第166話キララVSゴドー


 キララとゴドー。


 二人は、闘技場の中心で向かい合い、一言、二言、言葉を交えていた。


 僕の位置からは聞き取れない。


 やがて、審判役が2人を引き離し、互いが距離を取り―――

 戦いが始まった。


 ゴドーは腰を落とし構える。どっしりとした構えだ。


 一方でキララの構え。


 両足を前後に広げた構えだ。上下に跳ねるように体を動かしリズムを刻んでいる。


 やがて、上下の動きに前後のステップが加わって、徐々にリズムが加速していく。


 「そろそろ、攻めるな」


 観客席から呟きが聞こえてくる。


 最前列に陣取る客層は目が肥えているみたいだ。


 事実、キララが前に飛んだ。


 2メートルの距離は瞬時に0へ―———


 疾い


 一瞬の交差。そして、接触。


 まるでキララの肉体がゴドーの体を、すり抜けたかのようだった。


 キララは、そのまま転倒。自ら、打撃の勢いを殺せずに―――

 前回りをしながら、壁に衝突して、ようやく止まった。


 武に覚えのない人間なら、そう錯覚するだろう。しかし―――

 観客の声が聞こえてきた。


 「————おそらく投げだな」


 「投げ? あの一瞬で?」


 「あぁ、ゴドーの顔を見てみろ」


 「……血? あっ! サングラスが割れてる」


 「キララの拳が顔面を捕えた証拠だ。おそらく、インパクトの瞬間に首をひねり、打撃を受け流しからキララの前に飛ぶ動きを利用して、背後へ投げ飛ばした」


 「つまり、打撃に対して、投げによるカウンターを取ったという事かっ!」


 ……詳しすぎるな観客。


 「さて、お客さんは、そう言ってますが……サクラさんは、あの一瞬の攻防をどこまで見えましたか?」


 「むっ!」


 ドラゴンが挑戦的に僕に訪ねてきた。


 「大まかには、あのお客さんの言う通りだよ。ゴドーはキララの打撃を受け流し、体を横へ滑らしてサイドステップ、そのまま蹴手繰りローキックでの足払いだ」 


 「なんだ。見えてるじゃないですか」とドラゴンは不満顔だった。


 もしかしたら解説したかったのかもしれない。


 「加えるにゴドーはキララの打撃を甘くみた」


 「ほう!」とドラゴンは興味深そうな声を上げた。


 もしかしたら、人間の構造……ダメージには精通していないからわからないのかもしれない。


 「ゴドーは威力を測り間違えた。だから、今は動かない」


 「回復に時間を有しているという事ですか?」


 「あぁ……動くぞ」


 「どちらがですか?」とドラゴンは聞いてこない。


 キララとゴドー。申し合わせたように両者が動いたからだ。


 キララは壁を背に立ち上がる。 ゴドーはキララのいる背後へ振り出し、駆けだしていった。


 (キララの動きが鈍い。このままだと壁を背に戦う事に……)


 キララは横に回り壁際からの脱出に挑む。 だが————


 ドーンと大きな音が響く。


 キララの進行方向へゴドーが腕を突き出し、脱出を防いだ。


 嫌な壁ドンだ。そのまま、ゴドーはキララの体を掴む。


 「投げ? いや、寝技に引き込むつもりか?」


 だが、ゴドーの動きが止まった。


 キララの肘がゴドーの眉間から眉までの皮膚を切り裂き、鮮血が舞った。


 今度は、キララがゴドーに抱き付くと、打撃を加え————


 狙いを寝技グランドへ切り替えた。


 

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