第184話 ゴブリンシャーマンキング


 「ゴブリンたちが踊っている?」


 轟々とした炎を囲み、ゴブリンたちは松明を高く上げて踊っていた。


 「あ、あの踊りは!?」


 「知っているのか? ドラゴン!」


 「う、うむ……あの踊りは旧時代で言うところの室戸市名物シットロト踊り……いや、アニメ版の某南国少年では実在する踊りだったため、んばば踊りと修正されていましたね」


 「……まだ、そのノリを続けるつもりなんだな」


 「おっと、顔が怖いですね。そんな事より、あのキャンプファイヤ―の後ろをご覧ください」


 「キャンプファイヤー? 燃えてる薪の部分の後ろって事か?……なにあれ?」


 異常に巨大なゴブリンがいた。


 ゴブリンボクサーも大きかったが、それ以上。


 デカさだけなら、あのオーク王を思い出させる。つまりは、建物と比類されるほどのサイズ。


 巨大な丸太を杖のように持ち、その先端には火が灯っている。


 なにより奇妙なのは、その顔を隠すように髑髏ドクロの仮面をかぶっている所だ。


 どうやら、髑髏は髑髏でも人のものではなくゴブリンの髑髏みたいだ。


 よく見ると、そばに盾らしき物が転がっている。あれも全体に髑髏が書かれている。 


 「言うとすればゴブリンシャーマン……いえ、ゴブリンシャーマンキングと命名しましょう」


 「長いな。よし!却下だ」


 「じゃ、略してGSKです」


 「よし、それで……僕はシャーマンとだけ呼ぶけどね」


 「……酷い」と拗ねるドラゴンをほっておいて、どう攻めるか?


  「そうですね。まさに私が嫌いなユニークモンスターの代名詞みたいな恰好してますからね」とドラゴンは言う。


 「確かに、特殊攻撃してきそうだな」


 「まさに厄介な相手ポイです。もしも、精神攻撃を受けた結果、『心の中の自分に打ち勝て系』の場合だったら私は3分で飽きて白旗振りますよ」


 「お前なら本当にやりそうだと納得できるが、もう少しは頑張れよな」


 「それに、アイツって、スピリチュアル系で他人のオーラとか診断しそうなタイプじゃないですか?」


 「ん?それは、よくわからないが?」


 「胡散臭い感じがプンプンです!」


 「……うん、そうか」


 しかし困った。


 僕らは、新造ダンジョン化の原因を取り除く、完全体のダンジョンが生まれるのを阻止するのが目的だ。


 そのためにはダンジョン最深部まで調査する必要がある。


 ダンジョンが膨張して1層から2層と増えているは誤算だった。


 地下何層まであるのかすらわからない。 ダンジョンとして完成してしまえば100層以上潜る事になるかもしれないが、この段階では、そこまで地層に変化は起きているわけではなさそうだ(変化が起きていれば外から見ても地層の異常が発見できる……はず)。


 当然、最深部にはラスボスがいる。 


 1層程度の道のりなら、楽々の遠足気分で踏破して、ラスボスをドラゴンに任せればうまくいくと思っていたが……肝心のドラゴンのやる気がなければ、最深部までの見当すらつかない……


 「ちなみに、あのシャーマンってこの階層の主って感じなのか?」


 「え?あぁ……そう言えば、そんな設定もありましたね。少し、お待ちをこのドラゴンアイでステータス分析をしてみましょ!」


 「そんな便利機能があったのか!?」


 いや、そんな機能があるなら、ユニークモンスターも怖くなさそうだが……


 たぶん、それは僕がいるから普段よりも慎重になっているので、1人だったら突っ込んでいくのかもしれない。 


 たぶん、僕は……


 「コイツに守られているのか」


 「え? 何か言いましたか?」


 「ん? いや、なんでもない。ただ、お前への感謝を述べただけだよ」


 「……聞き逃しました」


 「それは残念。 あとで言い直すから元気だせよ」


 「はい!」と弾む様な声を出すドラゴンだった。


 そのままのテンションで、こう続ける。


 「私、勘違いしてました。アイツ、ユニークモンスターじゃなくて、ラスボスでした!」


 「……おい!」


 「いやぁ、ラスボスが特殊攻撃系って珍しいですよ。きっと、新参のラスボスだけでしょうね。……でも、どうしましょうか? 正直、私は戦いたくありません」


 「そうは言っても……もしかして、あの儀式がダンジョン化の原因だったりするのか?」


 「!? 流石、サクラさん! 鋭いですね。その通りですよ」


 「……僕が単騎で戦ったとして勝率は、どのくらいだと思う?」


 「いやぁ、実はラスボスと言いましても新造ダンジョンの2層程度を根城ねじろにしてる奴ですよ? サクラさんでも行ける! 行ける!」


 「……」と僕は無言で考え始める。

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