第93話 闘諍飛翔前
外に出た途端にドラゴンは構えをとった。 それは奇妙な構えだった。
両足は肩幅よりも外側に広がり、仁王立ち。
片手を腰にそえ、もう片方の手は天に向かって振り上げる。
その天に向けた拳から人差し指と親指だけを広げ、裂帛の気合を叫ぶ。
「へ~んし~ん!」
その声が合図になりドラゴンの周りに謎の物体が出現する。
それはピンク色をしたハートのような形をしていたり、黄色い星のような形状だった。
さらに「ぽーん」と破裂音が聞こえた。
おそらくは火薬が仕込まれていたのだろう。 白煙がドラゴンの体を包み、その姿を消し去って行く。
目つぶしの効果もあるのか?僕は視界を奪われた。しかし、それも一瞬のこと。
次に見えたのは煙が消えた風景。そして――――
そこには人間形態から本来の姿である龍に戻ったドラゴンがいた。
久々に見るドラゴンの姿は圧巻の一言だった。
ただただデカいッッッ!
「さぁ、サクラさん!背中にお乗りください!飛びますよ」
「いや、無理だろ」
ドラゴンの体を見上げる。
いくらなんでも大きすぎる。どんなにジャンプしても背中に飛び乗る事はできない。
その事を伝えると
「いやですね。サクラさん。大きすぎるだなんて、どこ見て言ってるですか?」
「体に決まってるだろが!」
「いや~ん、体を見て大きいなんてエロエロなんだから!夜まで待ってくださいよ」
「悪いけど、流石に爬虫類に興奮はできないよ」
「この流れでマジ返信!? 仕方ないですね」
そう言うと、ドラゴンの体は見る見る縮み、人間状態へ戻った。
その場で、しゃがみ込んだと思うと、パシパシと自分の首筋を叩き始めた。
「それじゃ乗ってください」
「え?どういう事だ?」
「肩車に決まってるじゃありませんか?」
「決まってねぇし!」
なに、当然ですよね?みたいな澄まし顔してやがる。
「いいですか?想像してみてください。肩車の状態から本来の姿に戻った時、ちょうどサクラさんは私の首を抱きかかえる状態になるわけですよ。まさにジャストフィットじゃないですか?」
「いや、流石に女子に肩車されるのって抵抗があって……」
「じゃ、私が四つん這いになりますので背中に乗りますか?夜のハードプレイの練習にもなるので丁度良いと言えば丁度良いわけですが?」
「ならねぇよ!いちいち下ネタを振り込んでくるな。おんぶじゃダメなのかよ?」
「えぇ、おんぶですか?」とドラゴンの反応は分かりやすいほど、不満げだった。
「別にいいんですけど、おんぶの状態で変身したらサクラさんの場所は、私の臀部の上ですよ。それは……さすがに……ちょっとマニアック過ぎません?」
「なんで肩車や四つん這いよりドン引きしてるの?基準がわからないよ」
「プレイだと割り切って楽しめそうなんですが、微妙なラインを攻められるよ……恥ずかしいと言いますが……ごにょごにょ……」
「……それじゃ、肩車でいいよ」
「はい!バッチコイです!」
なんでコイツ、肩車するのが嬉しそうなんだよ。
僕はしぶしぶながらも、しゃがみ込んだ彼女の首に座り込む。
「それじゃ行きますよ!」
「え?いや、ちょっと待て!」
僕が止めるのを聞かずにドラゴンは立ち上がろうとする。
彼女の体がプルプル震え、僕の体が左右に揺れる。
うわぁ、予想以上に怖い。
「待て待て待て、実際に立ち上がって肩車しなくても、首に座った時点で変身するば、丁度良い状態になるだろ!」
「ハッ!?確かに!では―――
へ~んし~ん!
またハートと星の謎物体が現れ、煙幕が舞い上がって行く。
そして、煙が晴れると、僕はドラゴンに乗っていた。
「心の準備はどうですか?」
「大丈夫だ。さっきの会話でリラックスもできたよ」
「それはそれは、がんばった甲斐もありました」
やる事は単純明快。 シンプルに一撃を打ち込むだけの事。
時間は有限だけれども、余裕はある。
だから、こう……何て言うか……
悔いを残したくない?
おそらく、今回は失敗がそのまま死に直結するだろう。
だから、こう……ふざけ合ってみてもいいんじゃないかな?
けど、それも終わり。
僕らは飛ぶ。あの壁へ向かって。
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