無視してはいけないもの

 やばい、寝坊した。


 スマホを起動すると、8時55分の文字。


 9時にバス停集合の約束だった。


 寝坊したのには訳がある。昨日、コーヒーを飲んだからだ。


 俺の本気見せてやる。


 今日、着ていく予定の服はもう着ている。というか、準備中に寝てしまった。


 俺は歯ブラシに歯磨き粉を付けると、帽子をかぶり、リュックを背負い、鏡を見る。


 おい、まじかよ。


 こんな時に限って、寝癖がひどい。雑に、ワックスを取り出し、手に付ける。なんとなく寝癖が目立たないような髪型にして、俺はうがいする。


 スマホを起動する。9時01分。


全力で階段を駆け下り、バス停まで走る。こんなに寒いのに汗をかく。やばい、タオル忘れた。


 バスの横にちなつちゃんだけが立っていた。手を大きく、動かしている。高速招き猫運動をしている。俺が手を上げると、ちなつちゃんはバスに向かってお辞儀して、中に入った。


「もう、遅いよー。」


「ごめんごめん。」


ちなつちゃんの横に迷いなく座る。俺は分かっているよ。運転手さんにもう少し待ってくださいって言ってくれたんだよね。


 ありがとう。


 が、なんだか言えなかった。言わなきゃいけないのに。


 彼女の髪型は、初めて見るポニーテールだった。4月からの授業で、一度も見たことがない姿だった。


俺は、ポニーテールが好きだ。あのしっぽが揺れるだけで、見ている心も揺れてしまう。踊り出してしまう。引き込まれてしまう。触りたくなってしまう。俺は今日、このポニーテールを触れるのだろうか。結び目の硬さも先っちょの柔らかさも確かめられるんだろうか。そんな下心が出てくる自分を思いっきり殴りたい。


 それでも、近くで見るちなつちゃんは、俺をドキドキさせた。もちろん、昨日も一昨日も会っているんだけど、今日はなんだか違う。化粧をしてきたのもよく分かる。上手いとか上手くないとか分からないけど、かわいい。


 窓側に座る彼女。移り変わる窓の景色。綺麗な街並み。ここから見た景色は、CDのジャケットにできそうだ。


「あ、」


彼女はそう言って、尻尾を揺らした。いきなり目が合って俺は、溶けた。口は半開きで固まった。漫画なら、頬が赤くて目が線の状態だった。


 ごそごそとバッグを漁ると、あの、久しぶりに見る、かっこいい腕時計を取り出した。


「遅くなっちゃったね。」


そうだな。


 こうして見ると、灌漑深い。数週間前、あきの家に置いてきて、それからいろんな人の手に渡って帰ってきた。


 おかえり。


 俺はさっそく腕に付ける。今日は、都合が合わなかったあきも一緒にバスに乗っている気分になる。もちろん、彼女が遊園地に来るなんて思えないけど。


 早々に、バスは到着した。あまり、外を見ていなかったから、もう着いたの?と驚いてしまった。他の席を見渡すと、カップルが多かった。大学近くの遊園地なんて、そんなもんか、と思った。


 で、俺達はどんな関係なんだ。


 その答えは、ドラマみたいに、帰路ではっきりするのだろうか。


俺はデートの帰りは嫌いじゃない。時には美しい夕焼けの中、時には闇夜の中、二人の心は解を導く。まるで、二次試験の数学の問題のように、デートという途中式を経て、最後に解を出す。今日は、告白をしようとか、プレゼントを渡そうとか、そういう予定はあるものの実際できるかどうかは最後まで分からない。特に、付き合っていないときは、とてもとても解は大切だ。また遊ぼう、となるか、付き合うことになるか、はたまた感想だけ言って終わりなのか。いずれにせよ、楽しみであり不安である。テストの答えと同じ。合っているか合っていないか分からない答えを答案に書いて提出するのと同じ気持ちだ。


 俺はそれを楽しみにしながら、ポニーテールを見つめる。バスの料金を財布から出そうとすると、10円だけ足りなくて、困る。1000札を両替するか、10円借りるかの狭間で、迷惑をかけるくらいならと俺は1000円札に手を伸ばしていた。


