29石 謎と記念配信決定

29石 謎と記念配信決定




 美馬文香がさけるイカだったという衝撃の事実が発覚した隣で出演料の交渉が成立。

 レイラが頑張った結果、次回の公式生放送の出演料は約十数万円となった。

 正直ネットの公式生放送の出演料なんか知らないが、どう考えても余みたいな新人がもらえる金額ではない気がする。

 まぁそれだけRD社が儲けていて、レイラの交渉術が高かったということだろう。

 その後、門谷、文香と連絡先を交換してビルの出入り口で見送られながら自宅に帰宅した。

 帰宅してすぐにダイニングに3人で集まってエルミナにRD社であったことを報告する。


「美馬文香……なるほどねぇ。それでわたしたちの活動を認めることになった訳だぁ」


「そういうことだ」


「うーん……解けた謎もあるけどぉ」


「新たな謎が出てきましたね」


「ああ。RD社としては権利者である文香が認めているので余たちの活動を認めることになった」


「そして、私たちの世界の出来事が何故この世界でタオスの冒険として広まっているのかという理由が分かりました」


「文香がアッチの世界の誰かと繋がっていて、その誰かの記憶を夢で見れるからだな」


 このことでタオスの冒険が架空の物語だという可能性が低くなった。

 普通の夢ならば、そこまで鮮明に夢を覚えてられるとは思えない。

 だが、まだ完全に否定された訳ではない。


「でも、気になるのはそれだよねぇ」


「そうですね」


「美馬がアッチの世界の誰かと繋がっているとして……それは誰なのぉ?」


「文香の話では帝国の帝国民としての視点らしいが……」


「それはどう考えてもおかしいよねぇ。だって、タオスの冒険はタオスが主人公として描かれていて、なおかつ後半では帝国の内情まで描かれている。これってタオス側の事情に詳しい上に帝国の事情にも詳しくなければ無理だよぉ」


「うむ。もし文香の話が本当だとしてだ。そんな帝国民が存在するか?」


「あり得ないよぉ」


「居るはずがありません」


「そうだ。王国との戦いで帝国の内情に詳しいような人物が帝国を裏切って王国に渡った記録は無い。逆に王国側から来た人物に王国の内情を詳しく知る者は居なかったはずだし戦いが終わるまで帝都から離れた街に隔離していたからな。あるとすれば余やレイラに気付かれずに王国と繋がっていた者が居た可能性だが……」


「それこそあり得ません!」


 レイラが力強く断言する。


「帝国の者はただでさえウルオメア様を強く慕っていたのです! そんな帝国でウルオメア様に近い存在が裏切るはずがありません! それに私だってかなり警戒していましたし」


「わたしも師匠と同意見かなぁ。ウーちゃんの覚悟を知って裏切るなんて人は帝国に居ないよぉ」


「ふたりとも……ありがとう」


 ふたりの言葉に胸が熱くなる。


「いいんだよぉ。事実だからねぇ」


「はい」


「そうか」


 改めて帝国の結束力を実感する。

 やはり帝国上層部からの裏切りなんて考えられないか。


「だとしたら逆に王国から情報を受け取っていた人が居たとかぁ?」


「レイラ以上の情報収集力を持つ奴は居ないだろう?」


「そうなんだよねぇ。師匠の帝国隠密部隊が把握していない訳ないしぃ」


 帝国隠密部隊。

 文字通り帝国の隠密専門の部隊で、主に帝国内外の情報収集や表に出ないような仕事をしていた。

 なんと、レイラは帝室メイド隊のメイド長をしながら陰で帝国隠密部隊の隊長も務めていたのだ。

 なので、ありとあらゆる情報がレイラに集まってくる。

 そのレイラ以上の情報を持つ者は帝国には居ない。


「じゃあタオス側の内情に詳しい帝国隠密部隊の誰かが美馬と繋がっているってことかなぁ」


「それもあり得ないでしょう。タオス側にはアイツらが居ますので」


「あーそっかぁ。じゃあ無いねぇ」


「そうだな」


 アイツらが居るならあり得ない。

 アイツらが居る所為で帝国隠密部隊はタオスに手を出すどころか近付くことすら出来なかったのだから。


「なら、やっぱり考えられる可能性はふたつかなぁ」


「うむ。ひとつは文香と繋がっている人物がひとりではなく複数居る可能性だ」


「うん」


「そうですね。帝国上層部の人間やタオス側の人間と繋がっているのなら、おかしくありません」


「もうひとつは文香が嘘をついている可能性。この可能性は低いと思うがな」


「うーん。美馬が嘘をつく必要が今のところ思い付かないからねぇ。でも、それじゃなんで美馬は帝国民の視点だって言ったんだろうねぇ」


「いや、文香は夢で帝国民として生活していて、その夢で見たものを形にしていると言っていた。夢で見たものがその帝国民の視点や記憶だとは言っていない」


「あっそっか」


「おそらくだが、文香自身も見ているものが誰の記憶なのかはよく分かっていないのではないだろうか。文香自身、見ているものがすべてその帝国民の記憶だと思っている可能性も考えられる」


「なるほどねぇ」


「なら、美馬文香はアッチの複数の人間と繋がっている可能性があると考えておきますか」


「理由は不明だが、今はそれで良いだろう」


「でも、ウーちゃんがこの世界で諏訪葵と同化した原因や何故わたしたちを召喚出来るのかという原因はタオ手を作ったRD社の代表でもシナリオやキャラクターデザインをした美馬でもなかった訳だぁ」


