第100話 王の儀式


 牢獄に叩き込まれた。


 幸いながら同居人はいない。1人で広い牢獄を支配できる。


 吹き抜けの空間に冷たい空気が鉄格子の隙間を駆け抜けていく。


 いい待遇だ。 自分が罪人だということを現在進行形で把握させられる。


 罪人? なんの罪だ? 


 僕は何の罪を背負っているのか? 



 そんなことを考えながら、冷たい床に寝転がる。


 大の字になり、天井を見つめる。


 そのまま、瞳を閉じて……少し眠る。 ……これから起きる事を考えると……体力回復のため。


 「起きろ」


 声がした。


 僕の声ではない。誰の声だ?


 重くなったまぶたを開く。 


 瞼に若干の重力を感じる。 十分な体力回復は望めず、満足な睡眠とは言えなかった。


 また声をかけられる。


 「起きろ、トーア・サクラ!」


 鉛のように固まった体を起こして、声の相手を見る。


 声の主は兵士だった。正規兵の騎士だ。


 眠りにつく前、牢獄を囲っていた看守たちの姿はない。


 どうやら王との謁見が始まるみたいだ。


 ……違った。


 王との謁見。そのために準備が必要だったみたいだ。


 狭い通路の左右に騎士たちが整列している。


 その間を一歩、一歩進むたびに冷水を浴びせられた。


 そして、一言でも声を漏らせば、最初からやり直し。


 王に会うために身を清める必要がある……らしい。


 ちなみに1度、やり直し済みだったりする。


 これは儀式だ。


 魔法的な儀式ではなく、宗教的な儀式だ。


 例えば、昔……長く平穏な時代が続いていた頃の話。まだダンジョン探索のメリットも精査中の時代のお話しだ。


 平和によって武術の需要が極端に低下していく最中、当時の武道家はどのような営業努力を行っていたか?


 それは宗教との統合。 それによる神秘的で超常的な神技の公開。


 それがインチキか? 本物か? そんなことは関係なかった。


 ただ、他の商売敵との差別化こそ目的であり、そうしなければ商売として成り立たなかったのだ。


 なら……

 この行為も同じだ。



 王を神と同化させている。


 神聖な儀式を執り行い、王もまた、神聖な存在であると示している。


 いや、示そうとしているのか。


 だが、それらの行為、どのくらい年月を重ねていったのだろうか?


 ありとあらゆる神秘を付加し、民衆から信仰を集めた存在が、どのような変貌を遂げているのか?


 それは、きっと……


 僕の想像をはるかに超えた。


 いや、よそう。そんなことを考えなくても――――


 どうせ、答えはすぐそばだ。

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