 しかし、料金の表示が0になる。10円を入れてくれた。ちなつちゃん、ありがとう。と振り返ると、そこにあった顔は予想外だった。


「ほら、早く行きな。返さなくていいからな。」


翔太くんだった。とりあえず、降りる。ちなつちゃんが後に続き、彼と女の子が降りてくる。俺を見ずに通り過ぎてしまった。帰るまでにお礼を言いたい。


 っていうか、翔太くん、彼女いたんだ。


 とりあえず、入り口で入場券を買う。並ばずに変えた。


 この遊園地は、全国的に人気ではない。でも、潰れもしないし、むしろどんどん大きくなっているらしい。支えているのはもちろん、大学生。大学の隣町にあることから、アクセスしやすい。また、お化け屋敷と絶叫マシーンが人気で、利用者のほとんどがカップルだと言う。


 しかし、本当に全てがカップルなのだろうか。大学では、付き合ってもいないのに仲の良い男女は多い。俺達が仲が良いかどうかは、まだ分からない。というのも、俺は良いと思っている。話も合うし、相談もしやすい。しかし、ちなつちゃんがどう思っているかは分からない。


 俺たちは横並びに入場した。どれ乗る?なんて話ながら。


「とりあえず、あれいっとく?」


と俺が指さしたのは、ジェットコースターだ。


「ええ、いきなり?」


と言った。どうやら、絶叫は得意じゃないっぽい。


 そして、俺達が最初に向かったのはメリーゴーランドだ。それなりに動くし、ウォーミングアップには丁度いいってことになって。


「メリーゴーランドって不思議だよな。」


俺は回る馬を見ながら言った。子供たちが並んでいた為、すぐには乗れなかった。


「ん、なにが?」


回る馬の尻尾に見惚れた。


「馬が回っているだけなのに、なんだか不思議な気分になる。魅惑的な乗り物じゃない?」


「あー確かに。」


分かってくれただろうか。メリーゴーランドは見ていると不思議な気持ちになるんだ。


「俺的には、その不思議な効果について、円運動に理由があると思ってるんだ。」


円ってのは不思議なもので、それを表すための円周率は、その何百年も前から人類は探してるけどまだ見つかっていなくて、だから人間は円について完全に理解していない。だから、不思議に感じるのかなって思うんだけど。


 と、反応がそこまでよくなかったので、心の中で言った。


 そう思うと、俺は学問が好きなんだと感じる。特に理科は、本当に素晴らしいと思う。でも、大学の勉強は難しいんだよなーなんて考えていると、順番がまわってくる。


「私、これに乗る!」


と、ピンク色の装飾が施されている馬を選んだ。俺は、その隣のほとんど裸の馬に乗る。


 回転が始まる。周りには、子供を見守るお母さんやお父さんばかりで、本当に恥ずかしかった。


「どうだった?」


「すごく楽しかった!」


周りの人には気付かなかったのだろうか。ちなつちゃんは満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、そろそろ行こうか!」


と、俺は意地悪に言った。


「う、うん。分かった。」


直視を避けるように俺の斜め後ろに張り付いた。やっぱり怖いらしい。俺はかわいいと思った。


 並んでいる人はいなくて、すぐ乗ることができる。係員に入場券を見せる。とても、笑顔でいってらっしゃいと送り出してくれた。きっと、ちなつちゃんにはこの笑顔が恐怖に感じたんだろうな。いまだに斜め下を見て、直視を避けている。乗って、安全バーを下す。前髪でまだ顔が見えない。俺は少し後悔し始めていた。そんなに嫌ならのせなきゃ良かったよー。


 しかし、心配は無用だった。


 カタカタカタカタと、最初の上り坂を登り始める。重力から逃げるように、ゆっくりと登っていく。俺は怖くなり始めていた。この振動一回一回に心臓を小突かれている気がする。そして俺の心臓はさらに大きく動き始める。今にも飛び出しそうだ。頂上に辿り着かないでくれと言う願いが不意に頭に浮かぶ。大丈夫。きっと、ちなつつちゃんはもっとっ怖がっているはずだ。


