第170話 ドラゴンVSクリム その③
一部の観客たちが異常に気づく。
「お、おい……あれ…」
「なんで、平気で喋ってんだ?」
観客からは悲鳴のような声が漏れた。
爆煙が散り、徐々にドラゴンの体が明らかになる。
その異常性は全ての観客に共有され―———
「なんでアイツ、体を貫かれて平気なんだ!」
絶叫があがる。 それも、そのはずだ。
空中に浮かぶドラゴンの体には『魔剣 ロウ・クリム』が突き刺さっていたのだ。
「う~ん、このままじゃ誤魔化しきれないですね。仕方がありません」
ドラゴンはため息、1つ。そして、こう続けた。
「クリムちゃん、私は貴方があと3人いたら、負けていたと言いましたね?」
「うん、それって強がりだよね。 今の貴方、内蔵がボロボロだよ……ってね。よっ!」
クリムは空中で腕を引く動作を行う。
「ガっ!」
ドラゴンから苦しそうな声がでた。クリムが魔剣を操ったのだ。
クリムの動きにシンクロして、ドラゴンに突き刺さっている魔剣が引き抜かれた。
そのまま、魔剣はクリムの手まで戻った。
「ほら、強がりだったね」
クリムはそう言って笑う。しかし―———
「いえいえ、強がりではありません。証拠に今から、3割くらいの力を―———
解放します」
その直後、ドラゴンの体に変化が起きる。
全身から煙が上がる。
超回復
肉体の復元に生じた熱量を外部へ排出する煙だ。
だが、ドラゴンの変化はそれだけでは止まらない。
頭部から角つのが——— 背中からは羽が――― 腕は鱗に覆われていき————
その指には凶悪な爪が伸びている。
「おいおい、こんな場所で正体をばらすつもりかよ?」
僕は焦った。 流石にそれはマズい。
しかし―――
「あっ、あれは龍人化! まだ、使い手が残っていたのか!」
「嗚呼、知っている。本来ならば禁術指定を受けるほどの魔法だが、その使い手が100年以上現れない事から、滅んだとされ、禁術指定を免れた魔法だ」
観客席にいる闘技者たち―———それも達人ぽい人達が勘違いしてくれてる。
龍人化と言うか……人間に化けてる龍なんだが……まさか、本物の龍がいるとは誰も思っていないのだろう。
ドラゴンの宣言通り、彼女は体の3割を龍のそれに戻した。
そして――—ドラゴンは手の平をクリムへ向ける。
魔力の流れが彼女に集まっていく。
対してクリムも————
「させない!」
周囲に火球を形成していく。
「いけぇええええええええ!」
クリムが吼え、彼女の火球はドラゴンに向かって発射された。
そう、発射されたはずだった。
しかし、彼女の火球がドラゴンに向かう途中で減速。
クリムとドラゴンの中間地点で大量の火球は停止した。
「……なぜ? 私の火球が……」
クリムが見せた動揺も一瞬、すぐにドラゴンを睨み————
「何をしたの?」
「私が答えるとでも?……まぁ、答えるんですけどね。貴方から放出された魔力の操作権を剥奪しました」
「————っ! そんな事が!」
「できるんですよ。私の……そう、私の『ギフト』なら! 喰らいなさい!」
『
止まっていた火球が逆走を始め、術者であるクリムへ向かっていく。
それも真っ直ぐではない。まるで生物のように不規則な動き―———避けようとするクリムを追尾する誘導弾へ変化していた。
避けきれないと判断したのかクリムは「———この!」と直接、手に収縮させた魔力をぶつけて相殺する。
おそらく、通常の魔法攻撃では、ドラゴンに操作権とやらを奪われると判断したのだろう。
だが————
「このままだと、クリムに反撃の手はない……」
僕はそう考えた。
空にいるドラゴンへ攻撃するためには攻撃魔法で撃墜するか
自分も飛翔して空中戦へ挑むか
この2択。
魔法攻撃を封じられた今、クリムができる選択肢は、後者————空中戦だ。
しかし、魔法の操作権の剥奪なんて規格外の事をする相手に魔力で形成した翼で空中戦を挑む事も―———危険だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「流石ですね。ようやく、全ての火球を相殺しましたか。では、選択の時間です。私を相手に―———生まれた時から翼を持つ私を相手に空中戦を挑むのか? それとも降参するの選んでください。もちろん、私のお薦めは降参ですが?」
「————私は」
「はい?」
「どちらも選択しない。まだ……切り札がある!」
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