「ああ」


「これに関しては、やっぱりスマホの魔法陣を解析していくしかないねぇ」


「その為にもお金を稼いでガチャを引きませんとね」


「うむ。だから今回の門谷からのお願い。今後タオス関連のイベントへの出演依頼は良い話だった訳だ」


「うんうん。出演料がもらえるからねぇ」


「今後資金はガチャだけでなく様々活動に必要になってくる。残りの資金も厳しくなってきたし早く稼がないとな。あ、そうだ。エルミナ、早速AiTubeで収益化の申請をしておいてくれ」


 RD社と権利者の許可が出たからな。


「任せてぇ」


 ちなみに登録している住所はここだし、銀行口座は前から使っている諏訪葵名義のものだ。

 まぁ問題ないだろう。


「そういえば、どのくらいで収益化が出来そうなんだ?」


「うーん。わたしの予想だと早くて公式生放送の前後辺りかなぁ」


「来週くらいか」


「そうだねぇ」


「そういえばチャンネルの登録者数はどうなっているんです?」


「確かに気になるな。前の配信から見ていなかったし」


「ふふふ……驚くよぉ。なんと先ほどチャンネル登録者数が20万人を超えたんだぁ!」


「おお!」


 ファゴアット帝国のチャンネル登録者数が20万人を超えたか。

 まさか余がチャンネル登録者数20万人超えのAiTuberになるとはな。

 最初は思ってもみなかった。

 個人配信者としてはかなり早いのではないだろうか。


「20万人ですか……すごいですね」


「ああ」


「ふたりとも驚いたと思うけど、わたしの予想だともっといけるからねぇ」


「本当か?」


「うん。目指せ100万人!」


 100万人か。

 まだまだ遠いな。


「それで明日早速20万人記念配信をしようと思うんだけどぉ」


「いいな。そこで重大発表があるとか言ってタオ手の公式生放送出演決定を発表しよう」


 RD社で門谷も配信で宣伝していいと言っていたからな。


「いいねぇ。でも、どうせなら重大発表を増やさない?」


「どういうことだ?」


「20万人記念でファゴアット帝国の新メンバー発表とかどうかなぁ」


 新メンバー発表!?

 次の配信にレイラかエルミナが出るということか!


「誰が出るんだ?」


「やっぱりここは師匠かなぁ」


「私ですか」


「うん。ここは勢いに乗っていきたいからねぇ。師匠の人気なら間違いないからぁ……駄目?」


「……いえ、やります」


 レイラはそう言って前回の配信の時のように燃えていた。


「これで再びウルオメア様のお役に立てますね」


「ふふっ……頼りにしているぞ」


「はい!」


「じゃあ、わたしは早速サムネと配信ページを作るよぉ。ふたりもちょっと協力してぇ」


「分かった」


「分かりました」


 3人でダイニングから配信部屋に移動する。

 エルミナに言われるがままグリーンバックの前で写真を撮る。

 今回は首から上だけを使うらしいので衣装には着替えなくていいようだ。

 ただ、レイラは全身を撮られていた。


「出来たぁ!」


 撮影が終わって数分後、エルミナがそう声を上げる。

 どうやらサムネが出来たようだ。


「どれどれ」


 モニターを覗いて完成したサムネを見る。

 『20万人突破!』という大きな文字と余のドヤ顔、そして絶妙な具合で誰か分からないシルエットが表示されていた。


「流石はエルミナだ。上手いな」


「えへへ」


 エルミナがにへらと笑う。


「じゃあ、わたしはまだ作業があるからここに居るよぉ。あ、ウーちゃんはツブヤイターで宣伝しておいてねぇ」


「配信時間は21時でいいんだよな?」


「うん」


「よし、任せておけ」


 そう言ってレイラと配信部屋を出る。


「私は洗濯物を取り込んできます」


「ああ」


 余は何時ものようにリビングまでやってきてソファーに横になる。

 そしてスマホを取り出してツブヤイターを開く。

 すると、フォロワー数が17万を超えていた。

 こっちも大分増えたな。

 驚くほど早いし。

 どこまで伸びるのやら。


「さて宣伝か……何時も通り普通にツブートすればいいよな」


 内容を考えながらスマホに打っていく。


『ファゴアット帝国のチャンネル登録者数が20万人を超えたぞ!

 これも皆の者のお陰だ。ありがとう!

 これを記念して明日の21時から記念配信をする。

 重大発表もあるので楽しみに待っているのだ。

 配信ページ:xxxxxxxxxxxxxxx』


「うむ。これでいいな」


 今の内容をツブートする。

 すると、すぐに大量のいいねとRTがされて返信がきた。

 通知設定をしている人間が多いんだろう。

 返信を見てみるとトップにさけるイカが居た。


「いや、お前も返信速いんだよ」


『ちょー楽しみです!

 今から待機しますね!』


「待機も速すぎるわ!」


 これが未だにあの見た目小学生女児とは思えない。

 見た目と中身が一致しない。

 てか、仕事しろ。

 お前、一応タオ手のシナリオライターとキャラクターデザイナーだろ。

 そう思いつつ、いいねして『速いわ!』と返信しておく。

 その後は返信と配信タグでエゴサして見つけたツブートにいいねと返信を夕食までしていた。

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