「やっとはじまるね。高―い。」


え…。


「怖いんじゃなかったの?」


「まあそうだけど、心の準備すれ…」


体が急に水平になる。


「うわーーーーーーーーーー。」


俺は全力で声を出す。そうすれば、恐怖が少なくなる気がして。


 ふわっと自分の体だけが坂を下り、心臓やら脳やらはぶわーーーーっと浮く。その間隔は気持ち悪くて怖いけど、なんていうか生きている感覚がする。この感覚から逃げようとしても、かならずやってくる。坂はやってくる。乗ったらもう逃げられない。


 俺は坂が来るたび、叫んだ。気が付けば涙がちょちょぎれていた。隣のちなつつちゃんは、終始笑顔で、なんだが裏切られた気がした。でも、終わった後、


「なんかかわいいね、意外と。」


なんて言われてしまって、嫌な気持ちなんてどこかに飛んでった。


 そのあと、何個か怖くない乗り物に乗り、お腹が空いたのでフードコートに来た。ここの食べ物は安かった。基本的に何でも500円。カレーもラーメンもからあげ定食も。彼女は200円のきつねうどんのボタンを押す。俺はカレーを押す。


「どう?楽しい?」


楽しくないって言うはずがないのに俺は質問する。


「うん、楽しい。」


俺はそれが聞きたかったんだ。ここらで遊んだことがないという彼女をどこに連れていこうか、結構悩んだもんだ。


 俺の目線の先には観覧車があった。このフードコートは、外にあって屋根もない。だから、周りのアトラクションが良く見える。というか、アトラクションに見られながらご飯を食べている気分だ。


 観覧車の話題はお互いどことなく避けている。次なに乗る?という時の候補に出てこない。そりゃそうか。密室で二人きりになり、空中を漂う。これもまた、円運動で、他のお客さんが見えそうで見えなかったりする。遊園地ってこんなに不思議でいっぱいだとこの年になって思う。


 観覧車は、解を出すのにはもってこいの場所だ。だから、最後に乗ることになるのだろうか。夕陽を見ながら。彼女もそのつもりだろうか。だとしても、きっと誘うのは俺だ。必ずそうだ。女の子に勇気を出させてしまうのは、情けない気がする。リードするっていう言葉の意味を今わかった気がする。女の子の気持ちをしっかり理解して、俺がその願いに応え続けていれば、女の子は満足する。


 夕日までは時間がある。そうすると、やはりお化け屋敷に行きたい。


「食べ終わったらさ、お化け屋敷行こうよ。」


「分かった。」


ふふと笑う。その笑顔には嘘偽りが感じられなくて、安心する。


「怖くないの?」


「怖いよ。」


また、心の準備すれば大丈夫って感じか?


 俺は怖い。


 その気持ちはお化け屋敷の入り口に立ってさらに加速する。中から聞こえる不気味な音声、怖い顔の装飾、そして中は暗い。


 人間がなぜ、暗闇が嫌いだか知ってる?


 とうんちくを話す余裕もなくて、とりあえず、係員に話しかける。ライトを渡され、では楽しんでと言われる。この暗闇に入るのを楽しめだと?


「ねえねえ、手繋いでもいい?」


ここじゃなきゃもっとときめくことができたかもしれないセリフを言われる。もう、この闇に入るドキドキと彼女に対するドキドキがぐちゃぐちゃで、脳はドキドキの正体を把握できてない。俺は小声で、いいよ、とだけ言った。


 しかし、入ってすぐ、右手に頭に札を付けた人(?)が急に現れ、彼女が飛びついてくる。俺は、叫ぶこともできず、恐怖で沈黙してしまった。


 そのお化け(?)は立ち尽くしていたので、そのまま前に進む。相変わらず、彼女は俺にしがみついたままだった。いや、手繋ぐんじゃなかったのかよー。


 ライトの光が震えていた。サイドの壁を照らしてしまうと、怖い何かが見えることが分かったので、まっすぐ前だけを照らした。ときどき大きな声とともに誰かが笑われるけど、俺達は見ないことに決めた。いや、暗黙の了解だった。


 ライトの光が、壁に当たる。そして、その少し低い所には、鍵があった。あの鍵がないと出られない仕組みだろう。その上に『出たければ取るべし』と、赤い血のようなもので書いてある。取るしかないのに、


「取ろうか。」


「うん。」


という会話をした。怖そうにうなずく彼女はとても可愛かったけど、それどころじゃなかった。鍵がある場所のまわりは、低い壁やお墓のようなものがたくさんあり、鍵を取ったら何かが出てくるのは自明だった。俺はもう一度、


