戦友との再会
「おはようございます、マオーさん、エルさん」
「ああ、おはよう」
「おはようございます!」
朝もまだ早い頃にエルと俺は宿の店主に水を借り顔を洗っていた所に同じく顔を洗いに来たであろうグランがやってくる、キララは一緒じゃないかと尋ねれば、昨日も夜更かしをしてどうせベッドで寝こけてるのでギリギリまで寝かせておくとの事。
この後、三人で近くの店で朝ご飯を購入、焼き立てのパンといつものウランサラダだ宿に戻っても未だキララは夢の中だったそうで、グランが起こしにいった。
「遅いねー、グランおにーさん」
「ああ、そろそろ出発しないと到着が夜になってしまうぞ」
「……おはようございます」
「姉さん、下もちゃんと履いてって、その姿は色々見えてるから」
「キララおねーさん、おぱんつ丸見えだー」
「グラン、身支度を整えさせてこい」
「すみません! まったく、出発前くらいいつもの書き物や考え事はやめろよな」
「グラが起こしに来てくれればいいのよ……むしろ一緒に寝れば」
「未婚の男女が同じ部屋で寝るとか駄目だから! ほら、部屋戻るよ」
少し待っていれば、階段を降りてシャツ一枚のキララが下りてくる、ちらりと下のものまで見えそうになるが咄嗟に振り向き事なきを得る、エルもいつまでも見てないでそっぽ向きなさい、後ろからはズボンを持ってグランが慌てた様子で降りてくる。
そしてキララの発言で顔を赤らめながらもその手を取り上へと戻ってくる。
ふむ……姉弟なんだろうから、別に気にせんでもよいだろうに。
「はぁ、姉さんはもうちょいきちんとしてくれないかい」
「朝には弱いのよ、お時間をかけさせて申し訳ございませんマオーさん」
「いや、気にせんよ、こうして出発は出来た事だしな」
「まったく、ちょっと早足で行く事になりそうだな昼休憩は入れますがね、まぁ夕暮れ時にはつくでしょう」
数分後、俺達はソルの街を出て獣人平原へと向かう道を4人で歩き始めていた。
俺とエルは勿論、快晴号に乗ってだが二人は小さな背嚢を背負って歩きだ。
それなりに歩き、ソルの街が見えなくなり街道を歩く馬車もなくなり周りが林ばかりになっている、まあ昼頃にはこの林も抜ける頃だろう。
「おとさん歩きでも平原までおゆはんの時間までにつくの?」
「ん? まぁ……つかないだろうな」
「えぇ! じゃあどうするの、エルとおとさんだけで行くの!?」
「そうはいかんだろう、グラン完全に目は覚めただろう、そろそろ頼む」
「そうですね、姉さんも調子の方大丈夫?」
「ええ問題ないわ、それじゃ……!」
「よっと」
「うわわ!? おとさん、おにーさんとおねーさんが狼さんになったよ!?」
「エルは初めて見るだろうな、これが獣人族の持つ特性の一つ獣化だ」
林の中、俺達以外に人がいなくなったところで速度を上げる為、ある事を提案した俺、そのある事とは彼ら獣人族の特性による獣化を行い進む方法。体内の魔力を用い眠っている野生を解放し人間から動物の姿へと化ける力を獣人族は持つ。
この力を使っている間は視力、聴力だけでなく嗅覚も強くなり。個体によるが。
爪や牙、脚力も強くなる、彼らは狼なので牙や脚力が強くなっている。
「それじゃ先導しますのでついてきてくださいね」
「了解だ、頼むぞ快晴号」
「すっごい、おにーさんもおねーさんも早いね!」
「頑張れるか、快晴号?」
狼の姿のグランとキララの走る速度は快晴号も追いつくのが結構大変そうだ。
まあ一人は元軍人だしな、さすがにスピードを落として貰う何、この速度なら夕暮れにはまだ間に合う、途中昼休憩を取ればエルは二人にさっきの獣化がなんだったのかを興味本位で根掘り葉掘り聞き始める、エルは知りたがりだ、なんでなんでと常日頃言われてほとほと困る事の多い事、多い事。そんな形で進み続ければ。
「僕らが逗留してる場所が見えてきましたよ、こっからは歩かせてもらいますね」
「あれか、時間ギリギリだったな、そろそろ日が暮れそうだ」
「ふぅ……」
グランが獣人族のテントが見えるとその姿を人型に戻す、ちなみに衣服は獣人族の特殊な製法によって作られたもので獣化しても破けたり汚れたりしない服だ。
平時の耐久性は他の服と変わらないみたいだが。
「おにーさんもおねーさんもお疲れ様?」
「そうね、獣化は体力も魔力も結構消費するの」
「の、割には戦争時代、お前の兄は常に獣化して戦ってたが」
「兄が特異なんですよ、走る程度なら無理せず半日程度はいけますけど、戦闘みたいな激しい運動状態だと持って数十分と言った所ですよ」
「グランおにーさんのおにーさんは凄い狼さんなんだ!」
グランもキララも獣化から戻ってからグランは表にこそ出していないがキララは少し息が上がっている、何でも獣化は体力と魔力をかなり持っていかれるそうな。結構な速度で走ったのもあるだろうし、無茶をする必要は無かったと思うが。
やがて獣人族のテントの並ぶ場所につけば、俺達の姿を見て何人かの獣人が集まってくる、どいつもこいつも公国戦争の折に見た戦友達だ。
「マオーさん、お久しぶりです!」
「交易組の報告通りじゃねーか、お久しぶりです!」
「マジで俺達で案内するのか、めっちゃアガるぜ!」
「グランとキララさんもおかえりです!」
「お、一緒にちっこいのも乗ってるな」
「とりあえず馬から降りていいか、挨拶をさせてくれ」
「「「すんませんッ! どうぞ!」」」
一人、また一人と快晴号を囲む人が増えていくのでとりあえず降りて挨拶をしたいと言えば、その場で即座に俺達が立つのに十分なスペースを作ってくれる、お前ら息ぴったりだな、そのスペースに降りて久しぶりと挨拶をしながらエルも紹介する。
積もる話もあるが、まずは族長であるグランの兄と話をしたいと言えばテントの場所を教えてくれるばかりか快晴号の世話も申し出てくれたので任せる事に。
「さて、グリンとも数年振りか……」
「兄はいい意味で変わっていませんよ、あの頃のままです」
グリン、それがグランの兄の名前、獣人愚連隊を名乗り公国戦争で援軍として参戦
そのリーダーシップとカリスマ性で多くの獣人を従えると同時に。自分自身も3mは超える大きな黒狼に獣化して多くの公国軍をなぎ倒した戦争の立役者の一人だ。
そう、その一人と俺は思っていた。
「ここですか、グリさん、うりうりー」
「ああ、そこそこ、サクラの手はやっぱ最高だぜ!」
クラスメイトの小さな手で服従するかのように腹を見せて撫でられている姿を見るまでは。
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