2050年 第一次魔法戦争

望月陽介

第1話 戦友達

「ち、おめおめと来やがったぞ!」


 奴は大声で叫んだ。崖の上から4人の姿が現れる。周りの銃を持った歩兵、そして戦車がものすごい勢いで撤退していく。しかし、耳には一切音が入ってこなかった。


 なんて魔力だ。


 こんなに強いものを感じたことがない。他のみんなも感じているのだろうか。


「あれ、ロジィは?」


マイはそう言った。顔を見ると、ひどく落ち着いていた。


「分からない。でも、必ず近くにはいるよ」


俺には確信があった。ロジィはあの戦いの時も、少し離れたところで俺達の戦いを見ていた。彼が居なければ俺は今頃…。


「今度こそ、裏切り者のお前らを殺してやる」


 行くぞ!というクロウの掛け声のもと、彼らは飛んだ。一人崖の上に残っている。赤い服、あれはマリアだ。


「よそ見してんじゃねえ!」


クロウが頭上から剣を振り下ろしてきた。俺は間一髪でその剣を腕で受ける。俺の腕には魔装が付いていて、金属よりも硬い。だが、衝撃は伝わってくる。正直痛い。


「こいつは俺がやる!他の奴らをやれ!」


クロウは俺の顔に向かって叫ぶ。


「はいはい」


静かで綺麗な声が聞こえる。ユウキだ。


「私、あなた達のこと殺したくない。早く、魔法を使って。」


「なに生ぬるいこと言ってんだ?!」


ユウキとは同意見だ。俺も、かつての仲間を殺したくなんかない。


「じゃあ、やるか。」


「そんなことさせるかよ」


こちらに突っ込もうとしたクロウはユウキに首をつかまれ、怒りの怒号をユウキに浴びせていた。


「頼む、サイ」


「おう、行くぜぇぇ!」


サイは妖精とは思えない声を出す。


「はあああああーー」


俺はサイの力をもらった。これで身体能力は向上し、魔法も使えるようになる。また、魔力が少しでも残っていれば、死ぬことはない。


 俺たちは魔法をまとった。


「俺達もやるでござるか。」


「うん、行くよ、デビルエンジェル」


「おいで、スカーレットドラゴン」


「ち、しょうがねえ。来い!ダークレイブン」


クロウの肩に乗っていた黒い鳥が巨大化し、彼に力を与えた。深い黒の闇のオーラを放っている。果たして俺は彼に勝てるのだろうか。


「おい、レイヤ。怖気づいてんじゃんねえだろうな?」


サイ、図星を突かないでくれ。


「大丈夫、今日はみんなも一緒だ。」


「必ず勝って、平和を取り戻す。」


タツヤの声は今日も頼もしい。俺達のおそらく、一番大きな戦いが始まってしまう。






 ニュースアプリで信じられないものを見た。


『言語を話す未知の生物が人間を攻撃』


 写真には光っている小さな生物が移っていた。俺は、それが、アニメで見る妖精にしか見えなかった。


妖精といえば、俺にはこんな体験がある。小学二年生の夏、森で虫取りをしていた時だ。自由奔放だった俺は前を見ずに走ってしまった。そして、崖に落ちたのである。死を覚悟したが、たまたま木に引っかかった。その時、一瞬、小さく羽が生えた妖精が見えた気がした。しかし誰にも信じてもらえなかった。


まさか実在したとは…。


そのニュースが公開された次の日、学校は大騒ぎだった。


「お前は妖精信じる派?」


「人を攻撃する妖精なんているか?」


などの会話が右往左往。あの生物を妖精だと考えたのは俺だけじゃなかったみたいだ。


そして俺はここぞとばかりに先ほどのエピソードを話した。だが、


「そもそも、妖精と決まったわけじゃないしな」


「アニメの見過ぎ。たまたまだって。この写真もよくあるうUFOの類いで作り物じゃね」


と、反応はイマイチだった。この会話を聞いていた男子が大きな声で、


「そうだそうだ、この写真どうせ偽物さ!」


と言った。さらにざわつきが大きくなり、昼休みの教室は疑問と主張で飽和した。俺もさすがに諦め、偽物説を肯定しようとしたその時だった。


「みなさん、お昼休みの途中ですが体育館に集まってください。緊急全校集会を開きます。」


放送は繰り返された。しかし、2回目の声はクラスメイトの会話で打ち消された。昨日のニュースとの関連を疑うものと、そうでないものの討論会が体育館への旅路で繰り広げられていた。一方の俺は胸騒ぎが止まらなかった。行けばわかると言う自分がそれをなだめていた。


答えは、想像を超えたものだった。


「昨日のニュースを見た人どれくらいいますか?」


その言葉に戦慄が走る。校長先生の話をこんなに真剣に聞くのは初めてだ。


「世界連邦は決定を下しました。単刀直入に言います。人類は、妖精と戦います。」


困惑の声が体育館を満たす。冷静に分析する。得られた情報は2つ、1つは世界が戦う決断をしたこと。もう1つはその相手が妖精だってことだ!


「そして、日本はその決定に従い、兵士を派遣することになりました。人選は政府がしたため、理由の一切は分かりません。この学校からは、2人…2人が選ばれました。」


え?どういうこと?と女子達が不安のこもった声で言う。


「該当者は混乱を避けるため、担任の先生から直接伝えてもらいます。」


校長先生は深く息を吸い、


「いいですか!この叩きは決して、決してあなた達と無関係なことではないんです!戦いに行くもの達を励まし、自分たちにできることをやっていきましょう!以上、解散!」


校長先生が初めてかっこよく見えた。




 そして俺が選ばれた。


 政府に呼ばれ、集められた。書類を確認する。


 俺の所属は第10班。メンバー、青木レイヤ、鳥山クロウ、桜田ユウキ、斎藤マリア、杉田キリマル、佐藤タロウ、丸山タツヤ、西田マイ、谷スミ。


明日から、訓練が始まる。

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