「と、取ろうか。」


と言った。


「頑張って。」


と言われ、俺もパワー全開である。俺は震える手を抑え、鍵を取った。


 いきなり、サイレンのような音が鳴り響く。


「それは、呪われた鍵だ。」


「ここから出さないぞ。」


という気味の悪い声が聞こえたと思うと、後ろや、その警戒していた場所から次々と誰かが出てくる。


俺は、なぜか冷静だった。出口と書かれた方向に走った。彼女を引っ張りながら。すると、光が見えた。後ろからどたばたと聞こえるが、振り向かなかった。


その光にばーっと包まれると、誰も追ってきてなかった。目が慣れておらす、ひどく眩しい。気が付けば、手を繋いでいた。


「怖かった?」


怖いって言うに決まってる。


「全然怖くなかったよ。」


息を荒げる二人。その言葉は、強がりか。はたまた真実か。俺には分からなかった。そっか、としか言えなかった。


 このあと、気分転換にメリーゴーランドに乗った後、アイスクリームを食べた。そうこうしている内に、日が傾きだす。今の季節、日はあっという間に沈む。早く、観覧車に行こう。俺は指をさして、


「観覧車行こうよ」


と言った。うん!と元気よく言った。やはり行きたかったようだ。


観覧車は混んでいた。同じ考えの人がいるらしい。たくさん。


 列に並ぶ。


「バスではありがと。」


と言った。


「気にすんな。それより、お前、もう新しい彼女か?」


と言われ困った。ちげーよっと言っておいたが、信じてないらしい。


「あ、もしかしてちなつ?」


この子はショートカット。振り向くとき、傘が開くみたいに髪が浮く。物理だなーっと思った。


「あ、舞ちゃん!」


知り合いかよーっと翔太くんは言う。どうやらそうらしい。


 しかし、順番が回ってきてしまう。あ、じゃあまた今度ね。と女の子は言った。また、ちなつちゃんの耳元で何か囁くと、二人は笑顔で何か話しながら、入っていった。俺達の番もすぐ来る。


 ゆらゆらしながら、観覧車は上がっていく。見える夕日はやはり綺麗だった。


「綺麗…。」


と言ったのは、彼女の方だった。


「わ、私、今日、絶対、言いたいことがって、その、それを、今から言うね?」


彼女の緊張感は半端なかった。こういうことは初めてなのだろうか。


「ふう。」


と深呼吸して、彼女は座った。


「私ね、しばらく学校行ってなかったの。部活も。」


話は続く。


「でもね、その腕時計を返すために行った日があの日で。」


必死に話す彼女を見下ろす。後ろの景色は、上から街を一望できそうだけど、俺はただ彼女を見つめていた。決して、目をそらしたくない。決して。


「だからね、感謝してるの。その腕時計と、あきちゃんとあきらくんに。」


俺も君に感謝しているよ。


「そ、それで、あの、えっと、その後もちゃんと学校行けてるのはその…」


俺は、その続きを待った。でもなかなか出てこなくて。緊張しているのが分かった。


 しばらく、沈黙が続いた。観覧車のぎいぎいというこすれる音だけが耳に入ってきて。そしていつのまにか、観覧車は下に着いていた。


「すいません。延長で。」


まだまだ、時間は足りない。


 ここまで来ると。もう話を切り出しずらそうだったから。俺が話すことにした。俺にだって、解はあるんだよ。


「俺も、感謝してるよ。」


また、ぐわんぐわんと上がっていく。


「俺ね、夢を応援されたことがあんまりなくて。」


少しだけ、涙が出そうだった。少しだけ。


「俺の考え、おかしくてさ。いつも白々しい顔をされちゃう。夢とか希望とか語るとね。ちゃんと聞いてくれる人にやっと出会えた。」


好きになっちゃうだろ、そんなの。


「私ね、こんなに素敵な考えの人いるんだって前から思ってたんだよ。でも、それを伝えなかった。きっとね、あきらくんはモテモテで、いろんな人から褒められてるんだと思ってた。」


