第118話 商店街の怒鳴り声
「でも丁度いいタイミングでしたね」
「あぁ、まさか祭りの最中だったなんてね」
「いえいえ、そうではなく」とドラゴンは首を横に振った。
僕は「?」と頭の上に疑問符を浮かべてみた。
「奉納祭って事は、この国で一番の防具が無条件で手に入るって事じゃないですか」
「え?」
「え? なんですか? その反応は?」
「いや、ちょっと、お前の言ってる意味が分からなくて……」
「意味もなにも……奉納祭って、この国で一番の防具を私に送られるイベントって事ですよね?」
「いや、それは……確かにそうだけど……たぶん、国の人たちは、信仰してる偶像の龍神様に送るつもりであって……」
「え? それって? つまり?」
「お前自身にプレゼントするつもりなんて、まったくないと思うぞ」
「なっ!?」とドラゴンは絶句したと思うと次の瞬間には―――
「なんでですか!私が、いえ!私こそが正当な龍神さまですよ!貰えるものを貰って何が悪いのですか!
」
「いや、お前が神様らしいことしたのは最初の1回だけで、それも目撃者の勘違いだろ?」
「むっむむむ!」
「いいかい? お前自身と龍神さまは、この国の人たちにとって乖離した存在なの。もう別人なの。わかった?」
「う、うぐう……わかりましたよ」
「わかってくれたか。よしよし」とドラゴンの頭を撫でた。
撫でた後に気付いた。よく、クリムにこうして頭を撫でていたのが癖になってしまっていたのだ。
だから、自然にドラゴンの頭を撫でてしまった。
一方、頭を撫でられてるドラゴンは、頬を赤く染め、目が潤み始めている。
(これ、どうしようか?)
僕は、そんなことを考えながらも、そのままドラゴンの頭を撫で続けてみた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そんなこんなで、目的地。
コウガの祭り会場から少し移動すると、商店街にたどり着いた。
商店街。もちろん、ただの商店街ではない。
見渡す限りの店々の全てが武器か、防具の専門店なのだ。
この国最大規模の店数……つまり、世界最大規模の店の並びという事だ!
否応無しにもテンションが上がっていく!ヒャッハー!?
「でも、ほとんどの店が休業中みたいですね」
「え?」
確かにドラゴンの言う通りだった。
よく見れば店の入り口には「休業中」の文字。
「考えてみれば……奉納祭の最中で、神様への贈物の準備で忙しいはずですよね」
確かにそうだ。 奉納祭のお供え物が武器か防具であり……
そこで最高峰の物を――――職人にとっては自身の腕を――――お披露目する最高の機会。
奉納祭は職人世界一決定戦と同意語なのだろう。
つまり―――
「この場所はゴーストタウンになっているって事か!」
全身から力は抜け去り、ガックリと両膝は折れ、両手を地面につけた。
「……あれ?声が聞こえるけど……」
「えぇ、なんか喧嘩してるみたいですね。最も喧嘩にしては剣呑な怒鳴り声ですが……言ってみます?サクラさん?」
「……なんで、笑顔なんだよ」
「でも、行くんでしょ?」
「……うん」と僕は頷き、駆けだした。
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