第102話 「人の王」 対 「魔物の王」


 「うむ、認めよう。余は英雄に成らんとする者の全てを認める。

 だが、しかし――――


 英雄になった者は認めぬ」


 「え?」


 いつの間にか王の手は剣が握られていた。


 そのまま振り上げられた剣は僕に向け、真っ直ぐに振り落された。


 その太刀筋には迷いかや生じるブレもなく、美しさすら感じられる。


 だから――――


 反応が遅れた。


 回避……不能。


 受け……不能。


 魔法による……


 脳裏に浮かぶ選択肢の数々。


 それと同数並ぶ不能の文字。


 それらの全てが「死」の1文字へ変化され埋め尽くされていく。


 もはや、残された選択肢は――――


 剣と言う薄い鉄板が僕の頭部へ潜り込んでいくのを待つだけ。


 その一択となっていた。


 だが、最後まで決して目を逸らさない。


 僕は、向かい来る白刃から視線を外さず……


 それが僕にできる抗議の手段だったのだ。


 しかし―――


 甲高い金属音が鳴り響き、折れた剣先が宙を舞っていた。


 折れた?いや、違う。


 王の手にあったはずの剣、その白刃は無残にも引きちぎられていたのだ。


 そう、高速で振り落された剣を空中で、それも素手で引きちぎる。


 そんな行為を行った者がいた。


 それは――――


 「人の王よ。不敬ではあるまいか? ただが、人の世の王である存在のお前が、私の伴侶を手にかけるのか?」


 そこにはドラゴンがいた。


 一体、どこから現れたのか? 瞬きもせずに見ていた僕にもわからなかった。


 突然の乱入者に対して、護衛であるはずの騎士たちは動けずにいた。


 もう既にドラゴンに何かされた後なのか……バタバタと規則正しく順番に倒れ始めた。


 この場に立っている者は3人のみ。


 王とドラゴンと……それから僕。


 ドラゴンの装いは、普段通りの人間バージョン。


 露出の多い踊り子風の服装は、この場にそぐわないのか? あるいは相応しいのか?


 ただ、普段とは異なり、王に対して威圧的で攻撃的な態度。


 対して王は――――


 「ほう、ソナタが魔物の王か。化け物めが」とまるで感情が抜け落ちたかのように返す。


 「英雄とは余と同格の存在。目指すは結構なことよ。だがな、余の前で英雄に至った者が……余と同等の者が立てば殺す。それが道理であろう?」


 「同格の者は全て殺すか?それは正しい唯一無二の在り方かもしれぬが……そこに至る者がいる時点で、誇る事ではあるまい。無論、ソナタの存在がな」


 「ほう、化け物が余を愚弄するか!」


 憤怒する王を前にドラゴンは、挑発するように腕を僕の首に回していく。

 その行為は官能的とは言い難く、まるで巨大な蛇に絞められているように感じられた。


 「いいや、愚弄はせぬよ、人の王。ただ、私の物に手を出そうする怒りを表したにすぎぬ」


 ドラゴンは僕に体重をあずけてくる。


 昔、彼女から聞いたコブラツイストや卍固め。


 あるいは、メキシコプロレス式複合間接技ジャベみたいに僕を絞め……痛い痛い!? なんで僕に対してまで怒りを表現してるのさ!?


 「ならば、怪物よ。余にどうしてほしいのだ?次第によっては剣を納めても構わんぞ」


 「我が伴侶を英雄として認めよ。それだけでよい」


 「その者を余と対等に扱えと言うか?笑止!」


 引きちぎられた剣をドラゴンに向ける。


 ドラゴンは冷たく嗤う。


 「人の王よ。……恐怖を感じぬのは、そう育てられた……いや、成長過程で作り替えられたのか。それが王としての姿だと……いや、それは良い」


 ドクンと心音が跳ね上がった。


 恐怖を…… 作り替えられた?


 同質? 僕と同じ? 王と僕は同じ存在?


 「化け物が余を語るか!?許さぬぞ!」


 そのまま、王は剣を振るう。


 ドラゴンに巻き付かれた僕ごと、切り裂かんと剣を走らせる。  


 対するドラゴンも追撃に動きだす。


 それを僕は――――


 「行け!龍の足枷!?」


  僕は声を張り上げた。

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