俺達はもう目が合ってなかった。でもそれは、ちゃんと話したくないからではない。目が合ったら中にある気持ちが爆発して、溢れてしまいそうで、ダメだった。


「好きだよ。」


大学ってのは、不思議で、いろんな過去とか考えを持つ人が混在してる。そして、何人かとしか、それを共有しないまま、卒業しちゃう。出会える人は限られていて、もしかしたら、話が合う人が居るかもしれないのに。


 人は肯定されなければ、孤独感に襲われ、自分を否定してしまう。


 この出会いの意味は大きいよ。


 俺はもう、机やベッドを殴らなくてもいいかもしれない。怒りを鎮めるために散歩をしなくてもいいかもしれない。


 堂々と生きていいかもしれない。素直に生きていいかもしれない。


 観覧車は回る、あと90度で、下に着いてしまう。


 彼女は、ただ涙を流していた。顔色一つ変えず、ただ外を眺めている。その姿は、まるで世界を眺める女神のようで、この光景を一生忘れたくないと思った。どうして、そんなに美しいのか。俺には分からなかった。ただ、彼女に出会えたのは、ただひたすらに奇跡のような気がした。


「ちゃんと言わないとね。」


その笑顔は、単純ではなかった。複雑だった。彼女の今までの人生を全て含んだような笑顔だった。


 観覧車は下に着いてしまう。彼女の涙は止まらない。


「すいません、また延長で。」


おじさんは笑っている。はいはい大丈夫ですよ、という。入場券かつ回数券であるこの厚い紙をおじさんは受け取らない。


 45度くらい、またぐわんぐわんと重力から逃げると、彼女は口を開く。


「ごめんね、何週も。」


顔の前で手を合わせる。涙は流れているけど、いつもの彼女に戻ったみたいだな。


「大丈夫だよ。」


何週だって付き合うよ。言いたいことが言えるまで。


「今日、楽しかったよ。ありがとう。」


「あ、うん。」


言いたいことって…?


「私も、あきらくんのこと好きだよ。」


「良かった。」


ここで時間が止まったら、どうなっていたのかな。


 彼女は、俺の言葉を聞くと、決心したように、覚悟を決めたように、


「こっちに来て。」


と、椅子を手で優しくたたく。うん、と俺は座る。


「こ、これ…。」


彼女は、左の袖をまくる。腕があらわになる。


 また、泣き出す。今度は、大きな声で。袖はもう戻っている。両手の腕を顔の前でクロスさせ、そこにうずくまる。


 聞いたことのない声、感じたことのない気持ち。


 俺は見てしまった。彼女の腕を、リストを、三つの線を…。


 彼女は泣き続ける。大声で。他の搭乗者にも聞こえるんじゃないかと思った。いや、遊園地中に響いているんじゃないかと思った。俺は、世界に響けよって思った。彼女が何を思って、その傷をつけたのか分からない。でも、その原因を作った人や、この世界は彼女の声を受け入れて欲しかった。しっかりと反省してほしかった。


 俺には世界を変える力はない。ただ、彼女を抱きしめて、一緒に泣くぐらいしかできなかった。


 現在、日本では、上位の死亡要因の一つとして。自殺があります。


「どう?嫌いになった?私こんな人間なんだよ?弱くって…」


私は、広島に行き、原爆ドームを見学しました。平和記念資料館にも行きました。


「好きだよ。大丈夫。大丈夫だから。」


私はそこで、平和の尊さを学びました。戦争をしない国、日本で生まれたことをとても誇りに思います。これからも、平和を守るため、平和の尊さを主張していきたいと思います。


「私の家族、仲が良くなくて。今までお父さんに何回も殴られてきてね。この前も、電話がかかってきて、怒られちゃった。学校行ってないこと、ばれちゃって。」


しかし、先ほども申した通り、自殺が多すぎる国であることも確かです。


「そっか。これからは、一緒に頑張ろう。色々と。大丈夫。一緒にいるから。」


この状況を平和と言えるのでしょうか。戦争をしなければ人が死を選ぶ国でもいいのでしょうか。


 と考えました。自分にできることをこれからも考え、行動していきたいです。これでスピーチを終わります。


 観覧車は、あともう少し残っている。


 誓うよ。誰よりも、優しく生きると。苦しんでいる人間を無視したりしないと。


 君を支えると誓うよ。

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