呼応する。


 そしてそれは現れた。 水面から飛び出す勢いで水柱を上げながら、現れた魔物は――――


 「我は、うおの守護者。侵入者を排除する!」


 流暢に言葉を話した。


 「……しゃ、喋った!? と言うよりもアンタは!?」


 その姿に驚きを隠せなかった。なぜ、なら現れた魔物の種類は――――


 「サクラさん、あれって人魚ですか? それとも私はジュゴンを人魚と錯覚しているのでしょうか?」


 ドラゴンは錯乱している。だが、彼女の言う通り魔物の正体は人魚だ。


 ――――いや、確かに彼の顔はジュゴンに似ている。


 僕も、目の前の魔物が人魚だと明言できなくなってきた。


 「いや、だが……けれども……おちつけドラゴン。あれは人魚だ……たぶん」


 現れた魔物は人魚。それも男の人魚だ。


 下半身は魚介類のソレ。 手には三又の槍。 髪は海藻類のように黒々で、揺れている。


 「ぶほうぁぁああああ!」と人魚は裂ぱくの気合(?)と共に襲いかかってきた。

 だが――――


 「……ファイア」


 アンドリューさんの魔法で一瞬でいい匂いに……いや、焼かれてしまう。


 「熱い! 熱い!」とそのまま、水面に潜り沈下。

 再び浮上してきた。


 「殺す気か! うっかり、焼き魚になるところだったわ!」


 い、いかん。殺伐とした空気が吹き飛んでしまう。


 殺し合いの雰囲気にならない。


 「――――ッッ!? まるで、戦闘漫画に潜り込んだギャグキャラ。これは苦戦必至ですよ。サクラさん!」


 ドラゴンがわけのわからない事を言い始めた。


 まさか、人魚が現れてから混乱が回復していないのか?


 「SAN値チェックどーぞって感じですね!」


 「正気に戻れ! えぇい! 行くぞ!」と僕は水中へ飛び込んだ。



 

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