第158話 くんずほぐれつ
地面との接触。体が勢いでバウンドする。
「ちょ! なんなんですか!」
何かに気を取られていたのだろうか?
ようやくドラゴンが僕の状況に気づいたらしい。
いや、ドラゴンだけではない。ザワザワと周囲の声が聞こえてくる。
だが、相手はまだ続けるつもりらしい。 僕をしたから捕縛するように固める。
両足を下から僕の胴体に巻き付ける。そのまま、僕の頭部を抱きしめるように胸元に押し付けてきた。
(ガードポジション……いや、ラッパか!)
ラッパと言うのは古代格闘技の技。
腹部や胸部に相手の頭部を押し付けて、呼吸を阻害する技だ。
上半身裸の状態でこの技をかけられるとラッパという金管楽器に似た音が口や鼻から出るからラッパという技名になったそうだ。
「サクラさんに何してるんですか! 動かないなら潰しますよ」
頭部を抑え込まれた僕からドラゴンの姿は見えないが、その怒声だけは聞こえた。
僕は声の方向に手の平を見せた。
「止めるな!」とジェスチャーは通じたらしく、ドラゴンの声は小さくなっていく。
僕の名誉のために言っておくが、女性の胸部へ胸を押し付けられているのは止めてほしかったわけではない。 念のために…… 決して……
何より彼女は僕を殺傷するつもりはないみたいだからだ。
なぜなら彼女は素手だからだ。
暗器のように、腰や脇の下、あるいは手首付近に武器を隠している様子はない。
徒手空拳での戦いの時、短剣であれ鉄製の武器を隠しおけば体の動きに僅かならでもブレが生じる。
しかし、彼女にはそれがなかった。
まぁ、なによりも彼女の体からは鉄の匂いがしてこない。
……さて
何も寝技に移行してから、僕は
おっぱいの感触を楽しんでいたわけではない。
この状態から
彼女の脚を腕で押したり、腕を強引に引きはがそうとしたが無理だった。
単純な腕力でダメなら……
「過激な暴力でいかせてもらう!」
僕は尻を高く上げ、両足に力を入れる。
左右に腕を広げて、腕立て伏せの要領で彼女ごと体を浮かせる。
狙いは
下は固い地面。直前に片腕で彼女のアゴを掴み、体重をかけて後頭部から落としてやれば、僅かな高さでも勝敗を決める一撃になる。
だが、彼女は思い切りがいい。 すぐに察知してラッパを解く。
そのまま、体を反転さて————僕の片腕に両手を絡みつける。
(ちっ! ストレートアームバーか!)
相手の後方へ腕を反らす関節技。
だから、下になっている人間が上から覆いかぶさっている人間を極めるには難易度が高い。
僕は体重をかけて彼女の技を潰す。
しかし、彼女は止まらない。彼女の両足が僕の腕を挟み込む。
下からの腕十字固めだ。
腕が伸びないように自分で自分の腕を掴み防御する。
やはり彼女は止まらない。
腕から彼女の重さが消える。彼女は体を捻らせて僕の脚に抱き付こうとしていた。
まるで彼女は猫だ。
猫は……「液体か? 固体か?」と言われるほどの体の柔軟性を有している。
それと比べる程————彼女の技は変化を好んでいる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
どれほどの時間、互いに体を絡ませただろうか?
心地よい疲労感。 地面には汗の水たまりが出来ている。
その液体の上で、くんずほぐれつ。
このまま続けたい。しかし、圧力が消える。
どちらかが、離れたわけではない。
手を繋ぐ子供同士が、意識せずに————不意に手を放してしまった感覚。
「あっ」と名残惜しそうな声を出したのは僕か? それとも彼女か?
「お兄さん、強いね……ランクは?」
「はぁ? ランク? ってなんだ?」
「……もしかして、お兄さん……闘技者じゃないの?」
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