第7話 ライダー 晴樹

「え、ここって」


ゲートの前に着いた時後ろからサヤの声が聞こえた


多分聞こえないだろうから俺は何も返さなかった

ゲートの入口で親父から貰ったパスを見せるとそのまま関係者ゲートに進めと言われた


ピットの裏の駐車場に止める


サヤの足を叩き、降りていいぞと声をかける


サヤはヘルメットを脱ぎ、「ねぇ!ここ○○サーキットじゃん!」とはしゃぐ


そうだよとだけ返す


「しかも、ピット裏じゃん!初めて入ったよ。チケット買うと高いんだもん」


俺もバイクから降り、ヘルメットをミラーにかける


サヤにもかけようかと聞いたが持っていくと言う、よっぽどお気に入りなんだな、とそう思った


「どこのピット行くの?」

サヤにそう聞かれ、どこだろうなーと返す


子供みたいなキラキラした目で周りを見ながら、何かを見つけて叫んだ



「あ、トシちゃーん、織田さーん」


え?俺はサヤが声をかける方を見た


そこにはライダーとカメラマンが立ち話をしていた


サヤの声に気づき2人はこちらを見た


「おぉーサヤちゃんじゃないかー、久しぶりー」


え?あ?俺は理解が追いつかない


サヤが駆け出し2人に近寄る





サヤ、なんで、俺の親父と織田さん知ってんの?


俺もあとから追いつき、3人の後ろから俺が声をかける


「え?だって私がバイクのレース見て初めてファンになったのトシちゃんだもん、それに織田さんとはハル見に来た時に結構会ってて」


え?えぇぇぇぇぇ?

なんなんだこれ


「晴樹、友達連れてくるってサヤちゃんのことだったんか?」


お、おんそうだよ、

親父、サヤ知ってんの?


「知ってるも何もサヤちゃんがちーさい時から見に来てくれてたよ。昔、抱っこして写真撮ったこともあるし」


そうなんだ、びっくりした


会話にサヤが割り込んできた


「トシちゃん、ハルと私、友達じゃないよ」


え、ちょ、ちょっと待てよこいつ何言い出すんだ


俺は織田さんの目を見て助けてと口パクした


「サ、サヤちゃん、そのヘルメットどうしたの?それ晴樹くんがチャンピオン獲った時のだよね?レプリカ販売されてなかったと思うけど?」


「え、あ、これ?これねえへへ、聞いてよ織田さん、ハルがくれたんだ、ここに私の名前も入ってるんだよー……」と話し始めて俺は安心した


「晴樹さん…ですよね?」

俺が親父に話しかけようとした時に後ろから声をかけられた


振り向くとレースを見に来ている女性のファンの方だった


はい

と答えると女性は「お写真いいですか?」と言ってきた


あぁはい、大丈夫ですよ、と答える


写真を、織田さんに撮ってもらおうと声をかけようとすると

「すいません、写真撮ってもらってもいいですか?」と、女性がサヤに声をかけた


ぁぁぁそれ1番、声かけちゃダメな人ー


サヤはこちらを見て少し戸惑っていたが、女性の服装などから理解したのだろう、だいぶ硬い笑顔で「わかりましたー」と答えた

こいつわかり易すぎたろ




そうだよね、ハル人気者だもん仕方ないよね

私はスマホの画面越しにハルを見る


ハル、屈んで目線合わせてあげてる…


少し強めにシャッターボタンを押す


「ありがとうございます…どうかしましたか?」

女性が言ってきた

いっけね、私、顔にめっちゃ出てたんだろな

「あ、すいません、きちんと撮れてるかなと思って」作り笑いをしながら誤魔化した


その後、女性の持ってきた写真にサインをして、ようやく開放されたハルに近づいた


両頬をつままれ、「サヤさんー、顔が怖い顔してましたよー」と言われた


そりゃ何も思わないわけもないじゃん


と顔を見ずに返した


「そっか」 ハルは笑いながら手を離した




さっき織田さんが飲み物買いに行こうって言ってたぞとサヤに言うと、遠くに織田さんを見つけて駆け出していった


「晴樹ー」

親父に呼ばれピットの中に入る


親父が封筒をくれた


「これ、ここのサーキットのホテルの予約票、お前がダブルベットでいいって言うからそうしたけど」


あぁ、ありがとう

中を開けると最上階VIPの部屋だった

おい、親父こんな所いいのかよ

と聞くと


「俺もここの業界は長いんだ、声をかける人にかければちょちょいのちょいよ」

と俺の肩を叩き笑っていた


ったくよ、あの笑いは全てを悟った笑いだな

と俺は複雑な気持ちになった

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